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窓の向こうの異世界 前編  作者: マジコ
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こんにちは異世界 その5

 官庁街を出ると飲食店がひしめく道に出た。


「色々あるね。」

「この町で一番大きな飲食店街てすよ。」


 きょろきょろしている優花を微笑ましげにクスは見ていた。時間が昼食時なのもあり、人で混雑していた。優花はクスとはぐれないように人混みをかき分けていくクスの後ろにぴったりと付いて行った。

 しばらく歩いて行くとクスはある喫茶店の前で立ち止まった。どうやらここのようであった。

 その喫茶店はそこそこの規模で外にも席がある。パラソルの下でお洒落な人たちが寛ぎながら食事をしている。その様子はテレビで見た欧米の光景のようであった。


「ここ?」

「そうです。研究員の間でも評判の喫茶店ですよ。私も時々来るんですよ。」

「へえ、じゃあ美味しいんだろうね。」

「はい、では入りましょう。」


 優花とクスは喫茶店へと入った。

 この喫茶店の内装は木造の渋い大人な雰囲気がある。高校生とかがげらげらと喋ったりする様な雰囲気ではない。静かに上品に時間を楽しむ空間だ。優花は大人しくしようと思った。


「いらっしゃいませ。」


 店員さんがやって来た。質素なメイド服だ。可愛い。

 クスは慣れた様に話している。それを見た優花はクスが大人の女性に見えた。流石は若干10歳で研究員を務めているだけのことはある。その優雅さは尊敬する。


「こちらへどうぞ。」


 店員に案内され優花とクスは二人用の席に向かい合って座った。優花は少し緊張していた。


「ふふ。」

「えっ!?私なんか変?」


 クスが笑うので優花は慌てふためいた。自分の振る舞いに何か変なところがあっただろうか。ぐるぐると頭の中が混乱しそうになる。


「いや何か緊張しているようなので、緊張する様な場所じゃないですよ。」

「そう言われても私こういう場所初めてだから。」

「まぁ、確かに子供が入るにはちょっと緊張しそうですね。」

「クスだって子供じゃない。クスはいつもこういう店に行くの?」

「たまにですよ。普段は朝にパンを買って研究室で昼食を食べたりお茶したりしてますよ。優花さんは喫茶店とか行かないのですか?」

「私の世界では基本的に子供だけではあまり行かないわね。」


 しかも子供だけで行くような店ではない。親と一緒だとファーストフードやレストランとかに行くだろう。昼間から小学生の年齢の子供が行くというのは中々奇異な光景だろう。


「まぁ、こっちの世界の人たちもそんな行かないないのかな。」

「そうでしょう。今だって子供は私たちだけよ。」


 そう言いながら優花は目立たないように周りを見た。確かに店内にいる客は大人の女性や仕事の合間に寄ったような様子の大人の男性しかいない。子供は優花とクスだけだある。


「でも、私こういう雰囲気好きですけどね。」


 そう言ってにこにこしたいるクスを見て優花も確かにと思った。穏やかでゆっくりと流れる時間。大人たちの束の間の憩いの場所。こういう所で過ごす時間は幸せで尊く感じられる。外の喧騒が嘘のようにこの喫茶店の中はゆったりとしていた。


「優花さん何にしますか?」

「カフェオレなんかあるかな。」

「あっ、これですね。」


 優花は何故かこの世界の声による言葉は分かるが、文字にされた言葉は分からなかった。なので、クスにメニュー表を見てもらい決めることにした。


「私はそれにする。後は食べ物は何があるの?」

「サンドイッチとかありますよ。」

「種類は何があるの?」

「たまごとかハムチーズとかサラダとかです。」

「じゃあ、たまごがいいかな。」

「では、注文しますね。」


 クスは店員を呼んで注文した。その姿はやはり大人っぽさを優花に感じさせた。


「かしこまりました。少々お待ち下さい。」


 そう言って店員の女性は優雅な足取りで歩いて行った。店員が行くと優花はクスに聞いた。


「クスはコーヒーなんて大人ね。」

「徹夜する時は欠かさなくて。」

「そうしてたら普段からも飲むようになったんだ。」

「まぁ、そんなとこです。」


 大人びてるなと優花は思った。自分はまだ、コーヒーというのが苦手だった。試しに飲んだことはあるが、その時は苦くて飲み切れなかった。


「何かクスって趣きのある生き方してるね。」

「そんなことないですよ。そうだ!優花さんの世界の話を聞かせてくださいよ。知的好奇心があります。」


 優花は自分の世界の話をした。どんな物があり、どんな人がいて、どんな世界が広がっているのか色々な話をした。それを聞くクスは興味津々で楽しそうだった。クスの研究は魔法による空間転移だが、そこは研究者。知らないことを知るのが楽しくて仕方がないという様子であった。注文が来たあともこの話は続いた。どのくらい話したかわからなくなった頃、優花がそろそろ会計しようと言った。このままでは魔法の練習時間がなくなると思ったからである。


「そうですね。行きましょうか。」


 そう言うとクスが立ち上がったので、優花も立った。そして、レジに向かう。それに気づいた店員が先回りしてレジに入った。そのためクスの会計は順調に終わった。自然の流れといった感じである。

 食事を終えたクスと優花は仕事に戻る人たちを避けながら町の門へと向かった。少し暑い町中は妙に味わい深い雰囲気を感じさせる。住んでない町に行った時の気分である。

 町の門から外に出た二人は昨日と同じ丘に行き、練習を始めた。また、引けた魔法の特訓である。


「はっ!」


 火の粉の射程が少し伸びた。


「上達しましたね。」

「まだまだよ。」

「でも、その魔法石はそんなに強力なものではないよ。着火できるくらいですよ。」

「そうなの!?」

「あれ言ってませんでしたか?」

「言ってないよう。じゃあ、これで。」 

「出来るようになりましたね。」


 2日目にして割とあっさりと優花は魔法を使えるようになった。

 喜びに満ち溢れた優花は飛び跳ねて喜んでいた。物語の世界のことを現実にできるようになったのだ。これは心の奥底から喜びが湧いてくるのであった。


「わーい!わーい!」

「優花さん嬉しそうですね。」

「そりゃそうよ。魔法が使えるなんて私の住む世界では考えられない事だから。」

「そうでしたね。」

「さあさあ次の魔法を練習しよう。」


 今ならすぐに次の魔法も使えるようになりそうな気が優花はしていた。残りは回復魔法とホウキで飛ぶ魔法の2つである。優花としてはホウキで飛ぶというのをやってみたい。空を飛ぶなど面白いに決まってる。早くしたいと前のめり気味になっている優花にクスがある提案をした。


「魔法の練習もいいですけど、私の世界についても知りたくないですか?」

「いやあ、別に。また何で急に?」

「さっき喫茶店で優花さんの世界の話をしたじゃないですか。」

「まぁね。」

「ですから私のこの世界についても優花さんに知ってほしいなあと思いまして。」

「まぁ、良いけど。町の様子ももっと知りたいし。」

「きっともっと魔法を使いたくなりますよ。」

「そうだね。」


 何か教育ママな印象を優花は受けた。断っても強引に連れて行かれるだろうと悟った。なら適当に相槌を打っていればいいかなと優花は思った。


「で、どこに行くの?」

「町立の博物館です!」


 クスと優花は町に戻り、博物館へと向かった。歩きながら優花はちょっと楽しみであった。優花は割と学問というのが好きだったりする。特に宇宙とか考古学とかが好きであった。部屋にも小説以外のそうした本が置いてある。異世界の博物館。一体どんな収蔵品があるのだろうか。魔法使いの武勇伝とか知れたらいいなと優花は思った。

 

「博物館ってやっぱり遺物とかあったりするの?」


 歩きながら優花はクスに聞いた。火の粉を出した手がまだ温かい。


「遺物もありますし、魔女革命とかの紹介コーナーとかもありますよ。」

「魔女革命?」

「今の社会になるきっかけの革命ですよ。詳しくは博物館に行ってから説明しますよ。」

「何か気になるワードだなぁ。」

「優花さんは歴史に興味があるのですか?」

「詳しくはないけど結構好きよ。」


 学校で習う程度のことは良く知っているし、テレビでも父と一緒に見たりしている。そのため学校での社会の成績は結構良かったりする。上野の博物館にも足を伸ばしたこともある。縄文時代の展示をしていると知り、見に行ったのである。


「何か意外ですね。」

「頭悪そうということ?」


 南にも言われたことである。


「そういうことです。」

「言うわね。」

「へへ。」

「博物館に着いたら中を案内してね。」

「いいですよ。私も知識人の端くれ、その道の人ほどではないですが、人並み以上には知識ありますよ。」

「それは楽しみね。」


 優花は少々大げさな感じで言った。クスはそれを見て微笑んだ。大げさなその反応が何だか可笑しかったのであった。

 二人は会って数日なのに原宿とかを歩く女友人同士のように仲睦まじく楽しげに会話しながら歩いている。優花にとってはとても気楽に話せる相手である。一方のクスとしても優花は親しくできている。同年代の知り合いはほぼいないクスにとっては希少な存在であった。互いに気の置けない仲となっていてとても良好な間柄であった。2人ともにこの関係を長く続けたいと、せっかく組み立てたこの関係を大事にしたいのだ。

 2人がこの町の目抜き通りを歩いていると公園が見えてきた。


「この公園を抜けた先に博物館はありますよ。」


 その公園はアスレチック的な遊具はなく、ただ草木花が生育していたり、腰掛けるベンチがあったりする憩いの場といった感じである。中に入ると原っぱがあり、家族連れや老夫婦何かがのんびりと思い思いに過ごしていた。こういった所で食べる食事も最高なんだよなあと優花は思っていた。今度、ここでゆっくりと過ごそうと提案しようと優花は心の中で誓った。小鳥の囀り仄かに聴こえてくる公園を優花とクスは進んだ。しばらく歩いて行くと公園の出口に着いた。


「ほら見えてきましたよ。」


 優花はクスが由比指した方を見た。そこには荘厳といった言葉がぴったりな周囲よりも一際威厳のある建物が聳えていた。聳えていたと言っても5、6階くらいの高さであるが。

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