色々な人と不思議な力
あのあと、従業員用と思われる部屋に通され、水を張った桶とタオルを渡され、体を清めた後、健康ランドのワンピースみたいなパジャマを着て寝ました。(下着はメイドさん?が持ってきてくれました)
昨日は気づかなかったけれど、この部屋には文庫本位の窓があった。光がちょうど枕元に差し込んでいたらしく眩しさで目を覚ます。
精神的に疲れていたのかグッと深い眠りに入ったようで目覚めはスッキリ。
ほどなくして廊下からパタパタと足音が聞こえる。部屋の前で足音が止まると「ごぉん・ごぉん」とでっかい音がする。鉄の扉のためノッカーが着いているのでしょうがすごい音。
昨日の執事さんの
「お目覚めでしょうか?」
という控えめな声が。いやあ、ノックの音と対照的。っていうか、やっぱり夢じゃなかったか。
「はい、今開けます。」
と、ベッドを下り扉へ…床も石貼りでひんやりしている。寒々しいイメージだわ。
廊下には、昨日、下着を準備してくれたメイドさん?と執事さんが立っていました。
「おはようございます。自己紹介が遅れました。私、三村 薫と言います。本日からお世話になります。」
あまりの驚きに自己紹介すら忘れていた。深々と頭を下げる。
「おはようございます。私は執事のカルロスと申します。」
「私はメイド長のローエです。昨日はよくお休みになれましたか?」
二人とも穏やかな笑顔。私の身長が160センチ位だから、執事のカルロスさんは175センチ位、ローエさんは150センチ位、栗色の髪でマッシュルームカット。まさにブラウンマッシュルーム。瞳ははレモンの果肉様な澄んだ黄色が左右と真っ暗青年と同じ漆黒の瞳がオデコに一つ…。三ツ目ですか。
「あまり驚かさないように主様に近い形の者をお連れしていますが、屋敷内には色々な者がおります。あまり驚きませんように。」
とのカルロスさんからのありがたい忠告。
いや、普通に驚きます。三ツ目が問題ないラインって事ですよね。でも驚く事が失礼だということも理解しました。特殊メイクかコスプレとして脳内で変換する努力をしなければ…せめて悲鳴をあげないようにしよう!
「ミムラ様、お着替えをお持ちしていますので、急ぎお仕度を。」
とローエさんから声をかれ、パジャマであることに気付く。
服はモンペ?あれ?なんで?
「着なれた服がよろしいかと急いであつらえました。」
満面の笑みのローエさん。聞けば穴を塞いでいた(覆っていた?)新聞の一部が落下していて、そこにモンペに割烹着のご婦人が写っていたとのこと。ちなみに割烹着は画期的だったらしく女性の作業着として定着しているそうです。
わぁ、学生時代の劇発表会に戦後復興の創作モノをやったけど、その時以来のモンペ。あのときは妙に浮いていたけど今は問題ない。アラフォーだからか?脳内イメージとピッタリだわ。
さて、その姿のまま昨日落ちた部屋に案内されました。
あぁ、天井の穴が罪悪感を呼び起こす。
「お連れしました。」
と恭しくお辞儀をするカルロスさんに続き
「昨日はご迷惑をおかけして申し訳ありません!三村薫と申します!」
と私も勢いよく頭を下げる。
「ふーん。聞けば地球なる星からの訪問とな。」
真っ黒青年がふんぞり返って声をかけてくる。
あぁ、前の会社の売り上げナンバー2みたい。としみじみ眺める。
下の者には凄く偉そうなのよね。この人はきっと本当に偉いんだろうけど。
「はい、うっかり、こちらに落ちてしまったようです。穴の空いた天井は後程構造を確認して補修させて下さい。」
あれ見ると罪悪感半端ないんだもん。どうなってるかわからないけど直さなきゃ。
「なんじゃ、あんなもの」
そういって真っ黒青年が見上げると、穴は消えてしまった。
…は?なんで?
「表面を整えるだけならこんなもんだろう。」
真っ黒青年は事も無げに答える。
あんぐりと開いた口のままカルロスさんを見ると
「地球には魔法は無いのですか?」
と不思議そうに聞いてくる。
異世界転生小説とかだと、地球のことはよくご存知だったりするけど、やっぱり実際は違ったか。
「地球には魔法はありませんし、そんなにぱぱっと何でも直せません。」
「なに?魔法がなければ人々はどの様に生活しているのか?」