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師匠と弟子3 ~ボスについて~


「皆! 今日も元気にFROってるかな?! 私はマッスル仮面師匠だ! そしてこっちが……」


「どうもッス! 最近はじまりの森に行ってるッスよ!の美少女、初心者の弟子一号ッス!」


「さて、弟子よ。今日は何やら火急の件だそうだな」


「そうッス! 実ははじまりの森でパーティーが全滅したッスよ!」


「なるほど。今回はその全滅の原因を私に分析して欲しいと言うことだな!」


「それもあるッスけどいきなり出てきたモンスターに全員瞬殺されたッス! 分析よりも対策を教えて欲しいッス!」


「あぁ、奴に会ったのか。それは災難だったな……」


「師匠、知ってるッスか?」


「無論だ。恐らく私のようにマッスルでダイナマイトな敵だったのだろう?」


「一々ポージングしないで下さい。気持ち悪いです」


「ぬぉ、いつもの口調が無くなるほど嫌か?! ……仕方ない、普通に本題に入るぞ」


「ウィッス!」


「弟子が出会ったのはボスモンスターと呼ばれる特段強いモンスターだな。はじまりの森ならコボルトーガだ」


「コボルトーガッスね、覚えたッス! それでどうやったら倒せるッスか?!」


「無い」


「…………え?」


「いや、だから無いのだ。とは言えそれだけで納得出来る筈もないな。理由を教えるから仲間にも今から言うことは伝えておくように」


「はいッス!」


「コボルトーガは【鑑定】スキル持ちのプレイヤーと有志の検証、【世界樹の図書館】からの情報からかなり検証が進んでいるボスモンスターだ。この検証から導きだされた情報はほぼ確定事項と割りきっても良いだろう」


「先人の先輩方、感謝ッス!」


「まずそもそもボスモンスターと言うのは単純に強い。コボルトーガのレベルは40もある。ステータスからして初心者がまともに戦ってもどうにもならん程に高い」


「ふむふむ、確かにそうッスね。前衛も後衛も平等に一撃でやられたッス」


「次に場所の問題もある。はじまりの森は初心者専用のダンジョン、つまりレベルの上限は10であり高レベルプレイヤーが手が出せない環境にあるからな」


「なるほど、その制限じゃボスが出ても師匠を呼ぶとか出来ないッスね」


「後は運営のコンセプトとして『はじまりの森のコボルトーガ』は倒すことを前提にしてないのではないか、と言われているぞ」


「……えと、どういう事ッスか?」


「よし、では問題だ。弟子よ、そもそも『はじまりの森』は何を目的としている?」


「えーと……確か初心者に探索者としてのいろはを教える為ッス!」


「その通りだ! 戦闘、依頼、採取、パーティープレイなど同じレベル帯で様々な経験が出来るようになっている。では第二問だ。その様な場所でボスモンスターが存在する理由とは?」


「んー……頑張って皆で倒そうって事ッスか?」


「その気概は大事だが違うな。正解は『ボスモンスターは基本逃げる敵』と言うのを刷り込む為だ」


「ふむむむ……でも上級者の先輩方は倒してるッスよ?」


「それは彼らがレベルを上げ、情報を集め、装備を整え、仲間と協力した末の偉業だ。残念ながらレベルが低く、強い武具が装備できず、情報はあれど仲間との連携も拙い弟子達に出来ることは『逃げる』事しかない」


「うぅ、それでも悔しいッス……。初心者でしか戦えないボスだからって倒せないのは……」


「大丈夫だ、コボルトーガはサードリィにある森に出没するからな。強くなった時に倒しに行くといいぞ」


「へ、そうなんスか?」


「あぁ、そもそもこいつは設定上ではサードリィにいるやつと違いはほぼ無い。ヤツと出会ったのであれば森の衛兵に聞けばその辺りの話が聞けるはずだ。とは言えこちらはボス、あちらは雑魚敵としての違いはあるから全く同じと言う訳では無いぞ」


「具体的にはどう違うッスか?」


「そこは自分で調べるのだ、弟子でも分かる範囲で答えはあるぞ。とは言えそれではこの動画としてはマズいからな。一つだけ対ボスのセオリーを教えようではないか」


「はいッス! よろしくお願いするッス!!」


「徘徊型のボスモンスターには何かしら出現する予兆がある。例えばはじまりの森のコボルトーガは出現前にコボルトが現れるのだ。弟子は全滅したときは見てないか?」


「コボルトッスか? あ、そう言えば二足歩行のワンチャンが逃げる様に走って行ったような……」


「それがコボルトだ。もし次に見つけたらコボルトが走って行った場所から直角に退避するようにな」


「分かったッス!」



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Tips 情報クラン【スペキュレイションズ】より該当資料の抜粋


 はじまりの森のボスのコボルトーガはサードリィのコボルトーガと基本ステータスは同じである。

 初心者目安とも言えるLv10で倒すのは至難ではあるものの、デスペナルティを気にせずゾンビアタックの人海戦術を取るのであれば後者は倒せることは証明されている。

 またペナルティが軽い低レベル帯で行うことは極めて有効である。

 しかし下記の点からこの戦術を用いて前者を倒すことは不可能とされる。


①属性の変化

 従来のコボルトーガは【地/獣】属性だが、はじまりの森のコボルトーガは【地/ボス】と属性が変わっている。

 ※ボス属性は各種状態異常耐性強化、自動治癒の能力が付与される。


②武器の変化

 名称は不明だがはじまりの森のコボルトーガの武器には【吸収(HP)】が付与されている。

 ※【吸収(HP)】は文字通り与えたダメージのいくつかをHPに転化する。割合は武器能力により可変。


 以上の点から従来の人海戦術によるゾンビアタックはただのHP回復行為になる為注意が必要である。

 特別なスキルは用いないものの、低レベル帯のプレイヤーに対し高水準の能力(主に耐久面)、自己治癒能力持ちと言う観点からこのボスの討伐は事実上不可能とされる。

 もし可能とするならば、Lv10までのキャラクターが装備できる武器(それもコボルトーガの耐久や回復を上回るダメージを出せる逸品が多数)が最低必要となってくるためハードルが限りなく高い。


 また従来の徘徊型のボスはポップしてから討伐までの間はフィールドに留まり続けるが、はじまりの森のコボルトーガは発生から十五分でNPCによって撃退される。


 以上の観点からはじまりの森のコボルトーガはそもそも討伐することを目的とされていないのでは、と推察される。

 運営の狙いが『ボスの恐ろしさを知らしめる』と言うことであればこの性能は必然であるものの、依然として何故イベントボス仕様の強さにしなかったのか疑問が残る。


備考:

 コボルトーガとコボルトの関係性は一言で言ってしまえばいじめっ子といじめられっ子の関係だ。

 はじまりの森でコボルトを追い回しているのはこの関係性の為である。

 設定上ではサードリィから逃げたコボルトを追いかけてやってきたとされる。

 またサードリィでは見つかってない状態で観察をすると、コボルトをいじめるコボルトーガの姿が確認できる。

 ※なお助けようとすると十中八九コボルトをテイムしようとするテイマー系のプレイヤーに怒られるのでその際は周囲を良く見る事(いじめから助けるとテイム率UPのジンクスあり)


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