僕は転生に憧れを抱いた⑤
海斗は葉月の意図がよく理解できないまま体育の授業に向かっていた。
あまり深く考えても意味無いだろうなーという気持ちがあったのでそのままにしておく。
葉月からあのような発言を受けたのは初めてだったのでどうしても意識はしてしまうが。
今日の授業はテニスだ。年に数回程学校でのテニス大会がある。優勝したペアには何と学食代が一週間も無料になるという何とも現金な大会だ。しかも表彰までされるので自然と学校でも人気が出る。
それが今日である。
うちの学校ではテニス部が強いらしく全国大会に毎回出場している、そのせいもありテニスにはやたらと力を入れている学校である。
体育のテニスは男女で行うダブルスのミックスルールだ。
当然だがテニス部が一段と輝くので羨ましいと思う反面、何とか部活の奴らに一泡吹かせたいとも思っていた。
ここで目立てば少しは女性からもモテるんじゃないかと考えて自前のラケットも持ってきた。ガットもしっかりと新調していた。
転生チャンス!!!!!
そんな気持ちがあった。
海斗は小さい頃からテニスを習っていた、父親がテニス好きということもありなんやかんや鍛えられている方だと自負している。
テニス部の皆にも黙っていたが、ジュニアの時代では全国出場もしている。そして今現在も父親とはテニスを毎週のように行っていたのだ。それもこれも今日という日のため。
というのは大げさだが、単純にテニスが好きなのである。
部活に入らなかったのは部活の仲が良くないからである。全国クラスともなると裏切り、蹴落としといった実力以外の部分で見られることも多い。
そういうのが苦手だったため海斗はテニス部に入らなかった。
テニスコートは両サイドに2面ある。なので自然と応援席が囲まれる形となっている。
ルールとしては経験者チームと初心者チームでの片面での試合となる。最初に初心者チームの試合を行い、後に経験者チームを皆で応援するという感じだ。試合に出たい人は予め先生に申し出るという形だ。
初心者チームは2ゲーム選手、経験者チームは4ゲーム選手となっている。
見ている分としては経験者チームのほうが楽しいであろう。
やはり女子達は経験者チームの応援席に固まっている。キャーキャーと聞こえる歓声に海斗自身も気持ちが高まる。
海斗はそこに自分なりの人生をかけていた。
「海斗ー!一緒にペア組もうよ!」
琴子が近寄ってきた。琴子は幼馴染であり昔からテニスもよくしていた。というより琴子自身はテニス部に入っているので強さは折り紙済みである。
俺も女子で組むとしたら琴子で考えていた。しかし少し問題はある……。
「あれー、琴子と組むんだね、じゃあ私どうしようかなー」
「というより、海斗テニスできるの?経験者側にいるけど」
葉月が丁度のタイミングで来た、しかも目をジトーっとしている。きっと俺がテニスなんて出来ないだろうって目をしている。
葉月自身はテニスをそんなにやったことが無いので初心者部類に入る。
葉月にも俺がテニスをしていたことは言っていなかった、特に言う必要も無かったからだ。
「ふふ、実は出来るんだよなー!!!隠してたけど!」
俺は高らかに何故か威張るような形で葉月に言い誇っていた。
それを明らかに葉月はうさんくさーというような眼差しをしていた。
当然だ、今俺の入っている部活は文学部系だからである。なので、葉月がそのような目をするのも当たり前の事なのである。
「琴子の足を引っ張っちゃ駄目だよー海斗、私は適当に組んで適当に負ける!!」
へっへーん、言ってやったぜみたいな態度をしている。
威張ることじゃない。と俺も目をすぼめる。
葉月は陸上部なのだが、球技はどうも苦手らしい。陸上に関しては足の速さは他校でも有名なほどだ。一体走ることの何が楽しいのだろうと俺は思っていた。
今日の試合に出たのも、一先ず運動系は全部やってみたいということだけである。
「じゃあ試合始まったら見に行くね海斗、それまで負けちゃ駄目だよー、琴子頑張ってね!」
「あったりまえ!海斗の恥ずかしい姿見に来てね♪」
琴子はそういうとウィンクをして葉月に送った。
こいつら、本当に茶化すのが好きだな。沸々と言いたい気持ちを抑えて握りこぶしを作っていた。
いいさいいさ、実力で見せてやる。
葉月が初心者コートに言ったのを確認して俺と琴子は完璧にテニス部を倒そうとアイコンタクトを送りあっていた。
琴子も俺の実力は知っていたので安心できる存在だ。
「あれれー!?琴子なんで海斗と一緒にやるのさ」
やっぱり来た。
「というより海斗お前テニスなんてできんのか?立派なラケットは持ってるけど。」
テニス部の4番手、日向が来た。髪が若干長く背丈も高い、目は釣り目で若干ホストみたいな雰囲気である。
4番手といってもやはり全国クラスとなると強い部類だ。
「日向ばかにしないでよー!!こう見えても海斗ずっとテニスやってたんだよ実は!」
あぁ、また余計なことを……。
その一言が日向をキレさせたのかわからないが、明らかに敵意を持ってこちらを見ている。
「んだよ、それ、舐めてんの?」
ごもっともである、流石に俺も逆の立場なら怒っているだろう。しかもテニス部女子エースの琴子となんか組んでいるのだから。
「というかさ、無駄じゃね、少しやってたくらいで経験者側にくるって意味わかんないんだけど」
少しカチンときている。
「まっ大恥かかせてやるよ」
別に俺はこいつと普段話すこともほろんどない。学校カーストでいえばこいつは陽キャ部類に大きく入る。
俺は真ん中あたりだと思っているが、そこはどうでもいい。
どうしてこいつはこんなに敵意を剥き出しにしているんだろう。
「あ、あははー、ごめんね海斗」
琴子が若干引きつりながらの困り顔で俺にごめんねポーズをしてきた。
なんとなーく察しがついてきた。
「実は私、日向と付き合ってるんだよね、多分それで嫉妬してるんじゃないかなと思うわけよ」
そうかそうか、琴子も女の子なんだな。
「なにそれ!もうバカにしないでよー!普段は優しいんだけどね」
それなら日向と組めばよかったんじゃないか?
「んー、そうなんだけど、あいつ試合となるとガチだから周り見えなくなるから苦手で……」
あー、シングルプレイヤーか、それなら仕方ない。そして俺に対して敵意を剥き出しの意味も分かった。
「ということで、まぁ気を取り直して頑張ろうー!!優勝の学食代は嬉しい!」
前向きな元気さでラケットを高々と上に掲げている。
普段は後ろ髪が長いが、今日の試合のためかハーフアップの状態である。
「海斗ごめんね本当に!変に巻き込んじゃった!」
急に後ろを振り返りペロッと舌を出す、ずるいなーとも思いながら何もいえない。
海斗も組む相手もいなかったし良いと思っている、組めない場合はランダムで先生から決められる。
ただ、テニス部からの視線が痛いほど今俺に突き刺さっている。変に注目を浴びてしまった、これだけが勘弁だ。
いや、まぁいいさ、一先ず勝って俺は転生したいだけだからウィンウィンってことで。
「さっすが海斗!さて海斗の実力もしっかり見せてよね!」
はいよ。
学生にとってはこれが青春の一ページというやつになるんだろう。俺にとっては転生をかけた一ページということになるのだろうか。
これが後々の思い出として刻まれるんだなと何故か先を思い馳せながら試合へと臨んだ。