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僕は転生に憧れを抱いた⑩

 海斗は高まりを抑えながら学校へと赴いた。

 いつもと同じ景色なのに、今日に限ってはそれが通じずまるで自分が俳優になったような気分で歩いていた。

 緊張しないような素振りをしていたが、視線がキョロキョロしてしまって定まりがつかないのである。

 一歩一歩踏み出す足にも緊張が伝わっているのかぎこちなくなってしまっている。

 それもそのはずだった。

 昨日テニスの大会で日向を倒したのだ、俺はその称号を一段と噛み締めていた。


 学校の校門をくぐった瞬間に数多の生徒が海斗をちらちら見ているのが自身でも感じていた。


 「あっあいつだぜ、昨日のテニスで全国のメンバー倒したやつ」


 「何組だっけ?確か名前が海斗って言ってたっけ」


 「しかし凄いよな、全国倒すだなんて」


 男子から聞こえる声もあれば


 「あの人でしょ?海斗って人」


 「えー!結構カッコいいじゃん、可愛いタイプかな?」


 「もー、直ぐイケメンかイケメンじゃないか判断しちゃだめだよー」

 

 「あの人が日向君に勝った人だっけ?」


 「あー、海斗君ね、隣のクラスの男子だけど、いつも結構大人しいと思ってたのにびっくり」


 「ねっ!ちょっと意外性あってびっくり」


 「確か葉月と仲良かった気するよ」


 「むぅ、ちょっとアタックしてみようかな、ちゃんと見ると可愛らしい感じに見えるし」


 等など、女性からの声も聞こえてくる。

 海斗の五感は今とてつもなく研ぎ澄まされていた。普段なんて他人の会話なんて何も気にしていないのに、こういう時の神経はどうしてこうも反応するのだろう。

 

 敢えて、そーでーす!俺が日向を破った海斗でーす!どうだったあの試合!?実はあのナンバー1からの誘いもあったんだぜ!


 こんな感じのテンションでいきたいのだが、どうも俺に合ってない気がする。

 それに、今までの俺を知っている人から見れば、どうしたんだろうこいつ、という結果になるのは明白だった。 

 

 なので、嬉しい反面、どうしたらいいかわからない気持ちが強くなっていた。

 

 校内に入り下駄箱でいつものように上履きに履き替えようとしたき、それに気づいた。

 恐らく今現代のやり方であればSNSなどから俺を探し送るのが一般的だろうと考えていただけに、それを見つけたときは鼓動が止まらなかった。

 ただ、自然にいつものように、それを大切に内ポケットへと仕舞った。


 ※海斗くんへ※


 ラブレターというものである。ラブレターがこの世にあるというのは知っていたが、それが身近に、しかも唐突に発見するなんて思ってもいなかった。

 字も一瞬しか見えなかったが、女性であるのは確実だった。

 丸文字で少し細い字体、薄くは書かれていたがはっきりと読める字である、それでいて装飾も可愛らしいマスコットのキャラクターが描かれていた。


 海斗は嬉しさを表現する方法がわからないが教室に入った瞬間にいつものメンバーに指摘された。


 「おい、海斗、お前にやつきすぎだろ」


 自然に緩んでいた表情は俺には似合わないとまで言われた。

 

 「気色悪ぃ顔してるなー、ったくテニスで目立っただけでこうも人ってかわるのかよ」

 しくしくとうつ伏せになりながらもう祐介は嘆いていた。


 「まぁ海斗があそこまで出来るなんて知らなかった……先駆けなんて許さないぞ」

 ボソっと一年中前髪が長い哲也も俺に向かって珍しく話していた。


 クラスでは俺に話しかける奴はそう多くは無い。

 しかし、俺自身に対して尊敬というのだろうか、いつも特に目立たないのに、まるで原石から発掘されたダイヤモンドのように眩しく俺の事を見ている姿が見て取れていた。


 「あっ、海斗君おはようございます、昨日の試合凄かったね……私ずっと実は海斗君って私とかと同じ目立たない人だと思ってたけど、何か感動しちゃって……えっと、それでね……」

 凄い失礼なことをモジモジと俺に伝えてくるのは金沢遥である。

 俺自身3,4回ほどしか話したことは無い、悪い言い方をすれば影が薄い。

 セミロングの髪が内巻になっており、肌が真っ白である。もじもじした話し方は態度にも出ており、目線が段々と下にいっている。

 確か部活は天体部だった気がする。


 「……」

 海斗はその遥に対して見つめてみる。


 「あっ、ごめんなさい、失礼なことを言ってしまって……」

 遥は更に下を向いており、たまに俺の気を伺ってくる。


 「……」

 まだ見つめてみる。


 「……な、なんですか、あまり見ないで下さい、ごめんなさい」

 遥はまるで何かに怯えているように謝ってくる、特に何もしてない身としては面白いと思ってしまうが、さすがに可哀想になってきた。


 「おい海斗、あまりいじめんなって、可哀想だろ、ごめんね遥さん、こいつどうしようもない奴だから」

 まるで自分は良識人ですよというアピールを祐介はしてくる。


 「いえ……私が失礼なことを言ってしまったんで、それではまたです」

 遥は蛇の睨みから解除されたようにそそくさと自分の席へと向かってしまった。

 何が言いたかったのかいまいち理解できなかったが、間近で見ると可愛らしい子だなということがわかった。


 「いいなー、海斗、本当にお前もててるんだな、やはり俺もスポーツ系やっとくべきだったな」

 祐介は俺に対して嫉妬のような態度で目を細めながら言ってくる。


 その嫉妬も嫌味が無いので祐介は好きである。

 海斗は別に自慢をしたいわけではないのだ、テニスも人生を掛けた転生になるための布石だと考えていた。

 しかし、やはりあまり話したことのない女子からも話しかけられるように、海斗はそれに対して高揚感を覚えていた。


 いつものように授業が始まり、朝礼からの数学が始まった。

 海斗は成績も特に目立って言い訳でも悪いわけでもない。

 普段であれば授業を聞いてノートを取り、少し時間が余れば端っこに絵を描いたりしているような極普通の生徒である。

 数学自体は嫌いではない。むしろ答えがはっきりとしているので好きな教科である。

 先生の話も面白く、本当に学校の先生になりたかったんだろうなという想いもひしひしと伝わってくるのである。

 だが、今日に限れば先ほど下駄箱に入っていたラブレターをこっそり読むという謎のミッションが自分の中であった。


 休み時間は祐介達といつも話をしているし、授業が終われば部活になる。

 そこまでどうしても待てないという思いから、こっそり読もうという気持ちになっていた。


 悪いことをしている気分を何故かこのとき初めて味わったのである。

 

 授業がはじまり、先生が黒板に数式を書いている。

 そこがチャンスだと思い内ポケットからこっそりと手紙を取り出し机の中へと先ずはしまった。

 

 先生が次の公式を書いているときに海斗は封を開けた。

 初めての体験だった。何でも初めての体験というときはこうも胸が躍るのだろうか。

 心臓がバクバクいっているのが感じる、封から手紙を取る時は更に胸が高まっていた。



 ※※※海斗くんへ※※※

 

 同じクラスの金沢遥といいます。覚えてくれていると嬉しいな。

 突然の連絡ごめんなさい。

 

 でも、昨日の試合を見ていて本当にかっこよくてびっくりしちゃいました。

 私も普段は自信がないんだけど、正直海斗くんも私と同じ部類なのかなとか考えていました。

 ごめんなさい。


 それが昨日の試合を見て本当にびっくりです、語彙力無くてごめんなさい。

 本当に感動しちゃったんです、最初はまさか海斗くんがテニス?って思ってたんだけど、試合になると別人のようで、普段見ていた海斗くんと違うからどきどきしちゃいました。

 私もそんな風に堂々となれたらいいなってずっと思ってたの。

 

 さっきから変なこと言ってごめんなさい。

 もう少し海斗くんについて知っていきたいなと思って手紙にしちゃいました。


 今日もし話せたら少しでもいいので話しかけてみます、うざいとか思ったらごめんなさい。



 ※※※金沢 遥※※※



 読んで感じたことは、何度謝っているのだろうということだった。

 


 

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