反抗期の幼女
部屋で二人きりの俺とウリちゃん。ウリちゃんは、テロ組織のリーダーという事実を、サタンに隠したいらしい。もちろん俺もそのつもりだが。しかし。
「なんでウリちゃん、テロ組織のリーダーやってるの?」
「うぅ、レーに言いたくないけど、約束破るのは困るから……」
破らないけどね。
「実は……」
・とある日のウリエル
ウリはウリエル。魔王サタンの娘。最強でカッコイイパパは、何故か人間の世界で働いてる。気に食わない。
パパは、最強の魔王で人類は敵なんだ。だから、ウリはパパをもう一度魔王の座に戻すの!
その為には、この腐った平和な世界に戦争を起こさないといけない。また人類が醜い争いを始めれば、パパが怒って、人類なんか滅ぼしちゃうんだから。
だからまずは、テロ組織を作って、政権をひっくり返すの。最近の王様が企んでることは、すぐに分かったし、それを利用して、民衆を反逆に導く。そしたら、この世界は崩れて……。
「……みたいな感じです」
「後半えげつないな、ウリちゃん何歳だよ」
「きゅーさいです」
「かわいい」
極度に冷たい目で俺を見つめるウリちゃん。今なんか、悪いこと言ったかな。
しかし、王様が世界を覆す実験をしてるねぇ。そんなトップシークレットの情報をよくもまぁ仕入れたな。よく考えると怖いわ。
「それでレー、お前はこれから、ウリの組織の副団長です」
「は」
「ダメ? (上目遣い)」
「ぜひやらせて下さいです」
「あはは、レーはチョロいです〜」
くそぉー、何がチョロいだ! お前なんて、俺が本気出せば……かわいい。
「じゃー、副団長のお仕事を教えるです」
「しょうがないな、なんでも言って」
全くもってやる気にならない。要件だけ聞いて、他の団員にやらせよう、そうしよう。
「まずは、洗濯、炊事、お掃除、お買い物と…………」
「それ完全に主婦ですね、主婦の仕事ですね、決して副団長がやる事じゃないですよね」
「何言ってるですか、今は人手が足りなくて、アジトが大変なんです、副団長ならそれぐらい出来るです」
副団長の意味をはき違えている。しかし、ここで講義しても意味が無いことに気づき取り敢えず引き受ける。
「それで、アジトってのはどこにあるの?」
「着いてくるがいいです」
ウリちゃんはスタスタと歩いて行く。ショッピングモールを出て、アジトがあるであろう方向に向かう。
ショッピングモールの民衆は、既に解散していた。
数分歩くと、あまり外には出ないのだか、見慣れた景色が視界に飛び込んでくる。
「着いたです」
「あれ? 普通の一軒家じゃん」
「この家の地下にあるです」
「あーなるほど、それでなんで俺の家の下にアジト造ってるの?」
「………………あは!」
ウリちゃんの目からキラキラと星が飛び出しそうなウィンクをかまされ、俺の怒りは空高く消え去っていった。
かわいい。
じゃない! 俺の家の下にいつの間にアジト造ったんだ! 物音一つしなかったよ?
「取り敢えず入るです」
言われるがまま、自宅に帰宅する。ウリちゃんは、自室に入っていき押入れを開けると、ぽっかりと穴が空いており、ハシゴが掛けられている。
「なんてことしてんの!? 床治すのなかなか金かかるんだけど!」
「治す必要がないです、アジトに入れなくなるです」
あーあ、これはさすがに俺も怒ったぞ。怒らないけど。
ハシゴを降りて、数メートル下に下がる。すると、後ろに道があり、前には扉が現れた。
「さぁ、入るです」
扉を開くと、普通の家にあるリビング的な空間が広がっていた。
「わぁ、なんか、普通だね」
「うるさいです、これは団員が勝手に造ったところだから私には関係ないです」
団員めっちゃ優秀じゃん。感激したわ。けど、一人もいないよな。
「ただいまでございますー」
後ろの扉が開き、男のようだが、アホそうな声が聞こえてきた。
「よく帰ったです、そしてこちらが今日から副団長になるレーです」
僕の方に両手をビシッと伸ばし、指先をヒラヒラさせている。
「はじめまして、レーンです、副団長になりました」
「おおー、そうでしたか、レーンさんですね、私はアドと申します。よろしくお願いします」
俺はアドと握手を交わし、その外見を見つめる。髪の毛はボサボサで、服は赤と白のチェック柄。背中にはリュックを背負っており、ポスターを丸めたであろう物が飛びていて、典型的な丸渕メガネをかけている。
いや、お前、オタクだろ。口には出さないけど。
「二人とも、仲良くするですよ、私は今から家事をしないといけないので家に戻るです」
言い終わると、すぐに扉を開け、自宅へと戻って行った。んーん、俺は?
「あの、これから何するんですか?」
「そうですねー、私は今から団員募集のポスターを作るでやんすが」
テロ組織のポスターどこに貼るんだよ。瞬殺で捕まるだろ。まぁいいか。
「そうですか、俺はウリ…………ガブリエル団長に家事を任されたんですけど、他の団員っていつごろ帰って来ますか?」
「何言ってるでやんすか、ここは私と団長だけしか来ないでやんすよ」
………………は?
「いや、さっきショッピングモールで、あんなにたくさんいたじゃん、アイツらは?」
「あの方々はそれぞれ家庭を持ってるので自分の家に帰ってるでやんすよ」
アジトの意味とはいったい。
「アドはなんでここに来るの? 家がないとか」
「当たりでやんす! 私元々ホームレスでして、団長に拾ってもらったんです、まさに天使ですね」
悪魔だけどね、魔王の娘だけどね。
それで俺はここで家事をする? いいや、しない。なぜなら、特に汚れてないし、洗濯物ないし。
「アドは、飯どうしてるの?」
「コンビニでやんす」
うん、炊事もしなくて良さそうだ。まぁ、いろいろ理由付けてるけど、元々仕事する気ないし、ニートだし俺。働いたら負けだと思ってる自分はクズだと自覚してるし。取り敢えず、ソファーに横になる。
「私はポスター作りがあるのでこれで」
「ああ、がんばって」
角にある扉を開き、アドがその中に入っていく。
うーん、なかなかいいなここ。物音しないし、暑くないし。パソコンが無いのは致命的だけど、たまにはゆっくりするのもいいな。
瞼が重くなり、眠りに入る。
夢をみた。いや、夢を見ている。これは、魔王と俺が戦った時の記憶だ。でも、魔王城じゃない。街中だ。建物が崩れて、炎が煙を上げている。戦っている俺の隣には、白い……
目が覚める。白い天井が眩しい。ここがアジトだと気づき、扉を出て、ハシゴを上り、自宅に帰宅する。
夢を見ていたような気がしたが覚えてないので考えるのをやめる。
いい匂いだ。今夜は鯖の味噌煮だな。階段を降りて、食卓につく。既にサタンとウリちゃんは席についていた。
「レーンさん、召し上がってくださ…………レーンさん、頭から……角が生えてますよ」
鯖に橋を入れようとしていた手を止め、箸を持っていない反対の手で頭を撫でる。確かに硬く少し尖ったものが生えていた。
「あぁ、ほんとだ、生えとるわ」
不思議な事もあるもんだなぁと、思った。
「きっと、今日はハロウィンです!」
目の前に座っているウリちゃんが、いつもより機嫌が良く、ニッ、と笑った。
俺と魔王は顔を見合わせ口を揃えて言う。
「「なら、仕方ないな」」
その日の寝る時、角が枕に刺さって、枕に穴が空いた。