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プロローグ

 無数の『弾丸魔法』の雨が降り注ぎ、敵国の自立型魔導人形(ジェノサイド)が不気味なエンジン音を鳴らして戦場を駆け抜ける。

 荒れ果てた荒野の大地に赤い液体が染み渡り、美しい花の代わりに弾薬の花が咲く。

 どこまでも広く、青い空が黒く濁ったのは土ぼこりと爆煙によって覆い被されたためだ。


「クソッ! ふざけるな!」

 

 訓練兵のロイ=フィルバートは近くにあった岩を殴りつけた。彼の拳からはタラリと血が流れ、じんわりと痛みが襲う。


「どうなってんだよ! 」


 自国の勝利で終わると思われていた戦争だったが、実際に目に映るのは敵国が自分達を蹂躙する姿だ。


 ロイの魔力を検知した一機のジェノサイドがロイ目掛けて一撃を放つ。とっさに避けるも、爆風によって吹き飛ばされた。


 ジェノサイドは全長三メートル。正面に口径70ミリの主砲を構え、両側面に5.56ミリの副砲を二丁、背面に魔力検知のためのレーダーを搭載した自立型魔導人形の総称だ。

 起伏のある地面を走り抜けるため、4本の脚部と車輪との間に特殊なバネを入れ、死体を踏みつけたとしても走り抜けることを可能とした殺戮兵器である。


 ジェノサイドの時速は55キロ。とても逃げ切れる速度ではない。数多くの兵士が抵抗する間も与えられずに肉塊とされた。


(何なんだよ、あれは!)


 爆風によって吹き飛ばされたロイだったが、一瞬にしてその距離を縮められた。

 もう死ぬ、そう覚悟した刹那、ジェノサイドが動きを止めた。


「ロイ! 逃げろ!!」


 級友であるアランがライフルを片手に叫んだ。ジェノサイドはすでに標的をロイからライフルを持った男へと変更している。

 アランはニ、三発銃弾を放つも、分厚い装甲に覆われた人形には効かない。


「アラン、お前が逃げろ!」

「もう無理だ! いいから行きやがれクソ野郎!」

「ふざけるなよ!」


 どこか諦めた表情をしたアランは微笑みながら、


「なぁ、俺が死んだらペンダントを妹に届けてくれ、頼んだぞ」


 そう言ってアランは殺戮兵器に向かって走り出し、副砲を掴んだ。無数の弾丸がアランを貫いたが、彼の手は離れない。そして、手にしていたスイッチを押すと、ジェノサイドもろとも爆発した。

 おそらく初めから勝てないと分かって、腰に爆薬を巻いていたのだろう。


──何やってんだよ、アラン。お前の妹に顔向け出来ないじゃないかよ。


 ロイは親友の死を見届けると、走り出した。彼の犠牲を無駄にしないためにも。


 帝国に自立型魔導人形は存在しない。理論上制作は可能だと言われ続けてきたのだが、それを動かすことのできる魔道士と魔道具の核である氷魔石が存在しないのだ。

 その技術力を持っている共和国は帝国の数十年先を行く。


 逃げる最中、1発の弾丸がロイの足を貫いた。その場に倒れ込むように崩れ落ち、地に頭をつけた。


「クソッ! 動け、動けよ!」


 右足から痛みを感じる。じんわりと痛みが広がるも、地面を這いながらその足を引きずって進む。


 周囲からは悲鳴や怒号やらが響き渡っていた。ロイは手にしていたライフルを支えに立ち上がろうとする。


 共和国による新型兵器の投入により、帝国陸軍は半壊している。遥か後方にあったラグナル戦線総司令部は炎に包まれ、誰が見ても敗戦だと言える。


(このまま死んでたまるかよ!)


 何とかして立ち上がったロイだが、再び弾丸をくらってその場で膝をついた。口から出る血は止まらない。


 どうにか、どうにかして一矢報いようと、『魔力探索(リサーチ)』をし、敵将を探す。


 すると、遥かおよそ500メートル先に金色の装飾が施された一回り大きいジェノサイドに乗っている男を見つけた。

 スキンヘッドの頭部に少し可愛げのある小さなヒゲ。屈強な体つきに顔にある幾つもの傷は彼が歴戦の猛者であることを物語っている。


 奴だけは、奴だけは何としてでも殺さなければならない。アランを殺した敵の将だけは。


 ロイは一度大きく深呼吸をした後、狙いを定めた。

 

──当たるか? いや、少し遠いな。


 いつのまにか、戦場への恐怖と敵への怒りは収まっていた。頭の中にあるのは敵将を討ち取ることのみ。

 ゆっくりと引き金に人差し指を当てる。


 そして──。


 パン! と乾いた音が鳴った。ロイの放った弾丸は目前にいる敵をすり抜け、敵将のみを狙っている。弾丸には確実に仕留めるために近距離用の『弾丸魔法』がかけられているので当てることは難しい。


 しかし、


「ドルサック少佐!」


 周囲に待機していた側近か護衛らしき人物達が彼の名前を呼び、近寄る。


「やった……のか?」


 ドルサックと呼ばれた男の頭部は破裂し、原型すらない。これで少しは友軍が退却する時間稼ぎくらいはできただろうと安心する。


 だが、安心したのも束の間、ドルサックがやられてから数秒動きを止めていたジェノサイド達が再び動きだした。

 そのうちの一機がドルサックを討ち取ったロイを探知し、近寄る。


 ジェノサイドはロイの前で動きを止め、機体に搭載されている70ミリの主砲をロイの頭部に向けた。


 自立型魔導人形と言えど、司令官の指示が無ければ行動出来ないと思っていたのに。予想は外れていた。共和国は遥か未来の技術を持っていたのだ。


 ロイはついに覚悟を決めた。すでに腹部の血が大量に流れ出ており、もう動くことすらままならない。


「やるならやりやがれ!!」


 刹那、乾いた音がロイの耳に響いた。無数の弾丸が飛び交うこの戦場でたった1発。目の前にいるジェノサイドではなく、まるで他の者が自分の頭部を()()()()撃ち抜いたかのように。

 

 ロイは意識を失った。事切れる最後の瞬間、チラッと目に映ったのは帝国陸軍の軍服を身に纏った銀髪の少女だった。

 


「あら、もう死んだの。まぁ、いいや。コイツ(ロイ)は私の()()になるわけだし」


 赤く輝く瞳の少女が一丁の銃をロイに向けて立っていた。銃口からの煙は彼女がロイを撃ったことを物語っている。


()()()()()。素質がありそうね」


 笑みを浮かべながらそう言い放ったあと、突然背を向ける彼女。

 腰まで伸びた長い銀色の髪の毛が、ワンテンポ遅れてその背中にはらりと舞ったのだった。


 

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