元魔王の娘
元魔王と一緒に住み始めて、約1ヶ月が経った。ある程度、元魔王がいる生活にも慣れ、ウリちゃんへの愛情が増す一方だった。
「ウリちゃん、おはよう、今日も可愛いね」
「なんで起きてきたですか、永遠に目を覚まさなくて良かったです」
「ウリちゃんと一緒なら、永遠に寝ててもいいよぉ」
「レーンさん、朝ごはんが出来てるので、席に着いてください」
いつも通りの会話を済ませて席につく。向かいの席には元魔王、サタンが座っている。
「「「いただきます」」」
サタンが作った朝食は、とても美味しい。初めて食べた時は、いろいろな意味で衝撃を受けた。料理全般をこなせる元魔王、気持ち悪いだけだね。
サタンは、誰よりも早く朝食を食べ終わると、仕事に出て行く。
「パパ、行ってらっしゃい」
「ああ、ウリエル、行っくるよ」
そんな、親子の別れを、暖かい目で見送り、朝食を黙々と食べ続けた。
「ウリちゃん、今日は一緒に買い物に行くんだよね」
「レーと一緒になんか行きたくないけど、パパからの命令だから、仕方なくだよ!」
おお、今のちょっとツンデレじゃね?
俺とウリちゃんは、大型ショッピングモールに、向かった。ここは、去年出来たばかりの、いろんな店が合体した所らしい。らしいと言うのは、実は俺ここに来るの初めてです。
「なぁ、ウリちゃん、俺、人混み苦手なんだけど……」
「これだからニートは、まだ着いて、五分も経って無いですよ、こっち来てください」
ウリちゃんに手を引かれ、人が少ない所のベンチに座らせられる。
「レーは、ここで待っててください、買い物済ませてくるです」
「え、でも、一人じゃ危ないよ」
「いい歳こいたオッサンは、ここで休んでてください」
それだけ言い残し、駆け足で去っていった。
そうか、俺はもうオッサンなのか、いつまでも、元勇者だからって調子に乗ってたよ。俺はもうただのオッサンだ。
頭の中で変な回想が流れていたと思ったら、警報が俺の頭に響く。
「おい、なんだこの音!」
天井のスピーカーから声が流れる。
「ただいま、ショッピングモール内に、強盗が入りました、お客様は警備員の指示に従ってキャァ……」
短い悲鳴を最後に女性の声は消え、かわりに図太い男性の声が鳴り響く。
「おい聞こえるか、お前らは人質だ、大人しくしてりゃ危害は加えねぇ、だが、変な動きをした奴は……殺す」
スピーカーに気を取られていた、いつの間にか黒装束のアサルトライフルを手にした奴らに囲まれている。
ここで説明しよう。アサルトライフルとは、魔王討伐後、技術が発展し、鉛の玉を飛ばして、敵を貫通すると言った武器である。この武器が開発されてからは、剣術は消え去り、銃火器の時代となった。
「そこのオッサン、こっち来い」
はっきり言って、元勇者であっても、銃で打たれれば死ぬ。皮膚は一般人と変わらずぷよぷよで、どこぞのアニメみたいに、鉛玉を指先でキャッチすることも出来ない。
俺は二階の広場に連れていかれた。ショッピングモール内の全ての人が集められていて、とても、ニートの体じゃ持ちそうにない。
やばいっ、ウリちゃんは、ウリちゃんはどこだ。見渡しても見つからない。やばい、もし殺されてたりしたら、俺がサタンに殺される。
近くの黒装束の男性3人組に声をかける。
「あの、金髪の少女はどこですか! 私の………………娘なんです」
今だけだからな、うん。
「あぁ? 知らねぇよ、なぁ?」
「おぉ、見てねぇぞ、なぁ?」
「んん、その子の名前はなんて言うの? 探してきてあげるよ」
おい、あんたら、めっちゃ優しいな、どうしたよ。まぁ、優しいにこしたことはない、人間、優しさが、1番だからな。
「ウリエルって言うんです、歳は9歳です」
「おい、聞いたか」
「あぁ、ウリエルだってよ?」
「9歳で、金髪だったらなぁ」
「おい、どうしたアンタら」
仲良し三人組の一人が思い出したように手を叩く。なんだよ、もしかして殺したんじゃ……。
三人組が一斉に俺の後に指を指し、一人が言う。
「金髪で9歳なら……あそこに」
後ろを向くと、いつの間にか設置されていた台の上にウリちゃんが、立っていた。
ウリちゃんは、手に持っているスピーカーを、口にかざし、声を吹き込む。
「私は、テロ組織、天の羽団、団長、ガブリエルだ」
他の天使になっとるぅううう。
「我々は、腑抜けた国王の政治を終わらせ、我々の世界を創る」
何を言っているんだ、ウリちゃん。9歳だよね? ウリエルだよね? その服どこで買ったの? カッコイイね。
ウリちゃんは、真っ黒の軍服みたいなのを着ていた。
「数年前、国王が何者かに暗殺されてから、世界は変わってしまった」
あ、あれ?
「新しい国王は、機械技術を発展させた、生活が便利になるからと、しかし真実は違う」
前の国王、殺したの俺ですね。
「国王は、秘密裏に世界を滅亡させる兵器を造っている」
民衆がゾワゾワと、動揺を見せ始めた。
「私達は、この国を乗っ取り、市民に安全を約束する、その為に我々に、力を貸してわくれぬか」
立派になったな、ウリちゃん。正気に戻ってくれ。
民衆の一人が声を上げる。
「いいぞ、国王なんて、やっちまえ!」
「そうだそうだ!」
「この世界は、アンタに任せたぞ!」
ウリちゃんは、堂々と、台から降り、去っていった。いや、民衆どもよ、少しチョロすぎないか? 今の聞いて、よく納得したな。
サタンよ、アンタの娘はどこぞの、テロ組織の、リーダーだとさ……。バレたら、確実に殺されるな、俺。
「すみません、娘見つかりました」
「え、あ、はい、お気をつけて」
キョトンとした三人組をあとに、ウリちゃんの方へ走った。
「おい、そこのおっさん止まれ」
銃を持った団員に止められる。
「ガブリエルの親父です」
「失礼しましたーーー」
瞬時に土下座する団員。どんな教育受けさせてんだウリちゃん。
ウリちゃんが入ってったであろう部屋の扉を開けると、やはりウリちゃんがいた。それも、着替え途中の。
「やぁ、ウリちゃんなにして……」
「キャーーーー!!」
甲高い声に惹き付けられるように、団員が部屋に入ってくる。
「なんだなんだ!」
「侵入者だ!」
いつの間にか、ウリちゃんはカッコイイ服に着替えてる。なんて早業。
「ちょ、まって、親父ですよ! ガブリエルの!」
「え、本当ですか、団長?」
「…………知らないわ、こんな人」
「取り押さえろ!」
「なんでぇ!」
結局、椅子にぐるぐる巻きにされた俺は拷問を受けていた。
「おい、お前何者だ、正直に言わないと鼻の穴にグリンピース詰めるぞ」
「なんでグリンピース! よりによって俺の嫌いな食べ物第4位!」
こいつらなんか、俺が本気出せば一瞬だが、ウリちゃんの前で怖いところは見せたくないなぁ。嫌われちゃうなぁ。
「もう良いぞ」
ウリちゃんが部下をかき分け俺の正面まで歩いてくる。そのまま足を思いっきり振り上げ俺の股間目掛けて、あぎぁぁああい!!!
「こやつは私が拷問する、お前らは出ていっていいぞ」
「は、はい!」
ぞろぞろと部下が出ていき、部屋には俺とウリちゃん、二人だけになった。
「ウリちゃん、なにしてるの?」
「……」
肩がプルプルと震えている。怒っているのだろうか、だとしたら俺は何か悪いことをしただろうか。
「ウリちゃん?」
「…………ないで」
「??」
「パパには言わないで!!」
パッと、顔を上げたウリちゃんの瞳には涙が溜まっていた。
俺は優しく言ってあげた。
「もちろん、言わないよ」
だって俺が殺されるから。