表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/31

七.キョンシー使いの危惧

 日も傾きかけた夕刻。人気のない、使われていない古い教室に、五つの人影がやって来た。その内の、飛びぬけて小さな影が、てくてくと教室内に入る。


 小さな赤い下駄、白い足袋。紅白の巫女装束を身に纏った、長い黒髪の童女――綺羅姫は、立ち止まって振り向いた。


 その顔は、何か文句を言いたそうな表情で溢れているが、口にはしなかった。


「それじゃあ、あたしたちも帰るね。もう誰かを巻き込んだり、迷惑かけちゃダメだよ」


 手を振る副会長。返事はしなかった。代わりに、ふいとそっぽを向いた。それを見て、書記が冷たい眼差しをぶつけてくる。


「分かっているでしょう? あなたに関わった人間は、みんな不幸になるの。あなたの正体を知られて、辛い思いをするのはあなたなんだから、いい加減大人しくなりなさい」


「まあまあ、今日はその辺にして」


 追い詰めるような書記の説教を、会計が宥めて終わらせる。その側で、新入生が険しい顔をしていた。副会長が、その顔を覗き込む。


「どうしたー? ケンカ番長」


「誰がケンカ番長だ。勝手に変な役職を作るな」


「だって、他に役職ないし。さとる先輩は、魅惑のプリンスとか名乗ってたよ。それでも引き継ぐ?」


「絶対に嫌だ。何考えてんだ、あのバカ兄貴は」


 ケンカ番長は機嫌悪そうに副会長に愚痴った。


「それより、あんな脅しで今時の高校生が大人しく従うとでも思ってるのか? 後でシメて言い聞かせた方がいいぞ」


「そんなことしたら、余計に事が荒立つじゃんよ。大丈夫だよ、そんな口の軽そうな娘には見えなかったし。心配要らないって」


「どうだかな」


「何よ、あたしのやり方に文句でも?」


「そうじゃないが。ただ、あいつにあの捨て台詞は、逆効果じゃないかと……」


 ケンカ番長は憶測する。前々から鬼だ鬼だと騒いでいた、あのおかしな女子生徒には、常識が通じないであろうと。まして、あの台詞では、鬼探し頑張れよ、と応援しているのと変わりないのではないかと思えるくらいだと。


 その意図を簡潔に説明すると、副会長は少し考え込むような素振りを見せるも、やっぱり特に何も考えていないように振舞って、軽く返答した。


「とにかく、暫くは彼女から目を離さないように。暁くん、同じクラスなんでしょ、頼むわよ」


「言われなくても、前からやってる。あいつは危険人物だ」


「あー、そんなこと言って、あの娘にホの字だったりしてー。キャハハ!」


「ふざけんな、ぶっ飛ばすぞ」


「わー怖ーい」


 ギャーギャー喚く、賑やかな声は次第に立ち去り、そこには静寂が訪れる。


 教室の中で一人立ち尽くす童女が、拳を強く握りしめる。わずかに頬が綻び、口が釣り上がった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ