プロローグ とある男子生徒の懺悔
人生の終わりを覚悟した、そんな一瞬。
廊下の死角に小さくなって座り込んだ身体は、オンボロの機械のように激しく震えていた。
立ち上がれない、腰が抜けた。
側には、たくさんの生徒や先生たちが倒れている。息こそあるものの、このままでは鼓動が止まるのも、時間の問題だ。
あの化け物の姿が、今でも目蓋の裏に焼きついて離れない。瞬きするたびに、その白い髪が、赤い眼をした般若の仮面のような顔が浮かんでくる。
全身の水分を気持ち悪く揺さぶる、悲鳴にも似た奇声が、鼓膜を振るわせた。
幻聴ではない。すぐそこまで、迫っている。
こんなはずじゃ、なかったんだ。ただの好奇心だったのに。
とんでもない罪を犯してしまった。
僕が解き放ってしまった化け物のせいで、多くの人たちの命を犠牲にしてしまう。
この危機的状況を何とかするには、僕自身が蒔いた種を摘み取らなければならない。
術は発動した。道連れになるのは、僕の魂だけだ。
覚悟は決まった。しかし、悔いは残る。
彼女の心に、大きな傷を作ってしまった。あの娘の古傷を、抉ってしまった。
ごめんなさい。
全てを元には戻せないけれど。せめてこれ以上、誰も泣かずにすむように。笑顔でいられるように。
できる限りの努力をしよう。
震える足を酷使して立ち上がり、おぼつかない足取りで、死角から飛び出した。
耳元で、鬼気迫る制止の声が響く。しかし、立ち止まるわけにはいかない。
僕は勢いよく廊下を駆け抜け、一直線に化け物――鬼めがけて突っ込んだ。