出会い(第二幕)
男性と電車に乗った未来はドア付近に座った。幸いにも通勤時間帯ではなかった為、スムーズに座ることができた。
「本当に助かりました。結構荷物が重くて困ってまして」
男性は隣に座った未来へ感謝の念を押した。
「いえいえ、見過ごせなかっただけですよ」
未来は作り笑いで答えた。
「声からしてお若そうですが、おいくつなんですか?」
「今年で二十一になります」
「そうですか、では学生さんですか?」
「いえ、中退して今はフリーターです」
「あぁ、そうでしたか、いや失礼しました。」
「いえ、気にしていないので大丈夫です」
未来と男性は一問一答形式のテストのように機械的に問答をした。未来としては出来るだけ話しかけてこないでほしい、頼むから静かに目的地まで過ごしてほしい。そう願っていたのだが次から次へと男性から質問が来るので答えざるを得なかった。
「そういえば、どちらまで行かれるんですか?」
未来は男性の質問をわざと遮るように聞いた。
「あっ、そうでした、私は青羽駅までです、もしかして逆方向でしたか?」
男性は申し訳なさそうにまた質問をしてきた。未来としては逆方向も何も関係なかった、それなのに偶然にも会ってしまった男性に死ぬことを止められたんだ。と本音が出かかったところで言葉を飲み込んで、
「自分も同じ駅なので大丈夫ですよ」
と、嘘をついた。あまりにもしょうもない嘘で未来の顔は引きつっていた。
「そうなんですか!偶然ですね!」
男性の顔は未来の表情に反し、にこやかになっていた。
「申し遅れました、私、仁科義人と申します。」
またも聞いていないことを、と未来はげんなりした。聞いてもいない自己紹介をするこの仁科という人物に嫌悪感さえ覚えた。
「あっ、どうも。自分は青山未来です。」
未来は機械的に答えた。もう面倒だから静かにしてくれないかという思いも込めて、敢えて機械的に答えた。
「未来さん、素敵なお名前ですね!」
仁科は極めて楽天的な声で未来の名前を褒めてきた。
未来はこの称賛がもっとも嫌いだった。自分を産んだ両親には感謝しているが、【未来】という名前を付けたことには恨みさえ思っていることなのだ。
両親は自分の子供に未来あるようにとつけたのだろうが、小さい頃は近所のガキ大将みたいなやつに、女みたいな名前という理由でいじめられた時期もあった。さらに今の自分には未来なんてものは見えていない。未来どころか、明日のことさえも見えなくなっているのだ。そんな過去や状況になっているのだから自分の名前が嫌いになって当然である。
最後まで読んで頂きありがとうございます、作者のおいなり と申します。
今回は出会い編の2という事で男性の名前が出ました。
仁科義人【にしな よしひと】と読みます。作中でルビを振っておりませんでした、申し訳ありません。
さて今後は、本格的に物語を動かしていこうと思います。一応プロットは作っており、ラストも決めております。
これからは1000字ぐらいでこまめに投稿していこうかと思っておりますので、最後までお付き合いいただければと思います。