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光焔万丈(KO-EN BANJO-)  作者: 梅屋セイ
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【第一章】

殺陣(たて)とは

このお話には、「殺陣(たて)」という言葉がでてきます。殺陣とは、時代劇を例にするとわかりやすいですが、剣道とは違って「戦う」武道ではなく、演技としていかに魅力的に「魅せる」かというのを基盤にしている武道です。つまり、実戦を考えて作られているわけではなく、あくまで形を美しく見せるための武道なのです。

第一章


 

  「袈裟けさが甘い!」

 新宿のはずれにある大きな道場の殺陣(たて)の稽古場は、今日においては珍しく殺気が立っていた。普段は稽古中に師の他愛ない世間話や面白可笑しい長話で一日が終わることもざらだが、それは体験入門をしにきた初々しい学生や、初心者含む稽古の日だけで、俳優を仕事とする者だけが集まる火曜日は一風変わって厳しめだ。初心者には最後まで丁寧に教えてくれる稽古も、火曜日だけは一度で覚え自分で探求しなければならない。奄美(あまみ) (かおる)は、殺陣(たて)ができる俳優を目指していた。

  「あの。俺も隅のほうで、やっていてもいいですか。」

 郁は初心者の学生だが、いち早く俳優になりたいと志望し、毎週火曜日は高校が終わった放課後に見学をしに来ていた。先輩に承諾を得ると、早速自分も木刀を手に勢いよく振り始めた。

  「なんだあの子は。」

 俳優の卵たちを教える師は、火曜日は入れ替えで普段教える人ではない。いわゆる非常勤講師で、自らもまた現役の俳優である。見たこともない初々しい学生が、道場の隅で見様見真似に振っているのを見た講師は、興味深そうに傍にいた若手に聞いた。

  「ただの学生です。俳優を目指して、今日は見学に来たんですって。」

  「ほー・・・。悪くないな。」

 講師は郁に近づくと先ほどの鬼のような表情から一変して爽やかな笑顔を見せた。

  「君、名前は?」

 聞かれると、郁は目を輝かせた。

  「奄美(あまみ) (かおる)です!」

  「あー奄美ね、覚えたよ。お前、その腕悪くない。なんかやってたか?」

  「いえ、部活で殺陣をしているくらいです。火曜日はいつもここで見学をさせてもらってます。」

  「ほー。・・・見学するだけじゃもったいないから、うちの若手の相手でもするか?」

 講師のその言葉を聞いて、郁はなんとも言えない気持ちになった。

  「やってみたいです・・・!」

 若手とはいえ、現役の俳優と手合わせができる。己の能力を知る大チャンスだと思ったのだ。

  「四方切りの型はわかるな。」

  「はい!」

 この道場での四方切りは、まず主となる人物が前後左右に立ち回り、残りの三人が主となる人物に斬りかかる技だ。《この道場では》と強調したのは、道場によって型や流儀が異なるからである。郁はこの中で、《主となる人物》ポジションをやらせてもらえた。

 呼吸を整え目配せをした後、一気に空気が変わった。

  「やぁあ!」

 前方から斬りかかってくる。郁は息を合わせながら後方に立ち回り袈裟(けさ)をする。その後も休む暇なく斬りかかってくる《敵》に対し流れるように腕を動かした。

 

 その時だった。


 ぐおん、ぐおんと周囲の動きがスローになり、郁自身も体が思うように動かなくなった。

  (な、なんだ・・・!?)

 そして、だんだん物体が認識できないくらい景色が吸い込まれたかと思うと、もの凄い速さで体が吹っ飛ばされる感覚に襲われた。それは呼吸ができないほど速く、体が引きちぎれるかと錯覚するほどだ。それも一瞬の出来事であった。

  (なんだったんだ・・・?)

 薄目を開けると、目の前には血相を変えた侍が今まさに郁に斬りかかろうと襲いかかってきた。

  「うわぁああああ!!!」

 咄嗟に身を回避すると、目に飛び込んできたのは本物の刀だった。ひい、と悲鳴が漏れる。ふと自分の手元を見ると、稽古で使っていた木刀を握っていたことに気が付いた。

  (木刀なんかじゃ役にたてねぇよ!!)

 するとすぐ間髪入れずに、今度は横から別の侍が斬りかかってきた。郁は瞬発力を駆使してまた回避する。

  「どうしたらいいんだよ・・・!」

 考える暇もなく、三人の侍は容赦なく襲い掛かってくる。回避していると、なんだか体覚えのある感覚に懐かしさを感じた。

  (これ、知ってるぞ。・・・そうか!)

 ひらめいた途端、敵の動きが全てわかるように体の動きが軽くなってきた。

  「この型、四方切りか!」

 郁は手に持っていた木刀を再度、握りしめると型に沿うように美しく立ち回った。見事に回避したが、これで解決したわけではない。

  「くそ、先が読めているみたいだ!」

  「どうする!?」

  「くそ、死ねー!!」

 侍は激情すると、勢いよく振った刀の剣先から出た風圧から、氷の破をこちらに向けて放った。

  「!?」

 郁は目を疑った。あれは殺陣でもなんでもない、現代にはないまるで魔法だった。

   (くそ、ここまでか!?)

  「うわあぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」

 木刀で受け身をとった。その瞬間、氷の破は目の前で消え、代わりに白い煙が立ちこめた。

(俺、どうなったんだ・・・)

  「氷の破が消えた・・・!」

  「どうなってる!?」

 侍は信じられないといった様子だった。やがて、煙が消えかかると赤い光がぼんやりと灯っているのに気が付いた。

  「なぁ、あれ・・・」

 まじまじと見ると、赤い灯りはユラユラと揺れ、大きくなったり小さくなったりしているのがわかった。

  「・・・火、だ。あれは、火だ!!」

 郁は自分の木刀の姿に目を見開いた。それはもはや、ただの木刀ではなく火を纏った真剣、つまり本物の刀になっていたのである。 

  「これは・・・!?」

 火を纏っているというのに、不思議と全く熱く感じない。さらに、時折火が手に触れても郁は火傷をしなかった。どういうことか全くわからず、茫然としていたその時、郁は隙をつかれて侍から腕を捕まれ、剣を取り上げられ拘束されてしまった。

  「は、離せよっ!何で俺を狙うんだ!」

 郁は必死に抵抗したが、三人の力に敵わずそのまま強引に引っ張られた。

  「黙れ、紅種の分際で!」

  「ま、待て、どこに連れていくつもりだ!?」

 

 侍はそれ以上、何も答えなかった。ふと、辺りを見回してみると今まで道場にいたはずの場所は、見知らぬ森林に変わっていた。

第一章、いかかでしたでしょうか。

次回第二章は、今後重要な新しい登場人物が出てきます。おたのしみに。

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