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仕事猫ニャゴロー  作者: どてかぼちゃ
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吾輩は八百屋の孫に騙されたのである。


 ここ最近、八百屋のジジイを見ていない。

 どうしたのだろうか?

 

 注:既に他界して前回葬式済み


 店先へ顔を出せばヤツの孫が店を仕切っているではないか。

 これはどういうことなのだ?

 などと考えながらじっと孫を見つめていると目が合った。


 「これが爺ちゃんのよく言ってたニャゴローだな。こっち来いよ、さっき魚屋さんで色々貰ったから刺し身にしてお前にやるよ。」


 手招きする真っキンキンな頭をしたジジイのチャラい孫。

 どうやら我輩を手懐けようとしているのがアリアリでそんなのお見通し。


 しかし我輩とてパーの孫を殆ど知らないでいる。

 ここは一つヤツの思惑へ乗ってみる事に。

 それにしても八百屋なのに魚って・・・何とも滑稽な話だ。


 「先ずはカワハギな。これは人間にも重宝される肝だぞ?本来猫にあげるのすら勿体無い代物だ。しかもこいつは最近よく捕れる”ソウシハギ”といって、中々人間様でも食べる事を許されないって魚屋さんから聞いたぞ!」


 ほほぅ。

 滅多に口にする事の出来ない高級魚といったワケか。

 このパーはなかなか見どころがありそうだな。


 ペロリと舐めてみる。

 これは美味い!

 苦みがあり、少し舌先がビリビリするこの感覚はクセになりそうだ!

 あっという間に皿の上を平らげた。


 「・・・」


 パーの孫は喜ぶ我輩を他所に、黙々と魚を捌いている。

 まるで八百屋ではなく、魚屋が本職とさえ思えるほど見事な腕前。

 捌きつつも時々こちらを見ては不気味にニヤッと笑うから、その度に返事を返してやる。


 「ミャーン?」


 このパーは年齢にして30歳ぐらいだろうか?

 はたして八百屋にこれほどまでの包丁技術が必要なのだろうか?

 とにかくその見事な熟練の技に目を奪われる。


 「メインの前にこの骨でも齧ってな。それは”アイゴ”って魚の背びれで齧れば齧るほど味が染み出るんだぜ。」


 なるほど、口直しってヤツか。

 言われた通りカジカジすると確かに味が染み出てくる。

 

 それにしても食べにくい!

 先端が尖っているから気をつけないと口の中がズタズタになる。

 現に我輩の舌や頬の内側は刺傷だらけに。


 「よしニャゴロー!こいつが今日のメインディッシュだ。下関で水揚げが有名なずんぐりむっくりで胴体の真ん中にゴルフボールほどの黒い斑点がある最高級の”イルカ”だ!」


 なんと素晴らしい魚体!

 体調50cmほどはあろうか、そのぷくぷく太った巨体に岩をも砕きそうな鋭い歯。

 肉厚の鰭は酒に漬けると潮の香りを感じさせそうだ!

 それが見る見る解体されていくではないか!


 「で、この”イルカ”は卵巣が最高なんだよ。本当は誰にも売らずに自分で食べたいほどだが、今日は敢えてお前にプレゼントだ!!」


 ワオ!

 いただきニャーン!!


 「あ、悪いニャゴロー。これ海豚じゃなくて河豚だった。」


 

 その夜商店街の片隅で、一匹の猫が顔を倍以上の大きさに腫らして痙攣する動画がネットの動画サイトに投稿された。

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