こんにちは異世界 その3
「こっちですよ優花さん。」
クスの案内で優花は魔法石の店に向かって行た。その店は目抜き通りから脇道に入った所にある小さな店であまり知られてないらしい。規模の大きい店と比べると商品の種類は少ないが、品質は確かである。お得意様には著名な魔法使いもいるそうである。
人の多いメインストリートを抜け脇道に入るとそこに店はあった。その名はシーハウス。
優花は率直に汚えなと思った。怪しげ変なものを売りつけられるのではないかと思った。こういうラーメン屋は不味いだろうなと連想させるそんな佇まいであった。
「中々個性的な外観ね。」
「優花さん、正直に言って良いですよ。」
「じゃあ、言いましょう。ボロいなあ。」
「そうですよね。私も初めて師匠に連れて来てもらった時は怪しげな店だと思いました。でも、品質は確かですよ。」
「隠れた名店ということか。」
「そんな所ですね。入りましょう。」
優花はクスに先導されその怪しげな店に入った。
「コウゾウさん。」
クスが大きめの声で店主の名を呼ぶと奥から返事があった。
一方、優花は棚にある魔法石に興味津々であった。色々な色の魔法石があり、そのそれぞれの効果がどんなものか気になってしょうがないようであった。こういうのを私はこの世界に期待していたのだと湧き上がる好奇心の中で思っていた。
優花が棚に置いてある魔法石を物色していると奥からコウゾウさんが出て来た。
「おう、クスちゃん久しぶり。」
「お久しぶりですコウゾウさん。」
馴染みがあるようで二人は気安く話し始めた。
「どうした今日は何かお求めで?」
「そうです。とは言っても私が欲しいものというわけではないですが。」
クスは棚の魔法石を物色している優花に視線を移した。それに合わせてコウゾウも優花を見た。優花は気づききょとんとしていた。何故こちらを見るのかという心が見える反応であった。
「そうか、今日はそちらの嬢ちゃんの魔法石を買いに来たのだな。」
「はい、彼女は優花と言います。最近、仲良くなったのです。魔法石を使ったことがないそうで、今日は何個か見繕ってもらえますか?」
「任せな。」
そう言うとコウゾウはカウンターから出て来て優花のところに行った。
「優花ちゃん、ようこそ。早速、君の希望を聞こうと思う。どういった魔法石が欲しいかい?」
優花は思案した。やっぱり火系統の魔法とか使ってみたい。後、空を飛びたい。やってみたいことは無数にあった。
「ねぇ、クス何個まで買おう。」
「取り敢えず3個買ってみてはいかがでしょうか。」
「でも、私、この世界の通貨持ってないよ。」
「私が出しますよ。」
「そんなの悪いよ。」
流石にそれは申し訳ない。恩返しも出来ない。しかし、クスはにこにこして言った。
「大丈夫です。私からの出会いの記念です。」
「優花ちゃん、貰ってやりなよ。」
「うーん、分かった。クスありがとう。」
「いえいえ。」
結果、クスの奢りで優花は魔法石を3個買うことにした。
「どうしようかなあ。」
優花は悩んだ。あれとあれとと考え込んでいた。
「優花ちゃんは魔法石を使ったことないんだよな。」
「そうです。だから、どれにしたら良いか分からなくて。」
「うーんそうだな。まずは空中浮遊の魔法石は買っておけ。これを箒に付ければ空を飛べるぞ。」
「それはいいね。じゃあ、それを一つ。」
「まいど。」
「後は回復魔法とそうだ火系統の魔法を使えるのないかな。」
使ってみたい魔法を2つ上げた。
「それなら初心者向けのがある。」
コウゾウは棚から2つの魔法石を取り出して優花に渡した。赤色の魔法石が火系統の魔法が使え、緑の色の魔法石が回復魔法が使える。
「ありがとう。」
「これで決まりだな。じゃあ、会計しようか。」
「はい。」
クスが財布を出して魔法石3つを購入した。優花はこの世界の貨幣価値は分からないが、出した硬貨のデザインと量を考えると決して安いわけではなさそうであった。何だか申し訳ない気持ちに優花はなった。
「何か悪いわね。」
「大丈夫てすよ。」
優花とクスは店を後にして町から少し離れた丘に行った。歩いて初めて気づいたが、この町は巨大な壁で周囲を覆っている。古い町の構造をしているのだろう。町の出入り口の関所に来ると人が列を成していた。100人くらいいるだろうか。
「人多いね。」
「商売や近隣の村に出かける人でいっぱいなのよ。」
「へぇ。ところでやっぱり移動手段は徒歩か馬なの?」
ふと思ったのだ。クスの研究室にあった電球のような魔道具があるようにこの世界には優花が住んでいる世界で科学によって開発された道具が魔法による似たようなものが、作られてないか気になったのである。電車とか車のようなものがあるのだろうか。
「魔力列車というのがありますね。あと、開発されたばかりですが、魔法石を原動力にした車という乗り物もあります。」
「やっぱりあるんだ。」
その話を聞いても然程驚かなかった。予想していたからだ。科学ではなく魔法が発達しているとはいえ同じ人間。考えることすなわち必要として発明されるものは似通っているのだ。だからインフラなどの人間が普遍的に欲しがる便利さを優花の世界の住人と同じ様に求めるのだ。そのため電車、汽車のよう列車と車。ほとんど予想通りであった。やはり理の根幹は違くても発展する方向性は同じなのである。
「優花さんの世界にもあるんですか?」
「原動力は違うけどあるよ。」
「色々と似通っているんですね。」
「そうかもね。」
優花とクスは話しながら順番に並びしばし待った。そして、自分たちの番が来るとクスが代表して門番に説明した。優花は詳しく説明しないといけないのではないかと思ったが、割とあっさり通してもらった。クスが言うには昔は厳しかったが、平和となった今は形式的になったそうだ。なので簡単に用事を言えば通したもらえる。町の外は緩やかな丘が広がっていた。町からは道が真っ直ぐに伸び、ドライブしたら気持ちいいだろうなと感じさせた。
「こっちてすよ優花さん。人があまり来ない魔法の練習するのに絶好の場所があるので。」
と言うとクスは東に向かって歩き始めた。そこに道はなかった。
しばらく歩いても果ての見えない。そこで抱いた疑問を優花は口にした。
「この辺て何もない丘が広がっているだけなの?」
「いえ、西にずっと行くと迷いの森というのがあります。でも、こっちももっと東に進むと森があり、海がありますよ。たまたまこの辺りは草原の丘が広がっているのです。」
ようはモンゴルの草原のようなものかと優花は思った。本とかテレビで見たことがあるだけで実物は見たことないが。
ところで優花は丘の話以上に興味を惹かれる話があった。それは海があるということである。それを聞くと俄然どんな魚がいるのか気になった。きっと自分の世界といる魚が違うのだろうと優花は思った。
「質問です。クス先生。」
急にクスを先生呼ばわりし始めた。
「何ですか優花さん。」
残念ながらクスは乗ってこなかった。普通に反応した。たぶん無視したのだろう。あまりこういう乗りはしない主義なのだろうかと優花は思った。仕方がないのでそのまま自分の疑問を口にすることにした。
「海には行かないですか?」
「うーん行っても良いですが、まずはこの辺りを見て回りましょう。」
「何か面白いのがあるのですか。」
「面白いかは分かりませんが、せっかくこちらの世界に来たのですから色々と案内したいんです。」
優花は何だかホッとするような気持ちになった。世話したいと思ってくれていることにである。面倒に思ってもおかしくないのに案内をしたいと自ら申し出てくれた。それだけでも安心感があるものだ。
「クスって真面目だね。」
「自分としては怠け者のつもりなのですが。」
「いやいや怠け者が昨日今日あった人に町を案内したいなんて言わないよ。」
「そうですかね。」
「そうだよう!誠実な人だなと思うよ!」
ちょっと力を込めて優花は言った。この短期間で優花はクスのことを気に入っていた。好きになっていた。
「何かそう言われると照れますね。」
「こんなストレートに言ったら恥ずかしいか。」
クスは一回拍手した。
「さぁ、こっちてすよ。魔法使ってみましょう。」
「は~い。」
優花とクスは道路から逸れて丘を登った。クスが先導する。町から大分離れたからか、人通りはなく、風の音だけが聞こえる静かで穏やかな雰囲気があった。
優花は自分の住んでいる町にはない光景だと思った。右を見ても左を見てもコンクリートと車しかない。家の近くにはショッピングモールもあり便利だが、静謐な穏やかさはない。
優花が空を見上げながら歩いているとクスが急に立ち止まった。優花は危うくぶつかりそうになった。
「ここです。」
そこは町を出てからここまでと同じ景色である草原の丘が広がっていた。
「ここの何がいいの?」
優花は疑問を問うた。特別何かあるわけでもないわけでもない。ただ草原が広がっているだけである。
「人も通らないし、この辺に生息している生き物の縄張りでもないので安心安全なんです。」
「真面目だなぁ。」
「そうかもしれないですね。」
クスはちょっと考え込みながら言った。その様を見て優花はやはり根が真面目な人だと思った。
「じゃあ、ここならいくら魔法で地形を変えるようなことをしても大丈夫ということ?」
「今回、買ってきた魔法石では地形を変えるほどの威力はないですが、まぁ、周りを気にしないで魔法を使えますよ。」
「火系統の魔法は人に当たったら大変だしね。」
「安全第一です。」
何だか幼い子が年上に道徳を説く時のような言い方だなと優花は思った。
「どころでさ。草に引火したらどうするの?」
「それなら抜かりはありません。水系統の魔法石を持って来てありますから。」
「それなら安心だね。」
「ええ、これで草に引火した時にはすぐに消化するから思い切り魔法を使って良いですよ。」
「じゃあまずは火系統の魔法を早速使ってみたい。」
「良いですよ。さぁ始めますよ!」
「はい!」
優花は初めての魔法を使うことになった。






