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北朝鮮は朝鮮半島(韓半島)全土を掌握し、統一朝鮮として「朝鮮人民民主主義共和国」を名乗った。
「北」が取れただけなのは誰の目にも明らかである。
基本的性格は「北」のままだ。
韓国国民は、韓国の独自性を堅持するか北を含む朝鮮統一を求めるかで、右寄りと左寄りに分かれるという。
右寄りの韓国国民は朝鮮政府の手が入る前に逃げ出した。
逃亡先は中国と日本だった。
中国では困惑しつつも受け入れ体制を整えていった。
日本も困惑していた。
戦時避難民を受け入れるか否かといえば、受け入れざるを得ない。
しかし、日本の韓国人への感情は悪化して最悪の状態だった。
特に沖縄はそれまでの寛容性をかなぐり捨てていて、韓国は敵だと主張。
日本政府は一時的に韓国避難民を隔離施設に収容することにした。
残った韓国国民は最初こそ南北統一を喜んだが、朝鮮政府が元韓国国民の財産を徴収し始めたのを見て逃亡が相継いだ。
2波目の戦時避難民となった。
日本政府はこれも収容することにした。
「まずいな」
「うん、第2の在日韓国人だ」
「根本的な解決ができない問題をまた抱えるとはな」
阿賀、日暮、朝比奈の三人は途方に暮れていた。
「だから韓国人など受け入れなければよかったんだ」
「そういう訳にはいかんよ」
朝比奈が日暮を睨み付けるように見る。
「日本がここで受け入れなければ国際社会に非難される」
「特に国連な」
阿賀はため息。
「しかし今の国民感情を考えるといつ暴発するか分からんぞ?」
「うーむ」
日暮の指摘に阿賀は唸った。
「今いる在日韓国人と国民との衝突も懸念される」
「うーむ」
阿賀内閣は思いきった事が一切できないままだった。
そんな折り、沖縄への自衛隊配備が故意に遅らされていたという疑惑が持ち上がった。
各メディアはここぞとばかりに報道し、世論はアガガー!に染まった。
阿賀内閣は総辞職。
次に来たのは、秋葉内閣だった。
秋葉総理は決断力がないので有名で、以前防衛大臣をしていた時には有事にもっと情報を!と言うだけで動かず、そのままスルーした事がある。
今回の総理就任は目ぼしい人材がいないという事もあるが、前任の阿賀の情報をマスメディアに売って成し遂げたのだった。
こんな人物が韓国避難民にまともに対処できるはずもなく、第2の在日韓国人は収容を継続、在日韓国人と日本国民の感情は悪化の一途を辿った。
朝鮮政府は竹島については放置であった。
警備に就いていた元韓国兵は逃亡していた。
つまりもぬけの殻である。
秋葉は朝鮮政府に竹島の所有問題についてを打診した。
朝鮮政府は「我が国の領土である」と回答してきたが、実際は兵士を派遣する余裕はなかった。
元韓国国民が地下に潜ってレジスタンス化しており、国内の情勢を落ち着かせるので手一杯なのだった。
秋葉は散々悩んでアメリカ、国連などに意見を求めた末、やっと自衛隊を派遣して竹島を守らせた。
朝鮮政府は「日本は盗人行為を働いた、許すことはできない!」と言ってきたが、それ以上は行動に移すこともなく収束。
国際的には日本固有の領土で落ち着いた。
日本国内では保守派、右派を先頭に在日韓国人に対する憎悪が増しており、そこに沖縄が加わって一触即発の状態になっていた。
もはや一刻の猶予もないのだが、秋葉内閣は動かなかった。
そうしてるうちに衝突が起きた。
衝突はすぐに暴動へと変わり、機動隊が出動し鎮圧される事態になった。
これ以降、世論は韓国人への非難へ傾き出す。
秋葉内閣はこの問題に対処せざるを得なくなった。
「まるでパレスチナ問題だな」
「では避難民地区を設けて韓国避難民と在日韓国人を隔離しますか?」
「冗談だろ?」
秋葉はため息。
「中国では自治区を認めているようです」
「うーん、自治区と言ってもなぁ、日本ではそう簡単に土地を分けてやれんぞ」
「余ってる土地があっても、政府の監視下に置けなかかったらダメですからね」
「いっそ長崎の出島に押し込めるか」
「在日韓国人が何人いると思ってるんです?」
「あーあ、ロシアみたいに難民を銃撃で追い払えたら簡単なんだけどなぁ」
「沖縄とも仲が悪くなってしまいましたしねぇ」
当初は沖縄への移住を認める案もあったが、沖縄県に拒絶された。
襲撃してきた当の韓国人を受け入れるなど県民感情が許さなかったのだ。
「なら中国に引き取ってもらえるよう掛け合ってみるか?」
「今更ムリですよ。受け入れ直後ならいざ知らず、ここで放棄すれば国際社会から非難されます」
「だが、このままでは国民との衝突が…」
「衝突してもその都度鎮圧するしかありません。不満は溜まるでしょうが、いずれ沈静化します」
「うーん、だがこのまま何もしない訳にもいかんしなぁ、何かやらないと」
秋葉が渋っていると、
「では在日韓国人の行動を制限するというのは?」
「そんな事して大丈夫かね?」
「今のままでは下手すると内戦状態になります。在日韓国人を守るという名目で一部の行動を制限して行きましょう」
「同時に朝鮮半島へ戻りたい希望者を募って朝鮮政府に掛け合いましょう。在日韓国人・朝鮮人は名目上は戦争により一時避難している訳ですから。統一政府ができて戦争終結されたら戻る節目となりますし」
「帰るとは思えないがなぁ」
「そこは日本がやるべきけじめってことですよ。帰りたくない者は残ってもいいが、これまでとは違って制限を受けてもらう、彼らを守るためにね」
「うーん、具体的にはどんな制限かね?」
「基本的には当局の監視下に入ってもらう事になります。位置情報の追跡に承諾してもらいます。徒党を組んでの活動を禁止して、必要な活動には届け出を出してもらう。違反者は拘留可能にします」
「…マスコミに叩かれるな」
「何もしなければ、それはそれで叩かれます。どちらにせよ叩かれるのは免れませんから、我々はやるべき事をやってますよというのが必要です」
「うーん、仕方ないか」
というやり取りがなされ、在日韓国人及び在日朝鮮人に対する帰国希望者の募集と日本在留者への行動制限案が出された。
*
朝鮮政府は北の時代に内部の反乱分子を潰してきた実績がある。
手練手管で国情を安定させていった。
国として大きくなった今、ミサイル頼みの威力外交だけではやってゆけない。
これは朝鮮政府も承知していた。
外国との貿易で利益をあげる必要がある。
元韓国国民より徴収した財産は、その資金に当てられた。
大きな商売相手は中国、ロシアである。
主に元の北朝鮮に存在する資源、安い労働力により生産される農産物が中心になった。
元の韓国の資本家が元の北朝鮮に工場を建設し、雇用を生み出した。
韓国の技術を駆使して安価な製品の生産に取り組んだ。
勿論、日本の企業もそこに目をつけた。
メイドイン朝鮮を購入するため、業界単位で政府に掛け合う事が増えた。
つまり日本政府へ朝鮮との国交の回復を要求してきたのである。
朝鮮政府は自前で飯が食えるようになれば、威力外交に頼らなくてもよくなる。
防衛ができればそれでいいという雰囲気ができてきていた。
朝鮮半島の立地条件的には周辺国との貿易が正解で、いわゆる緩衝地帯としての立ち位置である。
朝鮮は貿易を通じて徐々に国力を上げてきていた。