第三話
「とまあ、こんな感じでお前はフラグが立ちかけてる」
「由良優祐は浮気性なのか?」
「何をまた的はずれな」
「何をって…お前と由良優祐は付き合っているのだろう?」
私がそう言うと草薙はドッと笑った。
「無い無いッ、だってあいつは従兄弟だぞ?」
「はっはっは、そうだったのか」
俺は、草薙の頬に拳を叩き付けた。
(先に言えェッ!!)
(ごめんなさいッッ!!)
ワンパンチKOだった。
そしてその時、ガラッと部室の扉が開かれた。
「よっ、由良!」
なぜこいつは従兄弟を、名字呼びしているんだろう。
「誠…お前、紅戸豆助に話したのかッ」
由良優祐は眼鏡の奥で私と草薙を睨め付けていた。
「あ…うん…聞かされたが…熱弁されたが…」
「ッ!! こ、これは誠の戯れ言だからッ」
「なに言ってるんだ? お前、ベッドの隅にあいあいが―――ゴフッ!?」
草薙の顔面に『西洋異形大全』がめり込んだ。
OH……。
「とにかく…これは全部誠の嘘だからッ」
「いや…俺は(どうでも)良いんだが」
「ッ!? 良いのかッ?」
「え? あ、うん。(どうでも)良いな」
「そ、そっか…」
うん? どうしたのだろうか。いつものムッツリ野郎はどこに行った。頬が緩んでるぞ。
「ボクもムッツリーニって言ってもいいか?」
「え? 殺すぞ?」
血溜りが広がってきたな。こいつ捨てなきゃな。
「ちょっとこいつ捨ててくるから。あ、今日は休むから」
「あ、ああ……ん? 捨て?」
まったく……。重いったらありゃしないな。
部活棟裏の山の中に確か空き家があったな。あそこに捨ててくるか。
〇
「……ん…ん?」
「チッ、起きたか」
「ここは? 何で俺上半身埋まってんの?」
「砂の中って冷えてるだろ? 今日暑いだろ?」
「だからって了承無く埋めるの? え…お前、まじて由良とそっくりじゃん」
「そういや、何でお前従兄弟を苗字呼びしているんだ?」
「由良曰く『家族以外で最初に名前を呼ばれるのは紅戸豆助が良い』んだと。可愛いじゃないの。ひゅーひゅー、もてるなムッツリーニ」
「体温を下げたいか?」
「何の暗喩だよ」
勿論、死だろ。
まぁ、しょうがないので草薙を土から引き上げると、ズボンだけが埋まってしまったので諦めてそのまま帰ることに。
「なぁ、お前。露出に何の躊躇いもないって頭おかしくなってるんじゃないか?」
「普通躊躇わないだろ」
「普通ってなんだ?」
「そんなことより、お前は笑えないのか?」
「愛想笑いならできるぞ」
「病気だな」
「そうだな。みんな、病気だよ。狂ってるよ」
「ほーう。それはなぜ? お答えいただこう、ベニート・ムッツリーニ」
「なんだ、その独裁者、教師、軍人のような名前は。俺の名前は紅戸豆助だ」
「ベニート・ムッツリーニじゃなかったのか」
「狐に化かされて死ね」
「辛辣ぅ~」
―――約束。
「ん?」
「どうした?」
「いや、いま…〝約束〟って聴こえなかったか?」
「聞こえなかったな。何々、幽霊的な?」
「いや……」
奇妙なこともあるものだ。
―――犬猿の仲。
「やっぱりきこえるぞッ」
「えっ、恐ァ」
「約束、犬猿の仲」
「由良じゃね?」
「由良優祐とはなんの約束もしていないが」
「犬猿の仲でもないな。じゃあ違うか」
「明日…精神科に行ってくる」
「脳を見てもらえよ」