童話を書いてみて思うこと ~とか言いつつ、名作を語りたいだけ~
童話初挑戦で思ったことを書いてます。
映画版クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲についてネタバレがあります。
童話祭にチャレンジしようと童話に初挑戦したんですが、書く前から難しいとは思っておりましたが、書いてみると思っていた以上に難しくて苦心してました。
絵本を卒業したお子さんが親とともに読んで、これなーにって聞きながら、十分に理解できるストーリーに、難しくない言い回しや文体、そこに重点をおいて書いていると、目の前の子どもに読み聞かせながら、「もう一回」と言ってもらえることが理想だと、一つ一つの言葉にいつも以上に気を使いました。
普段は削ることを意識して行間に籠める余韻のようなものに心血を注いでいるんですが、反対に噛み砕いた表現でどこまで情感豊かに、それでいてシンプルなメッセージをダイレクトに伝えられるか、子ども目線の文章でありながら、しっかりと大人にも響く表現とは何か、考えさせられることが多く、勉強になりましたね。
複雑な葛藤を描くと子どもには伝わらないかもしれないけれど、然れど、子どもにだって悩みはあるわけで、シンプルな感情の揺れを描写を重ねて、登場人物の感じたことを素直に伝えて、折り重ねていく。
悲しい、なぜ、悲しいのを繰り返して、悪いこと、してはいけないことをゆっくりと納得できるように丁寧に伝えながら、ストーリーは冗長にならず情緒に溢れるものに、なんてあれこれ考えながら書いてました。
力量不足でまだまだ向上の余地がたくさんありますが、童話って楽しいですね。
子ども向け作品を書くとき、胸にとめたい言葉がガンダムの富野監督が海のトリトンを指揮された後に話された言葉です。
「本気で作ったものは子供にも伝わる」
そして、富野監督はこのようなことも仰ってますね。
「子供向けだからと、子供騙しはするな、子供はそれを見抜く」
あー、確かにと思いますよね。子供って、鋭いですから、大人の本音を理解せずとも、感じとることがありますよね。
私は映画版クレヨンしんちゃん、オトナ帝国の逆襲が大好きなんですが、あれって、しんちゃんたちかすかべ防衛隊、つまり子供の視点。ひろし、かつての郷愁を捨てて今の幸せを掴み、ノスタルジーにつられて、子供に帰るも、守るべき者のためにもう一度、それを捨てる視点。そして、黒幕たち、郷愁に囚われたまま進めない人間の視点と多重構造になっていて、どの世代でも楽しめる作品ですよね。
しんちゃんの目線で見ている子供はいつも口うるさい大人たちが急に子供に帰ってはしゃぎ始め、ついには自分たちを捨てて出ていってしまう、日常が崩壊するホラーであり、そこから奪われた大人たちを取り戻す闘争と冒険のストーリーでワクワクしますよね。
ひろしの視点で見る、連れ添いの親たちは、かつての昭和の匂いに懐かしくノスタルジーに浸りますね。子供にはこれが理解出来ないために親たちが何故か喜んでいたり懐かしがるのか理解出来ずしんちゃんたちと共にホラーな気分が増幅され、親たちはひろしたちに共感してオトナ帝国の罠の巧妙さに惹き込まれる。
洗脳を解かれたひろしが現実の自分と在りし日の思い出の狭間で葛藤し、現実を選択して過去と決別を決める「ちくしょー、なんでここはこんなに懐かしいんだ、頭がおかしくなりそうだ」そう独白して必死に車を運転するシーンや、洗脳が解かれる際のひろしの子供時代からしんちゃんが誕生して家族を手に入れ、仕事に追われながらも幸せな生活を守る父親となった歴史を振り替えるシーンなど、お父さんたちは号泣でしょう、私はお父さんじゃないけど、毎回、このシーンで号泣です。
そして、子供たちは号泣する親をみて、真剣にこのシーンの意味を考える、やがて大人になるにつれて、その意味を理解して何度でも感動出来る訳ですね。
さらにはノスタルジーに囚われ、抜け出せない黒幕たち。
東京タワーのような構造物を駆け上がるしんちゃんとエレベーターで上へと昇る黒幕二人の対比は実に象徴的であり、未来に向かい傷付きながら走り「オラもおとなになりたいんだゾ」と叫ぶしんちゃんに子供は心からしんちゃん頑張れと応援して盛り上がれる。
そして大人たちは、かつて自分たちが大人に憧れて未来に希望を抱いて走っていた自分としんちゃんを重ねて、狡くなってエレベーターで昇る黒幕たちの姿に、子供たちを信じてしんちゃんに後を託すみさえやひろしの親としての姿に様々な感情を揺さぶられてまた号泣する。
自殺しようとする黒幕二人に自分たちだけで楽しい遊びをしようとしてると思い込んだしんちゃんが掛ける「ズルいゾ」の一言、この無邪気な一言に籠められる様々な意味こそが大人と子供を隔ており、同時に大人と子供を橋渡ししている。
たった4文字の5歳児のセリフに万感の想いと無限の意味を持たせた製作陣には感服するほかなく、私はこれ程、短文でありながら、ここまで凝縮された濃厚なスープのようなセリフを知らないのです。
この話は「大人になりたい子供」と「子供に戻りたい大人」、「未来に希望を抱く子供」と「かつての過去を捨てられない大人」の対比であり、積み上げた経験から、柵の中で逃げたくなるけど、今ある幸せを守らなければ行けないと踏ん張っている大人たちへのエールであり、そんな親たちの背中を追う子供たちに、大人って大変なんだよって教えて、それでも背中を優しく押してくれる、そんな作品で。
富野監督の言葉を借りて思うに、本気で見ている子供や親に真剣に向き合って本気で伝えようという熱量が凄い作品なんだと思うんですよね。
こんな作品が作れたらな~なんて妄想してしまいます。
見返すたびに、画角とか描写とかセリフとか音楽とか、まあ、伏線やら暗喩やらが凄いんですよね、この作品、子供騙しじゃ無いんですよ。子供に伝わらない表現がたくさんある、なのに子供でも楽しめるエンターテイメントになってて、親は号泣する感動大作になってる。こんな多重構造な世界をホントに良く作れると思ってしまいますね。
臼井儀人先生のクレヨンしんちゃんの懐の深さでもあるんでしょうか。
しんちゃんって、不真面目で生意気だけど、家族想いで優しくて、そして勇気に溢れたいい子ですもんね。
あんな可愛くて憎らしくて、最高な人気者を描けるようになりたいですな。
はい、わかると思いますが、童話を書いた感想と言う名のクレヨンしんちゃんレビューです(笑)
いいですよね、オトナ帝国の逆襲。