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騎士ギルド所属リサーチャー ファーレンの冒険譚  作者: 望月 幸
第五章【街を脅かす怪鳥を捕らえろ】
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一話【ウェン・エアハルト】

挿絵(By みてみん)

「いやー、レン君! 久しぶり! 一年以上会ってないよね! 身長伸びたんじゃない? まだまだ俺の方が上だけど! それにしても驚いたよ。こんな可愛い女の子と同棲しているなんて、レン君も隅に置けないねえっ! しかもハーフドワーフだなんて! 今もペトラちゃんから話聞いてたんだけど、結構活躍してるみたいじゃない。さすが我が弟! まあ、昔からレン君の実力を疑ってなんかいなかったけど! せっかくだからレン君自身からも話を――」

「ストップ! 兄さん、ストップ!」


 兄さん《ウェン・エアハルト》が一気呵成にまくしたてるので、両手を突き出して止める。


「あれっ? レン君、お酒飲んできたの? そうか、もうそんな年だったか」

「それはいいから! 久々の飲み会で疲れてるし、兄さんもいつ家に来たのか知らないけど、遠くから来たんだろ? とりあえず積もる話は明日に……」

「んー、それもそうだね。時間も遅いし。俺の部屋はペトラちゃんが使ってるみたいだから、リビングのソファで寝るよ。じゃあ、また明日ね。おやすみ~」


 兄さんは笑顔で手を振ると、歯を磨くのか洗面所に向かった。

 ほろ酔いのいい気分のまま寝てしまおうかと思ったけれど、わずか数分で酔いが覚めてしまった。


「いや……驚いた。何の連絡もなしに兄さんが帰ってくるなんて。ペトラもびっくりしただろ?」

「あんたのお兄さんっていうのはびっくりしたけどね。別に、不審者が来てもぶっ飛ばすだけだし。その辺は大丈夫」

「頼もしい居候だな。ただ、兄さんに暴力を振るうのはやめてくれよ。もっとも、そんな必要自体ないだろうけど」

「なんで?」

「兄さんは別の騎士ギルドの専属ウォリアーなんだ。それを別のギルドのウォリアーが怪我を負わせるなんてことになったら、多額の慰謝料だって発生しかねない。もちろん兄さんだって君に手を出しはしない。それに」

「それに?」

「たぶん、君じゃ相手にならない。贔屓目抜きで、兄さんは強いから」


 僕は彼女に、自分の兄がどのような人物なのかを簡単に説明した。


 ウェン・エアハルト。僕の三つ年上の兄であり、このシュトラール王国において二番目の規模を誇る〈ファルケ・騎士ギルド〉の専属ウォリアーである。

 二十歳という若さで、上級ギルドのミスリルランクを拝する新進気鋭のウォリアーで、実の弟である僕に限らず、多くの騎士ギルドが注目しているだろう。

 僕と違い、血液恐怖症のような目立った欠点も存在しない。一見して軽口ばかり叩く陽気な青年だが、全てを兼ね備えた理想的なウォリアーというのが僕や同業者の見解だ。


「ふーん。全然そんな風には見えなかったけど」

「君もこの業界でやっていくなら、他のウォリアーたちの情報も仕入れておいた方がいいよ。いつ仲間やライバルになるか分からないからね」

「えー! そんな面倒なのパス! あんたがやりなさいよー」

「情報収集も優秀なウォリアーの条件なんだけど……まあ、ペトラはまだ新人だから手伝うよ。それにしても……」


 ペトラの話を遮り、僕はつい考えにふけってしまった。


「……どうしたの、急に?」

「さっきも言ったとおり、兄さんは〈ファルケ・騎士ギルド〉の専属ウォリアーなんだけど、その本部も支部もこのヒューゲルから相当な距離があるんだ。馬車でも一週間はかかる。優秀なウォリアーほど遠方に派遣されることも多くなるけど、一体兄さんは何をしに帰ってきたんだ?」

「わだすは何も聞いてないけど、それなら、明日訊いてみればいいじゃない。『家が恋しくなったから』とか、そんなつまらない理由かもしれないけど」

「そうだな。ただ、ちょっと嫌な予感はするんだけど」

「どうして? 悪い奴には見えなかったけど」

「ああ。決して悪い人じゃないんだけど……」


 僕はペトラに諭すように言った。


「ミスリルランクに達するには、ただ強いだけじゃ駄目ってことさ。したたかさも必要なんだよ」



* * *



 翌朝。

 僕が耳栓をしながら日課の瞑想を終えてキッチンに向かうと、兄さんが昨日の土産の料理を温めていた。


「おっ、レン君! おはよう!」

「おはよう。随分早いね」

「いやあ…・・強がってみたけど、やっぱり我が家のソファは寝るのに不向きだね。体中が痛くて寝不足だよ」

「言ってくれれば、ベッドを半分貸してあげたのに」

「いやいや、急に帰ってきたのに、これ以上レン君に迷惑かけられないよ。さあ、思いの外豪華な朝食になったし、ペトラちゃんを起こして一緒に食べようか! それにしても彼女、凄いいびきだね。俺の寝不足が加速したよ」

「あ、耳栓も貸せば良かったね。ごめん」


 たっぷり寝て元気いっぱいのペトラと、飲酒のせいか眠りが浅くてぼんやりする僕と、目の下にクマを作った兄さんで食卓に着く。朝食にするには少し味が濃い酒場の料理を口に運びながら、兄さんに帰省の目的を訊こうとした。


「ああ、そうだ。レン君、今日は仕事?」


 思いがけず、先に兄さんが僕に質問するので出ばなをくじかれてしまった。


「仕事だよ。ペトラも新しい依頼を探しに行く予定」

「そうか。それはちょうど良かった」

「ちょうど良かった?」


 兄さんは僕が淹れたハーブティーを一気に飲み下して言った。


「俺も一緒に行くよ。イーゲル・騎士ギルド本部に」

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