僕は転生に憧れを抱いた⑧
帰り途中、海斗はまた転生した者を見ていた。
こんなにも連続で遭遇するものだろうか、海斗は不思議がった。
むしろ不気味でさえ感じていた。
場所は帰り道の十字の交差点だ。交通量が若干多いので俺は一歩下がって信号が変わるのを待っていた。
信号が変わらないときに、隣に並んでいた男性がふと飛び出したのだ。
その光景は今でも覚えている、スローモーションのように男はこちらをチラッと見やった。
そいつの顔を覚えている限りではあるが、顔立ちの整った男だったと思う、年齢にして大学生あたりだろうか。
ぶつかった瞬間にまばゆい光だけにその場が包まれていた。
音は無く、一瞬で流れる隕石をただ見ているように、光が燃え尽きたような感じだった。
「ただいまー」
「おっかえりー!!!」
「今日テニスの試合だったでしょ!?どうだった!?負けた!?」
帰路に着くと妹と猫のみーちゃんが出迎えてくれた。
なんという質問だ、妹はニヤニヤしながら意地悪に聞いてくる。
「途中でナンバー1と当たって負けましたよ!」
「ナンバー1ってあの一輝さん!?王子様じゃんー」
そう言うと妹は目がとろーんとなっていた。
一輝はテニスでも強いがルックスも王子様のような姿なので自分の学校以外でも女子から人気が抜群である。
うらやましい限りだ。
「まったくー!にいには調子のっちゃったんだね!!王子様と対戦できただけでも光栄と思っておくといいよ!」
みゃー!!みゃー!!
みーちゃんでさえ俺を笑ってるように見えてくるぜ。
……まったく。
本当にどっかのアイドルファンみたいなキャラにいつの間にかなっちゃったな。
もういいや、そう思い部屋へ行き着替えご飯を食べようとリビングへ向かった
「おー!!海斗!!勝負には勝ったか!?」
父親もテンションが高いな、本当に。
俺の父親はまだ40歳でバリバリに元気である。元気すぎて俺の体力でも奪ってるんじゃないかと思うほどだ。
「負けた負けた、負けましたよー!!!」
「んな!!!!!なさけねー!!!!!!」
「しょうがねえよ、ナンバー1だぜ、うちの。ナンバー4には勝ったけど」
「ナンバーナンバーうるせぇやつだな!!!!!そんなの関係ねぇ、大事なのは勝利だ!」
「……はいはい、もういいからご飯にしようぜ」
まだ妹と父親は俺に対してギャーギャー言ってくる、本当に似た性格だ。
「あれ、母さんは?」
「今日は仕事でまだ帰ってない!!!!俺のが一足早かったぜ!」
父親は自営業で家とは別の事務所で貿易関係の仕事をしている。
主に海外とのやり取りらしいが詳しいことはわからない。
母親は小学生対象の学習塾で勤務している、元々は教諭だったが色々とあって塾の方に転向したらしい。
地域でも人気があり、俺も誇りに思っている。
そんな二人は昔モデルの仕事をしているときに出会ったらしい。
全然関係ない仕事をやっていたらしいが、俺が生まれてから仕事を変えたと聞いた。
そうなのだ、二人とも美形なのだ。
なのに俺は……。別に不細工とまではいかないが、正直普通なのである。
多分妹に全部吸い取られてしまったのだろう。
まぁいいさ。
今日のご飯は大好きなカレーだ。
優しい匂いが部屋中に漂っている。
どうして家庭のカレーは懐かしさを思い出させるのだろう。
俺は明日から変わるかもしれない環境に少しおびえているのだろうか。
今までカレーに対して懐かしさなんて考えなかったのに、今は考えている。