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僕は転生に憧れを抱いた⑥

 周りの歓声は体育の授業だというのにどこまでも響き渡るくらいの歓声となっていた。 

 それもそのはずだった。誰が俺に対してテニスで全国クラスの奴らに勝てると思っていたのだろうか。

 万が一、一人いたとしてもそれは大穴狙いの馬券買いとってもいいだろう。



 ワー!ワー!

 海斗が!?あの海斗だぜ!!!

 えっ!?だって、相手だって全国メンバーの日向でしょ!?



 歓声はやまない。

 今まで浴びたことの無い声の嵐だ。


 とても気持ちい。

 目の前には四つんばいの様な格好で日向が倒れこんでいる。

 息が大分上がり、目も瞳孔が開いているようにも感じる。


 「まじかよ……」


 海斗が最後に聞いた声はそれだった。



 試合が終わり次の対戦相手だったが、これには海斗も惜敗してしまった。

 相手はテニス部のナンバー1、海斗も惜しい所まではいっていたが、ゲーム自体は何一つとれていない。 

 

 「海斗君、キミそんなに強かっただなんて」

 爽やかにナンバー1の一輝は俺に対して言ってくる。


 「うちでもナンバー3は取れるよ、せっかくなんだから部活入らない?日向は面汚しだしとてもじゃないけどうちの部では無理だね」

 勧誘までしてくる始末だ。日向も可哀想に、少し同情する。



 「生憎だけど、俺は今日の試合以外興味なくて、本当に申し訳ない」


 「そっか、まぁ仕方ないよね、うわぁ勿体無いなー」


 多分こいつは損得だけでしか考えていないんだろうな、全国でも名がある奴だ、それくらいじゃないとやっていけないだろう。

 そういう所が俺には無理だった。


 周りの歓声は当然優勝した一輝に向けられていたが、俺の活躍は意外と全校生徒まで伝わっていたようだ。

 校内ニュースにも載ってしまった。


 

 「号外号外ー!!!!!!!!!!!!!!」

 新聞部のやつらは駆け巡って全校に響き渡るくらいの声と駆け足で今日の出来事を貼っていた。


 波多野海斗、テニス部ナンバー4を倒す。


 見出しはこの形だった、ナンバー4の名前が出ていないのはテニス部の配慮だろうか。

 今日は時間も時間だったのでいい噂を明日の楽しみに俺は帰ろうとしていた。



 「ちょっとー!海斗、本当にすごいね」

 下校時間になり葉月が俺の前に来た。

 体育の授業が終わってからも俺はずっとテニス部のメンバーと話をしていたのでろくに葉月とも話せなかったのだ。


 「だろー!やるときはやるんだぜ俺も」


 「本当に見直したというか、なんというか、言葉も出ませんよ」

 葉月は俺に対してぽかーんと口を開けっ放しにしていた。


 「これで俺も明日からモテモテになるといいんだけどなー、そうすると転生のチャンスが出てくる!」


 「本当に転生の事ずっと考えていたんだね……」


 まただ、また切なそうな顔をしている。今にもどこか消え入りそうな、透明のような、目の前にいるのにいないような、何処かにいってしまいそうな、そんな顔をしていた。

 何度か転生の言葉を葉月に対して出してきたが、葉月は毎回同じような顔をしている。


 「なんだよー、俺が有名になったからって寂しいのかよ」


 「……それもあるのかなー」


 「なんだよ、煮え切らない答えなんてらしくないな」


 「そうだね」

 

 どうしたんだ葉月は、本当に俺が転生するとでも思っているのだろうか。

 俺だってできるならしたいが、そんな表情をされると俺はどうしたらいいかわからなくなってきた。


 「おっめでとー!!!!!さすが海斗、本当に強い!!」

 少し静まった状況で琴子が炸裂してきた。

 タイミングがいいのだろうか、一先ずは感謝しておこう。


 「でも、ごめんね海斗!!今日は葉月とカフェデートだから一緒には帰れませんよー!!!!!」

 言い方がやたら憎たらしく感じていた。


 「へいへい、何処にでもどうぞどうぞ」

 俺は一先ず下駄箱へ向かい帰ろうとした、まぁ今日は丁度いいだろう、葉月も何か考えているみたいだし。


 「ほらほら葉月もそんなしょげた顔しないの!!」


 「えっ!?いや、別にしてないし!」

 なぜかやたら葉月はむきになっていた。


 「じゃあ、まったねー海斗!!!!!」



 琴子はまるであばれ馬のように葉月の手を取り疾走していた。

 有無を言わせないその性格は羨ましいなとも思っていた。


 一先ず帰るか、海斗は少し溜息混じりに帰ろうとしていた。


 冬の夕方というのは物寂しい、空も灰色で世界全てが灰色の絵の具に塗られているようだ。

 さっきまでの空とは対称にどこまでも分厚い雲が漂っていた。

 


 今日は雪でも降るかな、雪か。

 そういえば最初に葉月に会ったときもそんな季節だったっけ。



 ふと、昔に情景を重ねながら海斗は校門を外にした。 









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