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窓の向こうの異世界 前編  作者: マジコ
2/5

こんにちは異世界 その2

 優花は困った。気絶して仰向けにぶっ倒れているこの女の子を置いて帰るのは気が引けた。誰か探して来ようかと悩んでいると女の子が目を覚ました。


「やあ。」


 取り敢えず声をかけてみた。すると女の子も返事してくれた。


「やあ。」


 元気そうだ。様子を見ると怖がっているというよりも混乱しているようだった。まぁ、突然見知らぬ格好の人が出て来たらびっくりするかと優花は思った。


「君、ここの人?」


 優花は不思議と落ち着き払って尋ねた。とにかくコミュニケーションをとろうと考えたのだ。見た感じ人が良さそうだ。


「クスと言います。あなたは?」

「私は西ノ宮優花って言うの。よろしく。」

「よ、よろしく。」


 クスという女の子はどぎまぎしながら答えた。何だか保護欲をかられる子だ。小さくて可愛い。


「この部屋はクスさんのものなの?」

「クスで良いですよ。そうです。」


 如何にも当然といった顔をしていた。この部屋がクスの物とするとここにある本も全てクスの物ということか。もしかしてかなり頭が良いのでは。字は読めないが、優花が読んでいる本より難しいだろうと表紙とかから推察できる。優花は来た時からの疑問をクスにぶつけてみた。


「ここって何の施設なの?」

「ああ、ここは研究施設ですよ。私、ここの研究員何ですよ。」


 もしかしてこの子天才児というやつかと優花は思った。すごい。自分より年下と思われる女の子が部屋一つ持つ研究者とは。


「クスはここで何の研究しているの?」

「ああ空間転移の研究ですよ。」

「テレポートということ?」

「まぁ、そうですね。」


 優花はテレポートなんて超能力や魔法の世界の話だろうと思った。ちょっと、こちらを馬鹿にしているのではないかそんな風に訝った。


「クスが天才なのだろうということは分かるけど、テレポートの研究って魔法じゃあるまいし。」


 優花は自分がクスのことを嘲笑するような笑みをしていたことに気がついた。性格悪いなと辟易した。

 優花の言葉にクスは科学者が科学を語るように憲法学者が憲法を語るようにその理が当然で自明のことかのように。


「何を言っているのですか。魔法に決まってるじゃないですか。」

「魔法って火を出したり空を箒で飛んだりの?」

「そうですよ。」

「またまた。」


 優花は手をひらひらさせクスの言うことを戯言、冗談だと受け取った。


「またまたって優花さんは魔法を使わないのですか?」

「本気でこの世界では魔法が使えるの?」

「本気です。」

「ふ、ふーん。」


 優花は興奮を抑えるのにやっとだった。魔法が使える世界なんてなんと面白そうな。楽しそうな。優花はこの世界の根幹を知ったが、他にも自分の世界と違うとこはないか知的好奇心が刺激されその後もクスに質問も攻めにした。クスは嫌そうにせず、一つ一つ丁寧に回答してくれた。


「なるほどね。」

「優花さんの世界は魔法がないんですか?」

「小説の世界の話だね。迷信だよ。」

「そうなんですかぁ。優花さんの世界と私の世界では理が違うのですね。」


 二人は魔法についての互いの世界での話で盛り上がった。

 小一時間ほど話していると優花はふとそろそろ帰ろうかと思った。


「私、そろそろ帰るわ。」

「そうですか。優花さんはどこから来たのですか?」

「え、ここだけど。」


 優花はドアのようなゲートに指を指した。


「ここから来たのですか!?」

「そうだよ。」


 ここからしか入って来るところはないではないかと優花は思ったが、クスはものすごく感激しているようだった。なんでだろうと優花は思った。クスは弾けるような笑顔で言った。


「私の研究上手く行ったんだ。やったー!」


 クスは飛び跳ねて喜んでいた。そこには無邪気な研究者の顔が覗いている。

 優花はクスが何に喜んでいるのか理解した。ようするに優花が通って来たこのドアと優花の部屋の窓がつながったのが、クスの研究の成功を意味しているということだろう。この喜びようは試行錯誤して苦心してきたのだろうことがわかる。やっと成功して苦労が報われたそんな様子であった。何か微笑ましいなと優花は思った。


「じゃあ、私、帰るね。」


 そう言って優花はドアを抜けて自分の部屋へと戻った。

 部屋に戻り窓を閉めた。窓からはいつもの外の風景が見えた。外はもう夜のようであった。部屋に戻り落ち着くとお腹が空いてきた。一階に降りてリビングに行くとちょうど夕飯の準備が出来ていた。今日はハンバーグがおかずのメインのようだ。自分のいつもの場所に座ると母親がエプロンを脱いで来た。


「今、呼ぼうと思ったけど降りて来てたのね。」

「まぁね。」


 優花はさっきまでいた異世界の話は両親にはしないようにしようと思った。いらないトラブルになりかねないからだ。まぁ、言ったところで信じてはくれないだろうが。きっと、小説の読み過ぎでドン·キホーテにでもなったのかと読書好きにしかわからないジョークをかまされるだろう。そして、未来に渡ってあの日の面白思い出にされることだろう。信じられてあの異世界のことが世の中に知られたらそれはそれで大変なことになるだろう。やはり言わない方が良いだろうということになった。

 次の日、学校から帰って来た優花はまた、異世界を見に行こうと思い、窓を開けて異世界へと入った。入るとクスが本を読みながらパンを囓っていた。


「押忍、クス。」

「お、押忍。」


 急に声をかけたのでクスは驚いていた。部屋はカーテンがしまり、光る球体の物が浮いていてそれが部屋を明るくしていた。


「あれって何?」


 優花は空中に浮かぶ光る球体を指を指した。昨日から気になっていた。何か可愛くて部屋に一つ欲しい。


「あれは魔法石に呪文をかけて光るように作った魔道具です。一般的によく使われているものですよ。」

「町に行けば買える?」

「買えますけど。もしかして町に行こうと?」

「うん。」


 優花は今日は異世界の町に行こうと昨晩の布団に入った時から考えていた。おかげで興奮のあまり寝付けなくて朝は寝坊した。


「だめかなぁ。」

「だめではないですか。その格好だと。」


 クスはしどろもどろに言った。

 優花はそれを聞いて自分の服装とクスの服装を比べた。クスの服装は中世的で女の子らしくスカートだ。対して優花はシャツにズボンで男の子っぽいし、現代的だ。これでは目立つなと優花は思った。

 ちらりと優花はクスを見た。するとクスは溜息した。


「私の服を貸しますよ。」


 クスから貸してもらった服はもらったもののサイズが合わなくて着られなかった服だった。着てみて部屋にあった鏡で見てみると如何にもファンタジー世界の町娘といった感じであった。雰囲気が出て気持ちが高揚する。早く町へ行きたい。町にはぶっきらぼうな口調の店主がいるのだろうか、荒くれ者の冒険者がいるのだろうか楽しみだ。優花とクスは町に出た。

 町に出た優花は微妙な気分であった。確かに町はファンタジー世界にありそうな煉瓦積みの家々が並び市場があったりしていた。しかし、町の店主は優花の世界の町の市場の乗りと同じで、あの馴れ馴れしく男気に溢れてぶっきらぼうな口調の店主はいなかった。クスに聞くとそんな乗りの店主の店は流行りませんよと言われた。

 なら、荒くれ者の冒険者はいないかと冒険者ギルドの場所をクスに聞いたが、そんな施設は存在しないと言われてしまった。そもそもこの世界には亜人やドラゴンは確かにいるが、特別そういった冒険者なる人たちを集めて使うなんて必要はそんなにない。害獣駆除をするハンターがいるくらいだ。


「私のイメージと違う。」


 優花が落胆しているとクスは励ますように言った。


「まぁ、冒険者はいないですが、魔法使いならいますよ。」

「魔法があるからね。私には使えないけど。」

「そんなことないですよ。」

「えっ!?どいうこと?」

「ですからさっき言った魔法石というのがあれば誰でも使えるのですよ。練習は必要ですが。」

「それって私にもできる?」


 優花は息を吹き返したかのように息巻いてクスに迫った。クスは若干引いている。優花としてはまさか自分も使えるようになるかもしれない事に興奮していた。クスからしてみれば使えるのは当たり前なのだからこんなことでテンションが上がるのは変なのだ。優花の迫ってくる勢いに少し気圧されつつもクスは言った。


「できると思いますけど。やってみます?」

「うん!」

「じゃあ、魔法石のお店に行ってみましょうか。」

「行く行く!」

「魔法を使えることでここまで明るくなる人は珍しいですね。」


 クスはほのかに苦笑していた。


「当然よ。私の世界で魔法は作り話の世界の話なんだから。」

「ああ、そうでしたね。優花さんの世界では魔法という理がないのですよね。不思議です。」

「私たちの世界では魔法ではなく、科学が発達しているからね。」

「科学なんて当てにならないものが、優花さんの世界では中心何ですね。」

「科学が当てにならないなんて私の世界の住人が聞いたらびっくりするだろうね。まぁ、逆もそうだろうけど。」


 二人の世界は同じ人が広大な土地に根を下ろし、社会を築いている。しかし、魔法と科学それぞれの社会の土台は違う。

 

「優花さん、間違っても不自然な言動はしないでくださいね。」

「何で?そういう言動するのが、面白いのに。」

「いえそういうのは求めてないので。穏便に行くようにしましょうよ。」

「スリルがないじゃない。」


 優花はへらへらしながら手を扇いだ。


「スリルなんて必要ないですよ。とにかく優花さんが異世界から来たなんて知られたら面倒なことになるんですから、興奮するのは良いですが、尻尾出すようなことはしないでくださいよ。」

「分かってるよ。私も自分の世界ではここのことがばれるのは不味いと思って内緒にしてるから。」

「よかった。さぁ、もうあまりこの話はしないようにしましょう。」


 こうして優花とクスは町の魔法石屋さんへと向かって行った。この世界では日用品を買うように町で気軽に魔法を使用する際に使う魔法石を手軽に買えるのであった。

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