スノードーム 【月夜譚No.74】
スノードームの雪は溶けることがない。永遠に雪に閉ざされた小さな空間は、美しくも少し淋しげな印象を受ける。
子どもの頃は、雪が降ると嬉しかった。積もった白銀の上を走り回り、両手に掬ってはその冷たさに歓喜した。
あの頃に同じスノードームを見たのなら、その美しさだけを目に映して、純粋に楽しんでいたのだろう。
今はもう、あの頃のきらきらした気持ちが湧いてこない。いつの間に、こんなにも心が荒んでしまったのだろう。こんなにも現実ばかりを見るようになってしまったのだろう。
大人になれば、何もかもが自由になると思っていた。何もかもが、できるようになるのだと思っていた。だが現実は、様々なことに縛られて、できることなどほんの僅かなものだ。
今の自分は、小さな銀世界の真ん中にぽつんと立っているだけなのかもしれない。