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14.魅力的な彼女

 みなとも打ち解けられたグレースは、さらに色々なことをみなから学び取り、どんどん己を磨いていった。凛としたたたずまいに愛らしさが加わった彼女は、驚くほど人目を引く魅力的な令嬢に変貌を遂げていた。


 ケネスに対する私たちの働きかけも、今のところ順調のようだった。年頃の乙女がほんの少し引くような噂をでっちあげたことで、前よりもケネスに対するお誘いは減っているらしい。代わりに、彼は男友達とつるんでゲームや狩りといった男らしい遊びに興じていることが増えてきたようだった。


 今のところ、ケネスの側に大きな動きはない。ただそれでも、時間がたてばケネスがどこぞに目移りしないとも限らない。早く、今の素敵なグレースを彼に会わせてやるべきだろう。


 そう考えた私は、グレースを自室に呼んだ。そろそろ話しておきたいことがあったのだ。


「ミランダさん、どういった御用でしょうか? なんだか、難しい顔をされているようですけれど」


 嬉しそうな顔で部屋を訪れた彼女は、私の眉間に寄っていたしわを見て心配そうな顔をする。


「ああグレース、気にしないで。それより、今日の笑顔もとても素敵ね」


 たちまちグレースは真っ赤になり、両手で頬を押さえた。恥じらいつつも、どこか誇らしさを伴った笑みがその顔に浮かぶ。


「私が自然に笑えるようになったのはミランダさんのおかげです。それに、ここのみなさまのおかげでより魅力的な立ち居振る舞いを学ぶこともできました」


「あなたは本当に、努力家なのね。この短期間にここまで変われるとは思わなかったわ。でも、あの提案を続けるのは大変ではないの?」


 そう笑いかけると彼女はしどろもどろになりながらも、真面目に答えてくる。


「いえ、その……最近ではようやく慣れてきて、ミランダさんの提案を意識しなくても自然に笑えるようになってきました」


「それはいいことだわ。……だったら、少し早いけれどここを出た方がいいかもしれないわね」


 私がそう告げると、彼女は一転して悲痛な顔をした。とても自然で、そして見る者の哀れを誘う表情だった。


「でも、私……まだここで教わることが、たくさんあって……」


「そうね。私たちも、まだまだあなたに教えてあげたいことがあるわ。でも、あまり長いことケネスを放っておくのも、不安が残るのよ」


 そう指摘すると、彼女ははっとした顔になり、すぐに口をつぐんだ。彼女自身、心当たりは嫌というほどあるのだろう。


「でも、今のあなたはすっかり魅力的になったわ。自信を持って。きっと、ケネスはあなたのとりこになるわよ」


 片目をつぶって笑いかけても、彼女の憂いは晴れなかった。不安にうつむく彼女を愛おしく思いながら、さらに言葉を重ねた。


「心配しなくても大丈夫よ、あなたは一人じゃないのだから。困ったら、いつでも私たちを頼ってちょうだい。またここに来てもいいし、手紙でも助言してあげられるわ」


「ミランダさん……」


 彼女は途方に暮れた顔のまま、ぎゅっと両手を胸の前で握りしめた。そんな彼女を元気づけるように、明るく言う。


「情けない顔をしないの。今まで私たちが頑張ってきた成果を、今こそ見せる時よ。張り切っていきましょう」


「……はい!」


 元気よく答えた彼女の目はうっすらと潤んでいたが、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。






 グレースが修道院を去ってからというもの、みなはずっと落ち着かない様子だった。依然としてケネスの動きを封じる工作は続けているし、グレースとケネスについての情報も集めて続けている。


 けれどあの二人がどうなったかについて決定的な情報が得られないまま、ただ時間だけが過ぎていたのだ。


「ケネスはおとなしくしてるみたいだし、グレースは頑張っているんでしょうけど……」


「結局どうなったか分からないままだと、どうにも落ち着かないのよねえ」


「いずれ、グレースから連絡が来るとは思うのだけれど……ただ待っているのって、もどかしいわね」


 再開された朝の報告会の時に、そんな意見が飛び交うようになっていた。そしてそのたび、みなは一斉に私を見るのだ。グレースから手紙は来ていないの? と言って。私が首を横に振ると、みな露骨にがっかりした顔をする。毎朝これの繰り返しだ。


 けれどある朝、ようやく私はそんな期待に応えることができた。一通の手紙を掲げてみせると、思い思いの姿勢で座っていたみなが一斉に立ち上がろうとする。


「ほら、みんなお待ちかねの手紙が来たわよ。……ヘレナからだけど」


 グレースがここに来るきっかけを作った張本人にして私たちの仲間、ヘレナは相変わらずこまめに連絡をよこしてくれていた。この手紙もまたいつもの報告なのだろうと、みなが浮かした腰を下ろそうとした。その顔には少しだけ、落胆のようなものが浮かんでいる。


「がっかりするのはまだ早いわよ。彼女はちゃんと、グレースについて教えてくれてるんだから」


 そうして手紙を読み上げる。みなはまた目を輝かせ、食い入るようにこちらを見ていた。


『グレースは見違えるほど魅力的になりました。これもみなさまのおかげです。けれど』


 思わせぶりに言葉を切ると、みながさらに前のめりになった。


『あと一歩、何かが足りない気がするんです。グレースはしっかりとケネス様を捕まえることに成功しました。けれど、何と言うか……恋の甘さが足りない、そんな気がするんです。そう、私とロディの間にあるような、あんな甘さが』


 相談ついでにのろけているヘレナの言葉に、一斉に冷やかしの声が上がった。ヘレナは愛しいロディと婚約が決まり、今は二人一緒に甘やかな日々を過ごしていると聞いている。そんな彼女の目には、グレースとケネスの間には甘さが足りない、そう映っているようだった。


「これは何とかしてあげたいわね」


「そうそう、グレースはあんなにケネスにぞっこんなのに、甘さが足りないなんて悲しすぎるわ」


「グレース、頑張りましたもんね。やっぱりご褒美は必要ですよね」


 そんなことを口々にささやきあったかと思うと、みなはそのまま顔を突き合わせ、ひそひそと相談を始めてしまった。なぜか私は置き去りにされている。時々ちらちらとこちらを見ては、また声をひそめて話し合っているが、私を巻き込もうとはしていない。一体何を考えているのだろう。


 やがて、みなは一斉にこちらを向き、一様ににんまりとした笑みを浮かべた。


「ミランダ、やっぱりここはあなたが一肌脱ぐべきだと思うの」


「グレースが一番なついていたのはあなただし、ちょうどいいわよね」


 付き合いの長い私には分かる。これは明らかに悪だくみをしている顔だ。どうやら彼女たちは、何か珍妙なことを思いついたらしい。


 私は小さくため息をつくと、みなが自信満々に語る作戦に耳を傾けた。

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