サタンの過去
魔王の腹には、剣で開けられた風穴から、血が垂れている。
「ウリエル、いつ記憶が戻った?」
「あらパパ、何を言っているの? 初めから記憶など失ってわ、パパが勘違いしていただけよ」
先程ゼウスと名乗ったウリちゃんの目は、以前のものとは異質に見えた。
ゼウスは、魔王を蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
魔王は、地面に叩きつけられ、砂埃が舞う。
「勇者、あなたはどうするのかしら?」
「どうするって、なんだよ」
「私は今からこの世界を終わらすのだけれど、あなたはどうするのか聞いているの?」
口調がすっかり変わってしまったウリちゃんは、次元の違う話を持ち掛ける。
世界を変える? 無理に決まってるじゃないか。
そんな俺の考えを否定するように、ウリちゃんの上空からは、白い光が降りてくる。
「手始めに私の家を造ることにするわ」
光は地面を抉り、空には穴が空き、光に飲まれる。
頭で考えるより先に、体が魔法を発動させる。
魔王の所まで飛び、魔王を抱えて、家まで瞬間移動する。直観的な行動だった。一歩遅れたらどうなるか分からない。
「……なんだ、あれ」
家の窓から、元魔王城の空を見ると、空が無くなっていた。なら、そこには何があるのか……わからない。
ただ、白い空間が無限に広がってるように見えた。
魔王の腹に穴が空いているのを思い出して、すぐに手当する。
「おい、しかっりしろ! 治れ、治れよ!」
治癒魔法を掛けるが、治る気配はない。血がトロトロと垂れて、床に広がる。
「レーン…………私の首裏にある…………魔法陣に……手をかざせ……」
頭の中はパニックなっており、サタンの言葉の意味を考えず、サタンの首裏の魔方陣に手をかざす。
サタンの体が紫色に発光し、膨大の魔力が集約する。この魔力の流れは、転移魔法? いや、似ているが、本質的な物が違う。
光に視界を奪われ、光が収まる。瞼をゆっくりと開けると、そこには、サタンが裸で立っていた。
「…………おい、なんで裸なんだ」
「…………今日はハロウィンだ」
「それは無理がある」
よく見ると、腹の穴は塞がり、ギズが肉で埋め尽くされたような跡が残っている。
「お前、何したんだ?」
「予備の体を私の体と融合させた。予備の体は一つしかない。つまり今回が最後だ」
「そんな事が出来るのか! 俺のも作ってくれよ!」
「無理だ。予備の体を造るには、自身の魔力、身体能力、それらを半分にしなければならん。それではゼウスには勝てないだろ」
なるほど、つまりさっき戦ったサタンは全力の半分だったってことか。恐ろしいな。
確かに今のサタンからは、以前のは異質の魔力と覇気をかもちだしていた。
「ゼウスを倒すってお前、あれはウリちゃんだぞ!?」
「そうか、まずはその話をしなければならぬな」
サタンは裸のままあぐらを組み、語り始める。
「あれは、我がお前に負けた後のことだ」
・二十年前
我が負けて、死に損なった。我は一人だった。部下の残骸を跨ぎ、意味もなく歩き出す。
ひとしきり歩くと、目の前に白く大きな扉があった。そこを開けると、中に広がる光景は、この世の物とは別次元の空間が広がっていた。
白い地面。白い空。そして、白い羽を備えている天使。
「お前は」
「あら、あなた誰? こんな所に来ちゃいけないわよ」
天使が伸ばした手には微かに殺気を纏っていた。
瞬時に天使の手を払い除け、剣を天使の首筋に添える。天使はビックした様で、目をかっぴらき、身動きを取らなくなった。
「あなた下の世界の者でしょ? 何故そんなに速く動けるの」
「そうか、我のいた世界は下か、ならここが上の世界…………つまらなそうだな」
天使に添えた剣を下げる。天使は隙を作ったと思ったのか、攻撃を仕掛けてきた。
攻撃をいなし、その手を切断する。
「上の世界の者にしては弱いな」
「……図に乗るな!」
天使は光を発し、その体は引き裂かれ、空間ごと、崩れ落ちた。
目が覚めた。
今のは夢か。空は青く。地面は土と石が混じっている。横には、羽の生えていない赤ん坊がころがっていた。
「お前、天使か?」
「……うぎゃぁぁああ!!」
泣いてしまった。しかし、こいつは天使だ。赤ん坊でありながら、天使と同じくオーラを微かにかんじた。
我は魔王だが、赤ん坊を捨てて帰る訳にもいかない。仕方ないから、育てることにした。
何年か経ったが、天使は我のことをパパと呼び、愛くるしくなついていた。我は、あの時の記憶を忘れているのでわないかと、思ったが、万が一の為、分身を造って、人間に紛れて生きる事にした。
・現在に戻り
「つまり我が育てた時から、記憶が残っていたらしい」
「…………お前が悪くね?」
いや、何、上の世界って、天使って本当にいたの? てか、お前なんで白い扉の中に入るんだよ。天使だと知っててなぜ育てた。めっちゃ優しいな、お前。
「しかし、ゼウスはこの世界を滅ぼすと言っていた。なら、倒すしかあるまい」
「……でも育てて来たんだろ? 愛情とか残って無いのかよ」
「我は魔王だ、愛情など持ち合わせておらん」
さっきの優しい魔王とは、いったい。俺の感心を返して欲しいよ。
「だが今のままでは、我達が力を合わせてもゼウスには、勝てないだろう。そこで一つ作戦がある」
うーん、なんだろう。確かに今のままじゃ、ウリちゃんには勝てないと思うけど、そんな急にパワーアップするシステムは、この世界にはないと思ったけど。
少しの期待を胸に、心して聞く。
「レーン殿の聖剣を使ったら我、めちゃくちゃ強かった」
「…………何その喋り方」
ついに、お前、キャラが明後日の方へ飛んでったな。
「聞け。ここからは我の憶測だが、我の愛刀を持ってみよ」
喋り方が戻ったかと、安心して、サタンが愛刀を手渡してくる。
そっと掴み、自分の方へ引き寄せる。想像以上に重かった。持てなくは無いけど。
「どうだ、何か変わらないか?」
「何かって言われても」
試しに剣を、軽くひと振りする。
スーーウォン!!
軽く空間が裂けた。
「おい、何やってる!! 手加減しろ!」
サタンが必死に裂けた空間を修復する。
なんだ今の、なんの魔力も込めてなかったはず。肉体だけの力だけで?
「うん、これヤバイな」
「我も想像以上だ」
「……」
お互いの剣を交換しただけで、これだけの力が手に入るってチートじゃね? 神様がいるんだったら、今すぐ俺ら消されるんじゃないの?
「レーン殿」
「ああ、これは」
「「勝てる!」」
まるで、実感がないが、確実に神の域に達したであろう、俺の力は、天使を確実に倒すだけの自信を得るのに十分だった。
「それじゃー行くか」
「ああ、準備は出来た」
二人は、支度をし、玄関をでる。
「「新作ソフトを買いに!」」
今日は、FPSの新作ソフトの発売日だ。