ウリちゃんの家出
おはようございます。レーンです。今日もいい朝だ。昼だけど。布団から出て、一階に降り、顔を洗い、歯磨きをする。
鏡を見る。
うーん。あるよ。角まだ生えてるよ。何なら昨日よりたくましく見えるよ。昨日はあんな適当に流したけど、一大事だよね。人間ってそうそう、頭から角生えないよね。アンビリバボーだよね。
まぁいいか。
冷蔵庫の中から昼ご飯を取り出し、腹に入れる。その後、二回に戻りPCを起動し、FPSを始めた。
ここで解説。
FPSとは、ファーストパーソン・シューターの略称であり、シューティングゲームの一種である。
ちなみにこの日は、トップランカーの人と対峙し、ボコボコにされてイライラした。
ああ、もう夕方か、そう言ってみればアジトがこの家の下にあるんだっけ。ちょっと行ってみようかな。
そんな気の迷いで、アジトに降りて、扉を開ける。
「あ、レーン殿、どうしたでござるか」
アドが真っ先に声をかけきたが、そんな声は俺の耳には届かず、目に映る光景に絶句していた。
なんか柄の悪い奴がいっぱいおる〜!!
アジト一杯に溢れかえる、いかにも悪人ヅラの集団がそこにたむろしていた。
「あぁ、何、この人達……」
「この人達は、ポスターを見て集まってくれた同士でござるよ、まさかこんなに集まるとは、思わなかったでござる」
いやホントだよ。なんでこんなに集まるの? アドのポスター見たくなってきたわ。
「今帰ったぞ」
扉が開き、ウリちゃんじゃなかった、ガブリエル団長が現れた。
「こんなに集まったのか、良くやったぞアド」
「このぐらい余裕でやんすよ」
よく見ると、ガラの悪い連中は、片膝を地面につき、敬意を表した姿勢で、ガブリエルに頭を下げていた。
お前ら初対面じゃないの? なんかおかしくないか、さっきから一言も喋んないし。
「ねぇガブ団長、よくこんなに集まったと思わないか? しかも、さっきから一言も喋んないし、敵のスパイとかじゃないの?」
これが全員敵のスパイの可能性だってある、一日でこんなに集まるわけがない。
「ん? だってウリが洗脳したんだもん、裏切らないです」
「え」
「今日一日歩き回って、強そうなヤツら洗脳したです、結構頑張ったですよ」
みんなに聞こえない程度の声で俺にささやく。しかし、俺はそんなのお構えなしに声を荒らげてしまった。
「ちょっと待てよ、洗脳? ダメだよそんなことしたら、自主的に参加した人ならギリギリ許せたけど、やるにも限度があるんだ」
そもそも、テロ組織の副団長の俺がこんな事言うのはおかしいが、俺も一人の人間だ、そこの所は間違えない。
「急にどうしたですか、人間なんて駒です、数集めて、捨て駒にするしか役に立たないです!」
胃の中の何かがこみ上げてくる感じだ。ゲロじゃないよ? 今までは軽い気持ちで付き合ってきたが、ここまで来ると、見過ごせない、元々戦争が起きそうになったら俺が止めるつもりでいた。でも、ここで終わらせるべきだ。子供のおままごとにしては、度が過ぎる。
「ウリちゃん、この辺でやめようよ、パパには俺から言っとくから、この人達を解放してくれないか」
「ダメです、人間なんてもっと数を減らした方がいいです!」
「いい加減にしろよ!!」
ごめんウリちゃん。これだけは、元勇者としてとかじゃなくて、人間として、我慢出来ない。
「今すぐやめないなら、おっちゃん少し、本気出すから」
「え?」
ウリちゃんが首を傾げている間に、地面を蹴り、ウリちゃんの背後に回る。
「ごめん」
うなじを狙って、チョップを撃つ。
パシッ。
俺の手は、うなじに届かず、ウリちゃんに片手で、受け止められた。
「!?」
「勇者なんてこの程度です、パパが本気を出せば瞬殺なのに……」
すかさず俺は距離をとり、警戒を全身に巡らせる。ウリちゃんが、ゆっくりと振り向くと、いつもの可愛い笑顔で微笑む。
「パパには、少し家を出るって伝えてくださいです」
「は?」
ウリちゃんの姿はいつの間にか消えていた。
俺の一撃は確かに手を抜いたけど、受け止められるとは、思わなかった。さすがに魔王の娘だなと、痛感した。
悪人ヅラの集団は、「あれ、どこだここ」と、呟きながら、出ていった。
「アド、お前は行かないのか?」
「はい、私は操られてなかったようでござる」
アドは今の状況を素早く把握しているようだ。お前、天才かよ。主人公並の分析力だよ、しかも冷静だし。
アドのことはひとまず置いといて、自宅に帰ることにした。
サタンが帰ってきて、ウリちゃんが家出した事だけ伝えた。絶対に俺殺されるかと思ったら。
「そうか、わかった、ウリエルもそんな時期か」
と、特にブチ切れてる感じじゃなかったかげど、少し考え事をしているような顔つきだった。
「そうだ、レーン、我は少し休暇を貰ったので、一週間ぐらい家にいることにするがいいか?」
「ああ、それはいいよ、お前頑張ってるからな、少しは休め」
名前を呼ばれた時はびっくりしたけど、そんなことか。でも、サタンって働いてないと何するんだろ、明日ちょっと観察してみようかな。
二人で夕食を食べて、それぞれ自室に戻った。
朝だ。間違えた、気持ちいい昼だった。今日はサタンを観察する予定だけど、なんかめんどくさいわ、ていうか、なんで観察するんだっけ、そもそも、サタンが何しようと、興味ないわ。とか思いながら、サタンの部屋の扉を開ける。
その部屋の状態を見て、少し考える。
「おはよう…………なにやってんのお前」
「…………FPSだ」
PCの画面を見ると、驚きの反面、サタンを蔑んだ。
「お前その名前、昨日俺をボコボコした奴と名前が同じなんだが、昨日reeenって奴とマッチングしなかったか?」
「……すまない、雑魚の名前は覚えていない」
かなりイライラしました。