第四話
そしてその日の放課後。昼。
私はおかしな夢を見た。
私は廃れた六畳間に立っていて、そこで私はしわしわになった便箋を握りしめていたのだ。
そしてそれは、弱々しく私への想いが綴られた強かな手紙であった。差出人は―――由良優祐。その人であった。
誠に奇妙なものだ。
起きると、妙に頭が痛く、風邪を引いてしまったのかとも思われた。
しかしその頭痛もすぐに収まった。
ベッドから這い出て、机の上に置いていたスマートフォンを見ると、一通のメールが届いていた。
差出人は、由良優祐。
そのメールは『有無を言わずに帰ってしまったね。紅戸豆助』という少々愚痴臭い言から始まっていた。
有無を言わずに帰ってしまったね。紅戸豆助。
そう言えば、君のメールアドレスを知らなかったなと思い、誠にメールアドレスを、教えてもらいいまに至るのだけれど。
(あいつ勝手に…)
君の、戀人になったばかりでまだ蟠りがあると想うのだが。
(戀人って…ああ。あの適当な返事を勘違いされたのか)
明日、予定が空いていれば、共に街を歩きたいのだが。
(明日は両親の手伝いがあるのだが…)
「母さん」
「ぉん? どうしたの? 豆助」
「明日の手伝いを、辞退したいのだが」
「なんだ、弟よ。友でも出来たのか」
あ、糞姉。しまったなあ、姉に聞かれたら物凄く面倒くさいことになるぞ。
「まぁ…そんな感じ―――」
―――シュポッ。
ライン…だと?
「はい、借ります」
「あ、ちょお前!!」
姉が私のスマートフォンを強奪した。その素早さは風のごとしであった。
「何々~? 由良ユウスケ君? ふむふむ」
「ちょ、返せよ。姉さんッ」
「まだまだ~。…………ッ!?」
くそう、見られた! 一番見られたくない者に見られてしまった!! くそう、くそう、くそう!!
「あんた、これ…男の―――」
「さらばだッ!!」
私はリビングと廊下及び階段を疾駆した。
「目指せワールドカップ」
「なでしこジャパンッ!?」
腰を蹴られ、ッスッダーーン!! と落ち、悉く捕獲された私。腰が…腰がいたいよう。
(※良い子には真似させないでください)
「あんたこれ、只の友人じゃないわよね」
「あらあらなあに? 戀人さん? ちょっと見せて」
「はい」
くそう、どんどん家族に私のスマートフォンが回っていく…。
腰が痛くて立てないので、私は転がり移動しようとする。が、腰を思いきり踏まれ、押さえつけられる。
「由良優祐君って言うのね…どんな仲?」
おぉう……恐ァい。助けてえ、助けてえ。
私を殺さんばかりの眼光を轟かせ、母が訊ねてくるので私は全力で、土下座した。
「返してください」
「断る」
「ヒィ……」
なぜこうも、私は女性という生き物に弱いのだろうか。考えてみても始まらない。こうなっては……。
「一枚、いや…全部脱ぎます。返してください」
「断る。お前のつまようじを出されたところで、私は怒るだけだ」
「ヒィ」
私の頬を一筋の涙が落涙した。
「答えなければ、そのお粗末様を蹴り飛ばすわよ」
「……学校のクラスメイトです」
「わかった。蹴り飛ばす」
この……バイオレンスマザー…。
事のなり行きを話す隙は与えられるのか。
「ちょっと待ってください。俺の話を聞いてください」
「聞く価値は」
「母さんが俺に注ぐ愛ほど」
「皆無ね」
ちょっとはあれよ馬鹿母さん!!
「奇妙な話ね……あなたの話を聞く気になれないわ」
「……しまいにゃ全裸で町内一周するぞ」
「縁切ってからにしなさい」
うひゃー、こ☆れ☆は☆ひ☆ど☆い
「まぁまぁ、母さん。コンマ一秒位は聞こうよ」
それは聞くというのか。馬の耳が東の風ではないのか。
「そうね。話しなさい」
「承知しました…」
これを家庭内暴力と言わずしてなんという。
これを家庭内暴力と言わずしてなんという。
「実は―――」
私は話した。色々と。それはもう、話すことがなくなるほど、話した。最近の株価の話は腰を砕かれたので、割愛だ。
「―――というわけです。ご理解いただけたでしょうか」
「ええ。つまりはラブコメね」
あーら、簡潔に纏めちゃって。
「しかもBLね。クール系の美形くんね」
あ…、ダメだ。恐らくこの二人は俳優などの『美形』を思い浮かべているなあ…。
かわいい系の女優の『美形』だって気付いてくれないかなあ。
「でも待てよ? その場合、私はどの位置に居るのだ?」
「「受けよ」」
「あーら、ハッキリと言っちゃって」
そう言えば、由良優祐からのラインの内容はなんだったのだろうか。
『由良優祐:ラインのIDも教えてもらったのだけれど、これで合っているのかわからない。合っていると良いなあ』
『由良優祐:ゆっくりで良いから、君に優祐って呼ばれたい』
そこまで勘違いする内容かなあ。
とりあえず、既読付けてしまったなあ。何て返信しようか。うーむ。せや。自作の『きつねくんスタンプ』を使おう
私が送ったのは『アッティラ』という駄洒落のスタンプだ。絵的にはデフォルメ化した狐(以後きつねくん)が糞をする。その糞がフン族とその諸侯の王の顔になっているのだ。
ちなみにフン族とは四世紀から六世紀にかけて中央アジア 、 コーカサス、東ヨーロッパに住んでいた遊牧民のことである。
アッティラ=合ってる である。
『優祐って呼ばれたい』に関しては無視である。
由良優祐は以降、由良である。