無職です
現在41歳になった俺の名前は、レーン。
元勇者である。
遡ること20年前のこと。俺は勇者に選ばれ、魔王を倒しに魔王城に向かった。
俺は天才で、剣術、弓術、槍術、魔法、あらゆる戦法を習得した。おかげで、パーティーメンバーはおらず、一人で魔王と戦うことになった。
魔王は玉座に座りながら、低い声で言う。
「よく来たな勇者、待ちわびたぞ」
「なんだお前、頭から角生えてるぞ」
「今日はハロウィンだ」
「そうか」
俺は死闘の末、魔王に打ち勝った。これで俺の長い旅は終わり、これまでの努力が報われたと思っていた。
ふと、今後の事を考えてしまう。
いや待て、俺はこれから何するんだ?
魔王を倒し、王都に戻ると、多額の報酬と栄誉を貰い、この世界の英雄になった。
道を通れば、握手を求められ、店に行けば無料で飯が食える。なんて幸せな人生なんだ。そう、思っていた。
月日は流れ5年後。
とある地下カジノの出来事。
俺の手札はトランプが五枚握られている。八が三枚、四が二枚、つまり。
「どうだ! フルハウスだ」
「残念、ロイヤルストレートフラッシュです」
「はぁあああ?」
目の前のディーラーが明らかにイカサマしたであろう手札を堂々と公開してる。しかし、方法が見破れない。くそが。
俺は地下カジノにハマった。魔王討伐報酬を持て余していたため、5年はもった。しかし、俺は圧倒的に「運」がたりて無かった。
負けに負けた5年間。俺は地下カジノの「カモ」と呼ばれるようになっていた。
「あぁ、やめだ、今日は帰る」
「またのお越しを」
ディーラーが深く頭を下げているが、それが余計に腹が立つ。
「くそが」
座っていたイスを蹴り飛ばし、地下カジノを後にした。
金がなくなった俺は、働く事にした。元勇者なんだから、そこら辺のAランクモンスターを一体でも倒せば、1ヶ月は遊んで暮らせる。
「そうとなれば、久しぶりに冒険だな」
26歳の俺は家の傘立てに刺さっていた聖剣を抜き、家を出た。
その日、俺はバッサバッサとモンスターを倒した。1ヶ月事に倒しに来るのは面倒だから、ざっと100体程のモンスターを倒した。
「ふぅ、これでまた10年はもつだろう」
体力の衰えは感じず、むしろ全盛期より強くなってる気がした。カジノで鍛えられたのかな?
ギルドに戻り、受付に報酬の確認をしてもらう。
受付にいる女性は、不思議そうな目で俺の方を見る。
「あれ、あなたどこかで見たような……まぁいいわ」
そうですか、5年前の英雄の顔など覚えてないですよね。悲しいなぁ。
「って、あなた! Aランクモンスターを100体!? 嘘、どこのどなたですか?」
「レーンと申します、元勇者の」
「………………ちょっとお待ちください」
受付は奥の方に言ってしまい、誰かと話している。
「……はい……元勇者の……レーなんとか……はい……わかりました」
受付が戻ってくる。
「あの、レリルホジザッスさん? 王都からの招集がかかりましたので、今すぐ向かって頂けますか?」
「わかりました、それと俺の名前はレリルホジザッスじゃないです」
「……そうですか」
どうでも良さそうな顔で俺を見ないで! これでも、元勇者だからね!
王城、玉座の間。
「困るよホリザッス君、モンスターにも生態系と言うものがあるんだよ」
王冠を被った5年前とさほど変わらない王様が、玉座に座り語る。モンスターの生態系って、なんだよ。
「元勇者なんだからって、Aランクを全滅させちゃいけないよ、ホリザッス君」
「すみません、それと、ホリザッスではありません」
「……そうか」
あんたがそれやると、スゲームカつくな、可愛い女の子なら許せたものの、死に損ないのジジイがやってもイライラするだけだから。そうだ、次「ホリザッス君」などとほざいたら、ケツの穴に聖剣ぶっ刺してやろう。…………いや、やめとこう。
「まぁ、これから君はモンスター討伐禁止だから、頼むよ」
「……はい」
俺は玉座の間を扉を開き出て行く寸前、後から声が届く。
「あ、それとホリザッス君」
「ライトニングスピア!」
雷の槍をジジイの額にぶっ刺してやった。おっといけねぇ、やってしまった。
「お前! ただで済むと思うなよ!」
「やべぇ、やらかした」
全力で王城を飛び出し、東にある自宅に戻った。
その後、俺はというと。特に何事もなく、1週間が過ぎても誰も家には来なかった。王都では王様のお葬式が行われたのとか、まぁどうでもいいけど。
俺はとりあえず働くことにした。元勇者だがらと言って、モンスターを倒したら、このザマだ。まともに働けば、一般人と変わらねぇ。
とある会社の面接。
「前の職業は」
「勇者です」
「それ以外は」
「特に無いです」
「自分の長所と短所は」
「長所は自分の下半身の聖剣で、短所は……ワキ毛が短いです」
「この会社に志望した理由は」
「家が隣なので」
「……そう言ってみればあなた、指名手配されてるの知ってます?」
1枚の紙を渡された。そこにはでっかく俺の顔が書かれており、こんな事が書かれている。
・この男を見かけた際には決して、近寄らず、金を与えないでください。捕まえても報酬は出ません。ご理解ください。
と、書かれていた。
「と、言うことなどで不採用です、お疲れ様でした」
面接官が立ち去り、特に何も無い部屋に取り残された俺。
「これからも俺はどうやって生きるんだ」
誰も答える者はいなかった。
月日は流れ、41歳になった。
おい、急にどうした? となるのは分かりますけど、まぁ、色々あったって事でいいじゃないですか。
41歳の俺はニートだった。金は何とかあった。いろいろあって。ここ10年で世界はいろいろ変わった。
電子機器の発達。これが著しい。我が家にもパソコンが一台ある。と言うか、これがないと俺は生きていけない。
食事はネットで頼み家まで運んできてくれる。日中はずっと寝ていて、夜に起き、朝までPCゲーをやる。これがまた面白いのなんの。どハマりした俺はここ10年、家から出てない。完全体ニートであった。
そんな日常も終わりを告げようとする。
ピーンポーン。
「ん、通販か」
1階の自室から玄関まで、のそのそと歩いて行く。
「はーい」
扉を開けると、宅配の服をきたおっさんが、荷物を持って立っている。
「宅配物です、ここにサインを」
ペンを渡され、サインを書く。それにしても外は暑いな。熱気が押し寄せて、クーラーガンガンの自室との温度差が激しい。
俺が一言話しかける。
「今日は暑いですね」
「はい、そうですね」
宅配のおっさんが帽子を取り、額の汗を拭く。そんな仕草を見ていて不自然な所があった。
(あれ、なんで角生えてるんだろ)
何故か、頭には角が生えていた。再び帽子を被ると、角は無かったかのように、突き出るはずの帽子からは一切影も形も無い。
口から思わず言葉がでる。
「あの、今日はハロウィンですか?」
「……………………お前、あの時の勇者か」
実に20年ぶりの再開を果たした勇者と魔王。
どちらも、見た目は、どこにでもいるおっさんだけどねぇ。