こんにちは異世界 その4
「えい!」
優花の手の魔法石が光り火の粉が飛んだ。しかし、すぐに消えた。
「うーん中々上手く行かないな。」
「初めはみんなそうですよね。コツを掴めば出来ますよ。」
とはいえかれこれ1時間こうして火の粉を飛ばしていた。
やり方としては心の中に魔法をイメージして目的の方向に手に握った魔法石を向けて放つ。簡単なことでコツを掴めば幼子でも出来るとクスは言う。そう言われると優花としては何とか今日中に出来るようになりたいと思うのもまた当然であった。
「えい!」
やはりちょっと火が出るもすぐに消えてしまう。
「うーん、何がいけないかなぁ。」
「そもそも優花さんは魔法を初めて使うから何となくなやり方がわかってないんですよ。」
「悔しいなぁ。」
「最初はみんなそうですから。」
気遣いがまた心が痛む優花であった。
「でも、私くらいの年齢の人はもうできてるんでしょう?」
「今の子は5歳前後で親に魔法石を買ってもらって練習を始めますから。」
「それでいくつくらいで出来るようになるの?」
「6歳くらい。」
「うわぁーー。」
優花は悔しすくて仕方がなかった。泣きたくなる。
クスは西に目を向けると日が沈み始めいたので優花に言った。
「そろそろ暗くなります。明日また練習しましょう。」
「いや!」
優花はクスの言うことに拒絶した。納得行かないのだ。
「優花さん。意地になっても上達しませんよ。ゆっくり時間をかけてやりましょう。大丈夫ですよ。すぐに出来るようになります。」
クスの心優しい気遣いにこれ以上抵抗するのもあれなので優花は帰ることにした。二人はのんびりした歩調で町へと戻った。優花としては魔法を使えないのは確かに悔しいが、何だか心地の良い日になったと思った。西に太陽が沈むのは優花の世界と同じ。宵の口の中で優花は今日の夕ご飯は何かなと考えていた。
町に戻ると人々は家路に着いていた。今日の晩飯が楽しみなのだろう子どもたちはにこやかに走って帰っていた。煙突からはもくもくと煙が吐き出されており、きっと、夕食の準備をしているのだろうと思われた。
クスの研究室のある研究所は官庁街の隅にある。みんなが家に帰るのと逆の方向に歩いて行く。如何にも高価そうなスーツを着ている人たちを見かける。官僚かなと優花は思っていた。
研究所に到着した二人はクスの研究室に入った。
「じゃあ、また明日!」
「はい、明日こそは出来るようになりましょう。」
こうして優花は家に帰った。
窓から出てくると外は真っ暗だった。あっちとこっちで時間の進み方が違うのだろうか。
そんなことを考えているとトイレに行きたくなった。
「トイレトイレ。」
ドアを開けて廊下に出た時、誰かにぶつかった。懐かしい温もりを感じさせる接触感であった。顔をそれから離し上を見るとそこには笑顔の母がいた。
「あ、あはは。」
優花は冷や汗をかいた。目をぎょっとさせて母の脇からすり抜けて逃げようとした。しかし、あと一歩のところで、優花は母に首根っこを掴まれた。
「優花!!」
「はい!」
「今まで何をしていた!」
「あのうそのう勉強?」
可愛く言ってみた。しかし、それは火に油を注ぐことになった。
「嘘おっしゃい!たく、夕飯が出来たと呼んでんのに。どうせ何処かに遊びに行っていたんでしょ!」
「ごめんなさい。」
その日、優花は腹をすかして寝床につくことにたなった。
次の日、優花は半日以上振りの食事をとった。椅子に座りながらの朝食である。
「ああ、幸せ。」
「何をそんな大げさな。」
母も自分の分のトーストを皿に乗せて優花の向かい側の椅子に座った。トーストを頬張るその顔は何だか貫禄がある。ちなみに父はもう仕事に行っている。毎朝、電車通勤で大変だなと優花は思っていた。そうして毎日働いている父はを優花は家族のために頑張っていると感謝している。
朝食を食べ終え食事の愛おしさを感じていた優花は時計を見るともう学校に行かなくてはいけない時間になっていた。
「私、行くね。」
「はいはいいってらっしゃ~い。」
食器を流し台に置き、玄関に置いておいたランドセルを背負い優花は学校へと向かった。
小学校へと登校していると阿東南を見つけた。優花の同級生で友人である。下校時もよく一緒に帰る。
「南。」
「おう、優花おはよう。」
「おはよう。」
朝の挨拶をすると二人はどちらともなく並んで登校し始めた。何とも微笑ましい光景であった。朝の通学路は子どもたちが大勢歩いていた。近所に団地があるのも影響していよう。ちなみに南もその団地に住んでいる。
「でさあ、ん?どうした優花?」
「いや、なんでもないよ。」
一緒に登校し始めたはいいもの。優花は魔法のことで頭が一杯だった。どうやったら上手くいくのか、他の魔法は使えるだろうかなど、すっかり魔法に夢中であった。横にいて昨日のテレビの話しをする南の言っていることなど全く耳に入ってなかった。そもそも昨日優花は帰宅が遅れて母親に叱られてへこみ、夕飯は抜きになったので自室に籠もり、空腹と戦っていてテレビなど見てない。怒っている母の前でテレビを見る勇気など優花にはなかった。
南は怪訝な顔をしていた。そして、すぐに笑顔となった。
「何か悩んでいるなら聞くよ?」
「南〜!」
優花は南に抱きついた。別に泣いてないが。南はよしよしと優花の肩をポンポンと叩いた。何か優花がぶつかった時にやる恒例行事な会話である。以前にもクラスの人とのトラブルがあった時にこの動きをやった。こうすることで優花としては安心するのである。1人ではない。そう確認することが出来るのだ。周りの他の学生から変な目で見られ始めたので優花と南はまた元通り歩いていた。
「言えること?」
「うーんと南なら良い気がするけど、でも、巻き込みたくないから今回は自力で解決、いや、1人じゃないし、何とかするよ。」
「ほう、優花のその人は誰なの?私の知っている人?」
「いや、優花の知らない人だよ。」
「ふーん、私の知らない友人か。」
「何?焼いてるの?」
南は優花のことを強く想っている。だからかちょっと嫉妬深いことがある。特に一番の友人でいたいというのは譲れない事みたいである。
「そういうわけではないけど。」
「南のは心配しなくて大丈夫だよ。」
「ふーん。分かった。」
その後は二人して他愛もない話で盛り上がった。
下校時も南と帰った優花は家に帰宅するとすぐに異世界へと窓を抜けて行った。また、クスの研究室に出るとクスが机に向かって何かに没頭していた。邪魔するのも悪いので隅で大人しくしていることにした。しばし、待っているとゆっくりと伸びしてお腹を擦っていた。お腹が空いたのだろう。後ろを振り向いてきてそしてようやく優花に気がついたようだ。
「今日は来るのが早いですね。」
「昨日と同じ時間に通ってきたのだけどね。」
「とするとこっちとあっちで時間の進み方が違うのかしら。」
「うーんかもね。そうすると帰宅時間を調整しても意味がないということだね。」
非常に困るようなことであったが、優花はそれほど悩まなかった。家に帰る時間よりも魔法を使うことの方が優花にとって重要だからである。そっちの方に意識は飛んでいた。
「色々研究のしがいがありそうです。」
「今、こっちは何時くらいかな。」
「12時でお昼時ですね。」
そう言うとクスはお腹を抑えた。お腹を空かしている合図のようであった。
「私はお昼ごはん食べているけど、クスはまだか。」
「ええそうなんですよ。そうだ、優花さんはこっちの世界で食事をしたことないですよね。」
「まぁね。」
昨日、来た時も優花は魔法石の店に行き、町の外の丘で魔法の練習しただけである。食事はしていない。
「じゃあ、軽食でも食べに行きましょうよ。」
「そうねおやつを食べて来なかったから今、少し小腹が空いてきているのよね。」
「なら、行きましょう。」
優花はクスから先日借りた服に着替えて、クスは外行きの準備をした。二人共お出かけの準備に時間がかからない方なので、すぐに出発の準備が整った。
「では、行きましょう。」
「こっちはどんな食べ物があるのかな。」
優花はわくわくしていた。魔法のある世界の食事、優花の世界とは異なる食生活なのではないか。先日、魔法石の店に行く途中にも食事処はあったが、何を売っているのかは見てなかった。
町に出た二人は官庁街を歩いた。お昼時なので昼休憩中の役人たちが大勢いた。研究所の人も昼休憩のようで町に出る時に結構な人数を見かけた。研究所の人たちを見て優花はふと疑問が湧いた。
「ねぇ、クスって今、いくつ?」
見るからにクスは大人とは思えなかった。自分と同世代に見える。実は子供っぽいけど、実際は大人だったりするのだろうかと優花は思った。でも、話していると幼さを感じさせる面もある。失礼かもしれない、触れられたくない事かもしれないが、聞いておきたい気持ちが優先した。
「私は10歳ですよ。」
「えっ!?私よりも一つ下なの?」
「優花さんって11歳なのですか?」
「そうだけど。」
クスは意外そうな顔をしていた。そういえば具体的に年齢の話をしたことはなかった。互いに多分これくらいだろうで会話していた。そのため実際の年齢を知らずに憶測で話していたのであった。
「もっと年上だと思ってました。」
そんなに私は大人っぽいのかなと優花は思った。大人の女性。悪くない。
「いくつくらいだと思ってたの?」
「12,3歳ですかね。」
「ああ、そう。」
それほど上に思われてなくてさっきの思考が恥ずかしく思えた。優花は逸れた話の軌道を戻すことにした。
「その年でなんで研究員してるの?」
「私、飛び級で学校を卒業しているんですよ。」
「何それ天才!?」
「まぁ、人からはそう呼ばれてましたね。」
「すごい初めて見た!」
優花は興奮気味に言った。
「優花さんの世界にはいないんですか?」
「いるけど間近で見るのは初めて!」
「そんな良いものじゃないですよ。」
そう言うとクスは暗い顔をした。優花はこれはあまり触れない方が良いなと判断した。人からは羨ましいと思われても本人としては嫌なことはままあることだ。
二人は会話をしながら官庁街を出た。