僕は転生に憧れを抱いた③
海斗は転生に憧れていた。
なれないものになりたい気持ちが段々と強くなる。
考えないようにすればするほど考えてしまう。
朝の授業が終わり職員室へと向かう。
一応見た出来事だけでも話しておこうと思ったからである。
「先生ー、自分昨日転生した生徒みましたよー」
そこではいつ、どこで、どんな感じで転生したかを聞かれた。
後々知ったことだが、転生した人を国に報告することで現地調査が入るらしい。
謝礼を受け取れるということも後々知った。
解明されていないことを探るのには膨大な資料が必要らしい。
当然謝礼を受け取れるのはその先生ということになるが、海斗にとってはどうでもいいことであった。
お昼の休み時間、開放されている屋上で寝そべって漂う雲をゆっくりと眺めていた。
今日は天気もよく雲もはっきりとしたコントラストで空と相まっていた。
ちぢれた雲は一つ一つゆっくりと列を成して動いている。
冬で空気が澄んでいる、風は若干冷たく全身を撫でていく。それでも外で昼食を取る。
何も考えずに空を見るのが海斗はとても好きだからだ。
開放されている屋上にも関わらず人は誰一人としていない。
皆教室でスマホやら音楽やらを楽しんでいる。
外で遊んでいる生徒も最近では見なくなった。
「ほらー海斗、またここにいた」
葉月がお弁当を持って隣に座ってきた。
葉月もたまに屋上に弁当をもってくる、弁当といってもコンビニで買ったサンドウィッチだ。
「うんー」
「なに、考え事?らしくないなー」
そういいながら隣の葉月は美味しそうにサンドウィッチを頬張っている。
今この現在をとても楽しんでいるように、良い笑顔をしている。
「お前は転生したいと思ったこと無いの?」
常に今を楽しんで生きてそうな葉月に対してふとした疑問を抱いてしまった。
むしろそれが正しいと思っている。
ただ、無邪気な笑顔を見ているとどうしても聞くに聞いてしまう自分がいた。
「んー、思ったこと無いかなー、今が楽しいし」
そう言いながら少し遠くを見つめている様子に伺えた。
その目はどこを見据えているのだろう。
「そっか、いいなお前は本当に」
「なによその言い方ー!なんかむかつくなー!」
素直に感情を出して怒っている姿まで眩しく見えてしまう。
そういうところが可愛いなと思っているし羨ましくもおもっている。
「まぁ転生ばかりがいいことではないんじゃないかなー?」
葉月がふとそんなことを言う。
「なんでさ」
「だって、転生した人には良くても周りの人達にとっては寂しいことなんじゃないかな」
「んー、そんなもんかなー」
「絶対そうだよ、だって海斗が転生したら悲しむ人だっていっぱいいるでしょ」
俺が転生したところで悲しむ人が思いつくといっても、家族と数人の友達と、あとはあれか、家で飼っている猫のことか。
……猫って悲しむのだろうか、居なくなったところで全然気にしないで日向ぼっこでもしてるんじゃないか。
「そんなにいないんじゃないかなー」
「もー、本当に色々と気づいてないね!私は海斗が居なくなったら寂しいよ」
「そっかー」
ん、俺はこれをどう受け止めていいのだろう。
さり気なく普段通りの会話の流れで生返事をしてしまったが、考えれば考えるほど恥ずかしくなってくる自分がいた。
タイミングもよく昼の鐘が鳴り始めた。
「あっ!やば!次体育じゃん、早く着替えなきゃ!しかも今日はテニス祭りだよ!」
本当にタイミング良く葉月も食べ終わり、海斗が振り返った頃には葉月は既に階段を駈けていた。