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朝鮮半島の内戦は長引いた。
裏で中露、米が程好く援助をしたり、工作をしたりなので、当然と言えば当然である。
朝鮮政府軍も反政府軍も疲弊してきた。
消耗戦なら補給の乏しい反政府軍は不利になるのだが、その兆候がない。
それはつまり外から補給をしている国があるという事だった。
反政府軍は釜山を拠点とした。
釜山港を占領している。
元韓国海軍の軍艦の多くが朝鮮から離反したのだった。
釜山港は元々ハブ港として有名で、船便が多く存在しており、世界中の国々にルートが繋がっている。
軍艦に守られていれば、容易に他所からの物資を運び込める。
日本からは、在日韓国臨時政府が窓口になって物資を送り込んでいた。
その供給元は中国である。
韓国臨時政府を隠れ蓑に供給していた。
そして中国が動いたのは兆候とも言える。
台湾侵攻の布石だ。
*
山田内閣は依然、国内の韓国人テロ組織に悩まされていた。
テロというのは防ぎようがない。
昨日まで一般人だった者が次の日にはテロリストに変貌している。
テロが起こる度に自衛隊や警察がテロリストを倒してきたが、誰がどこでテロを起こすかは分からない。
初回の犯行によるダメージはどうしても食らってしまうのだ。
「我々はテロには屈さない」
というスローガンはよく耳にする。
しかし、これはどれだけ自国民が死んでも、という意味につながる。
在日韓国人全員を監視するのは不可能だ。
山田は出来ることを出来る限りやった。
武器の規制強化、テロ組織の殲滅。
しかし、韓国人が韓国人である限り、日本への憎悪はなくならない。
泥沼である。
*
中国は台湾を諦めていない。
朝鮮半島に周囲の目がいっている今こそが攻め時なのだ。
最大の障害、米軍はいない。
前回は侵攻を事前に察知されたので、今回は電撃戦を目論んでいる。
余計な事はせず一気呵成に攻め込んだ。
第二次台湾侵攻である。
*
「人民解放軍が台湾に攻め込みました」
「なんだと!?」
山田は驚きで目を見開く。
「アメリカさんはなんて?」
「もちろん、我々は台湾を支援する、そうで」
「だよな」
山田はうなずく。
「ムティス氏に連絡を…」
「はい」
アドバイザーのムティス氏は元軍人で米軍の司令官でもあった。
中東にも駐留しており、テロリストと戦ってきた経験がある。
山田は普段はテロ対策の相談をしていたが、今回は戦闘行為である。
「日本は米国と協調するが、台湾を支援するとしたら何をすればいいか検討がつかない」
『日本の基本理念を思い出して下さい。日本はどういう国ですかな?』
電話の向こうでムティスが言った。
もちろん通訳を介している。
「む…」
山田が言いよどんだので、ムティスは続けた。
『日本が世界に対してどういう国だと思われたいのか 、自国民はどう思ってるのか、が先ず一つ』
言葉を一旦切る。
『次に周囲に目を向け、日本が台湾にできる事を考える。こうすれば、何をしたら…?なんて言わなくてもいい』
山田は考えた。
基本理念などといった高尚なものは掲げてないが、いち日本人として導き出せる答えはありそうだ。
日本は軍事強国は目指していない。
法を遵守したい。
できれば友好的に話し合いで物事を解決したい、相手が攻撃してきたらまた別ではあるが。
こんな答えが浮かんでくる。
一般的な日本人が思い浮かべる答えといって良いだろう。
ではそんな日本が台湾に対して何ができるのか?
攻撃はダメ。
武器の供与もダメ。
となると食糧などの補給物資になるだろうか。
日本が行える支援は、昔からこんなもんだろう。
「台湾に補給物資を」
『オーケイ、そういうだろう思ってた』
「しかし、これだけでは寂しい気がする」
『ふむ、どうします?』
「中国を妨害し、台湾を助けられないだろうか?」
『ほう、積極的ですな。今度の総理は』
ムティスは笑った。
乾いた笑いに聞こえたが、それは山田の気のせいかもしれない。
「援護射撃とでも言うのだろうか、秘密裏に中国の懸念事項をつついて台湾だけに専念させないようにしたい」
『oh、なかなかアグレッシブでいらっしゃる』
陽気な声が帰ってくる。
『我がチームに聞いてみよう、しばしお待ちを』
ムティスはそう言って電話を切った。