僕は転生に憧れを抱いた⑦
街田駅は都会に比べれば劣るが、それでも大きい駅である。
学校からはバスを使うが約20分ほどの場所にあり、駅周辺にはお洒落なカフェや美容室、個人飲食店が立ち並んでいる。
更に駅へと近づくと居酒屋や飲食店のチェーン店が立ち並んでいる。
駅にはでかい円を描いたような広場があり、そこを囲むようにショッピングビルが二つほど立ち並んでいる。
そこのビルは最近建てられれたばかりで中には様々な飲食店や雑貨、本屋、服屋が入っていた。
人も平日でも多く、主に私たちのような学生が今の時間だと歩いているのが目立っていた。
夜はサラリーマンが好みそうな飲食店が多いが、今現在は仕込み中なのか準備中の看板が立ち並んでいた。
私と琴子はその円周辺から若干離れた所にあるカフェへと入った。
街田駅に来ると大体ここのカフェとなっている。作りも木造で見ていて心を和らげる。間接照明で照らされた店内は落ち着き、匂いも暖かく感じる。
私はこの場所をとても気に入っていた。
「葉月ー!!何にするー?新作の美味しそうじゃない?」
私も葉月も定期的に変わるカフェのオリジナルの飲み物がとても好きである。
季節ごとのフルーツを使ったシェイクの上に、ホイップクリームをたっぷりと用いており、その季節の果物がクリームの横に添えられている。
見た目も可愛いし味も抜群である。
今は季節柄、みかんのオリジナルシェイクらしい。
「でも、寒いから私はホットにしようかな」
ホットのオレンジジンジャーというのがとても美味しそうであった。
「んじゃ、私もそれにしよー!!!」
琴子は早速レジに並び、飲み物に色々と追加をしている。
席はこの時間でも意外と埋まっており、私たちは街を歩いている人が見渡せるカウンター席へと座った。
「これ、美味しいね」
一口飲むと広がるオレンジの香りと、ジンジャーのぽかぽかした湯気がリラックスさせる。
今の冬の季節にはぴったりだ。
「ふふ、葉月、海斗のこと気になってるんでしょ!」
急に核心をついたように琴子は聞いてくる。
飲んでいたオレンジジンジャーの味も急にわからなくなった。
下から見上げたような仕草でこっちをにたーっとした顔で聞いてくる。
「もー、だからそんなんじゃないってばー!」
私も急に聞かれたので咄嗟にこんな言葉が出てしまった。
「えー!そうなの?見てれば結構わかるんだけどなー」
琴子は前に向きなおし足をパタパタさせていた。
「でも、たしかに今日の海斗は格好良かったね、なかなか普段じゃ見れない光景だったし」
続けて琴子は言う。
「琴子は海斗とテニスを結構やってたの?それすら知らなかったよ私」
「うん、小学校から中学校まではよく休みの日にやってたかな?」
「へー、仲いいんだね」
店内には集団の部活帰りだろう生徒が入ってきた。ここのお店はチェーン店ながら学生にはとても人気である。
「単純にテニスが唯一近くで出来るって相手だったからね」
琴子はオレンジジンジャーと共に買ったガトーショコラのケーキを食べようとしていた。
「海斗のお父さんが熱血テニス指導者で泣きながら海斗もやってたんだけど、段々自分から熱がはいっちゃったって言う面白い話」
「ハハハ、確かにそれは面白いかも」
「ほらほらー!!葉月さん、次第に海斗についてもっと好きになったでしょー!」
「うーん、でも、海斗は優しいと思う、少しぶっきらぼうな所はあるけど一番最初に話しかけてくれたのは海斗だったし、海斗がいなかったら倒れっぱなしだったもん」
私は海斗と出会ったのが丁度雪が降っていた頃だなーと少し思い馳せていた。
「あー!そっか、葉月は転校してきたんだもんね、しかも海斗の家の前になぜか倒れていたんでしょ!?そして、変に私の質問濁したなー!!!」
そうなのである、転生した場所は海斗の家の前だった。
丁度雪が降りそうなこの季節に。
海斗が学校からの帰り際に私を見つけてくれたのである。
転生をすると世界と世界を結ぶ意識が当然ながらバラバラになってしまう、早い目覚めでも一日はかかってしまうのだ。
そんな状況でも海斗は私を看病していてくれた。
私は少し目を開けてから【誰にも連絡しないで欲しい】そう伝えて最後にまた眠っていたらしい。
海斗の家族も本当に優しく、その子の言うとおりにしてあげよう、と言うことを目が覚めてから聞かされた。
今現在は、別家族の家にお世話になっている。というより、転生した者同士のホームである。
本当の家族ではない。それでも今までとは比べほどにならないほど過ごしやすいと感じている。
「そうそう、あの時丁度熱で倒れちゃってさー、助かったよ本当に」
「もー!!葉月ってばー!いいもん、いつか教えてもらうもん!!
まぁ葉月が元気そうでなにより!最初は何か怖かったというか、一人にさせて欲しいオーラがばんばん出てたもん」
「えーっと……そんなに出てた?」
少し恥ずかしいなと思いながらも昔を思い出す。
「出てたよー!!!もう誰も寄るなー!!ってかんじ!」
琴子はそう言うと、またパクリとガトーショコラを美味しそうに頬張っていた。
「ははは、ちょっと今じゃ私が想像できないや」
「でしょー!!一年前なのに懐かしく感じるよねっ!」
店内ではジャズが流れており、音楽にはそこまで詳しくないが優しい旋律が部屋全体にちょうどいい音量で響き渡っていた。
ピアノの旋律に何故か懐かしくなる。
前の転生していた場所でギルドパーティの一人が音楽家だったのでよく聞いていた。
今となっては急に消えた私の事についてどう思っているだろう。
人が一人消えたところで結局時間が解決してくれるんだろうなと感じていた。
でも、この世界では優しい思い出が詰りすぎている。
次もし仮に転生したときに、私は耐えられるだろうか。
オレンジジンジャーの温かい湯気と、柑橘類の匂いが余計にノスタルジックな思い出を沸々と湧き出させていた、私の表情を琴子もなぜか少し切なそうに見つめていたのが印象的に覚えている。