僕は転生に憧れを抱いた④
葉月は転生をしたいなんて考えたことが無かった。
それは葉月自身が転生してきた者だからである。
海斗にはそれを伝えていない。伝えたらどんな反応をするだろう。
怒るだろうか、悲しむだろうか、行く方法を聞いてくるだろうか、転生した世界の話を聞いてくるだろうか。
それとも、何も感じないでいつも通り流してくれるだろうか。
最初に海斗自身から転生をしたいと聞いたときに本当は言ってしまえばよかった。
今となってはそんな後悔をしている。
今更言えるはずがない。
葉月はそう考えていた。
お昼休みが終わるチャイムが鳴り葉月は急いで教室へと戻った。
先ほど自身が放った言葉が恥ずかしくなり頭の中でグルグルと回っている。
教室では体育の授業為に着替えている女子が沢山いる。
男子は別クラス、というより物置小屋みたいなところで着替えるのがうちの学校となっている。
なんでも一度覗き見を集団で行った生徒がいるらしく、それ以降こっぴどく厳しくなった。
物置小屋の前には体育大学を卒業している若い先生が竹刀まで持って仁王立ちしているくらいだ。
そこまでしなくていいのに先生も、年齢的には仕方ないんだろうなーと葉月は考えていた。
この世界での葉月は高校生であるが実質年齢は20歳になっている。
葉月はゆっくりと着替えていたところでやっとさっきの屋上での状況を思い出す。
私何言っているんだろー、恥ずかしい。普段なら言わないのに、海斗がそんなに思いつめて考えているなんて知らなかったからついつい……。
まぁ向こうもいつも通りの生返事だったし大丈夫だよね。うん。
自己納得をしつつも全然着替えられていない私がいた。
「葉月ー!早く着替えないとおくれるよー!」
後ろから私の有無も確認せず胸をつかんでくる
「なに頬を赤くしてるのー!何かあったんでしょー?」
そりゃ急につかまれたら頬も赤くなるに決まってる。
でも今の状況だと何がなんだか分からなくなっている。
なんでもないと言った所で私のクラスの女子は通用しない。恋愛の話が好きなクラスだ。
私の前にいた世界ではそんな話は無かったから新鮮でもあるし楽しいと思える、ましてやこの世界は平和だと感じる。前にいた世界はそれこそ海斗が望んでいるような冒険ファンタジーの世界である。
葉月は5回ほど別世界に転生している。
正直に言うのであればこの世界を最後にしたい。
私にとっての大事な人も出来てしまった。
前の世界には無い大事な人を想う気持ち、その人を考えると出てくる元気な自分自身。
優しさ、可愛さ、仕草、行動、それら一挙一動を見ているのが新鮮だ。
大事な人は私の事をどう想ってくれているかはわからない。
でもそれでいい。
毎日たわいも無いことを話す現状、それだけでもいい。
私はどうしたんだろう、疲れてしまったんだろうか。
転生をし続けていて感じたことは次も普通の世界じゃないだろうなということ。
一番最初に私が産まれた街も酷い有様だった。
街は茶色に錆びきった建物の密集地域、水はインフラも整ってなく汚水ばかり流れていた。食料なんて今思えば小麦粉のようなものばかり食べていた。
所謂スラム街の世界というのだろうか。
母と父は共に居たが、別に彼女、彼氏をつくり家に連れてくる始末。毎晩4人で飲み明かし聞きたくない声や言葉ばかり聞こえてきた。そこで新しく妹も増えたが私にとっては赤の他人だった。
男性は私にとっては汚物にしか見えなかった。唯一の母でさえ狂っていたから生きる場所を私は探していた。
街が街なので逃げたところで行くべき場所がない。街は常に汚れていた。人もそこら中に転がっていた、誰も何も見向きもしない。話もかけない。それが日常だったからだ。
空気も何かが腐った匂いが毎日する。空は晴れることも無く灰色の世界のままだ。一緒にいた妹は耐え切れずに自殺してしまった。
私がもっと守ってあげればよかったのにという気持ちもあれば、早くこの世界から逃げれて良かったという気持ちがどろっと常につきまとっている。
私だけが今こんなに幸せな気持ちになってていいのだろうか。
ふとした時に考える。
海斗に見せる笑顔も仕草も声も全部私が好かれたいと思って作り出している。
前に海斗に言われたことがある。
「葉月ってたまにどこかいってしまいそうな表情してるよね。」
見透かされていたのだろか。
「ほらー!!!葉月なにぼーっとしてるのよ!!」
掴んだままの状態でまだグニグニと私の胸をいじっている。
「今日終わったら部活無いんだよね!?ちょっとカフェでも行こうよ!!!」
「もー!本当に琴子って元気なんだから!」
やっと発せられた。
「あったりまえじゃない!!元気じゃなきゃつまらないじゃん!」
「じゃあ今日学校終わったら街田駅で集合ね!」
張り裂けそうな心を優しく掬い取ってくれる琴子には感謝している。
毎日が非日常だった日々を日常にしてくれたのは琴子だからだ。
そんな春の陽気さに似たこの子が私は大好きだった。