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韓国臨時政府はこう言った。
「すべての韓国人がテロリストではない」
すべてのイスラム教徒が危険な原理主義者ではない。のパクリだ。
ただの言い訳ではあるが、一応は常識に沿った発言である。
在日韓国人のテロは頻度こそ減ったが、その活動は細々と受け継がれ今後も日本の治安を脅かしてゆくことになる。
在日韓国人と日本人の対立構造は解消不能な捻れとして残った。
秋葉内閣の後には、候補として、自営党の山田次郎、立憲民政党の幹本が出てきた。
しかし、国民は野党よりも自営党を選んだ。
山田次郎内閣の発足である。
山田は過去に外務大臣に就いており、強い態度で周辺国へ臨んできた事で知られている。
このような情勢の折り、国民が強い政府を望むのは自然な成り行きであった。
山田内閣が国内の在日韓国人問題に着手している間、朝鮮で異変が起きていた。
元の韓国人による抵抗勢力の活動が激化してきたである。
朝鮮政府の手管により一旦は落ち着いていたのだが、朝鮮政府は徴収した財産、設備等を上手く扱えなかった。
政府高官が権力を嵩に私腹を肥やし始めるのは世の常である。
朝鮮市民が割りを食うケースが続出した。
これが内的要因。
もう一つ、日本での在日韓国人テロ集団への攻撃により、在日韓国人の恨みを買った。
これが外的要因。
内外の韓国人勢力が協力し出すのは時間の問題だった。
朝鮮経済は発展し出していたが、元の北の性質が民衆への利益の還元を阻み、結果は不満の蓄積となった。
内外の韓国人が武装組織を形成し、今度は朝鮮政府を狙った。
内戦の始まりである。
*
「朝鮮内部で反政府組織がソウルを襲撃してるそうです」
山田の元に情報が上がってきた。
「どういうことだ?」
「元の韓国国民による組織が朝鮮政府に抵抗しているようです」
「それで日本での活動が少ないのか…」
「そのようです」
「朝鮮政府を応援できないかな?」
山田は先のテロ問題で朝鮮が結果的に日本へ手を差しのべた事を知っている。
そのお返しがしたいのだろう。
朝鮮は一応半島の正式な政府だ。
これと正常な付き合いをして損はない。
もちろん、アメリカに承諾を得ないといけないのではあるが。
「総理、それはアメリカの手前できません。統一朝鮮政府とはいえ、実態は北朝鮮なんですから」
「だよな」
山田はうなずく。
「で、アメリカはなんて?」
「勝手に潰し合いするのを止める事はない、だそうで」
「だよな…」
山田はまたうなずく。
「アメリカ抜きで国防を担うなど無理な話だったんだ…」
山田はつぶやいた。
「ですが、アメリカはハワイです」
側近達が言う。
山田はため息をついてから、
「中露の動向は?」
「中国もロシアも今のところ動きがありません」
「静観する気か」
「だと思います。朝鮮は彼らにとっての貿易相手ではありますが、こうなってしまえば疲弊させて援助からの借金漬けにして搾取した方が良いと考えるでしょう」
「中国の得意技だったな」
山田は中国の手口を思い浮かべた。
東南アジア諸国やその他の国々に行ってきた、中国の汚ないやり方は、今更言及する必要はない。
「中国の動きには気をつけておかねば」
「はい」
「ロシアは?」
「ロシアは軍事的な行動を取る危険性があります」
「東欧にやったようにか?」
「はい、元の北朝鮮の中にシンパを作っていることでしょうし、それを利用して民衆が望んでいると宣伝して占領ですかね」
「……それはマズイな」
しばし沈黙が会議室に舞い降りる。
「ここはアメリカさんにアドバイザーを派遣してもらうのはいかがでしょう?」
「アドバイザー?」
「一昔前でいうところの軍事顧問ですかね」
側近は一旦言葉を切る。
頭の中で論理を組み立てているのだ。
「正直いいまして、この局面は我々日本人に手には負えません。なにせ平和ボケしてますから」
冗談めいた言い方に、ちょっと失笑のようなものが起きる。
「ふーん、続けてくれ」
「餅は餅屋といいます。この局面は明らかに紛争状態ですので、紛争に慣れた者にアドバイスしてもらうのです」
「うーん、なぜ今まで思い付かなかったんだ」
山田は自嘲気味に言って、
「これまでもその都度、アメリカさんにアドバイスを聞いたりはしてたが、常時アドバイザーを置くのは悪い事ではないな」
「ですね。それから内閣直属の部隊を作るのが良いかと思います」
「それなら内閣諜報室があるだろ」
「諜報だけではなく、軍事行動が可能な部隊がよろしいかと」
「それは…また思いきった事を考えるなぁ」
「このような情勢を乗り切るには思いきった手段が要ります」
「考えてみよう」
側近の案を、山田はほぼ受け入れた。
アメリカに話をつけて、アドバイザーをつけてもらう。
アドバイザーには引退した閣僚が就いた。
ムティス元国防長官である。
内閣直属の部隊も設立されたが、これは部隊の性質上、世間より秘匿される。
通称、秘匿部隊と呼ばれる事になる。