吾輩は出っ歯の亀太郎なんかじゃないのである。
肉屋、八百屋と巡回警備を終えたニャゴロー。
次は魚屋へ……。
ムム?
なにやら明かりがついておるな?
……もしや!
半開きになった魚屋のシャッターから中を覗くニャゴロー。
それはこれから盗みに入る泥棒の行動と瓜二つ。
誰が見ても怪しい動きをしていた。
「ニギャ!」
ぐわっ!
なんだなんだっ!?
突如自分の身体が宙に浮く!
ニャゴローは背後から首根っこを掴まれ、持ち上げられた!
「お前さんはこんな早朝からなにしてるんだね?」
すし屋だ!
すし屋の親父ではないか!
それにしても猫の扱い方を弁えてるなこの親父は。
妙に気持ちい良い抱き加減ではないかコノヤローめが!
「どうしたんだいすし屋さん?」
「いやね、この服を着た猫がアンタんところを頻りに覗いてんだぁーね」
「お、ハチワレの猫じゃないか? この猫のおかげで昨年末は稼がせて貰ったねぇ。もしかして賃金要求だったりして!」
「違いねぇ! うわーっはっはっはっ!」
舐めるなバカモノめ等が!
キサマ等如きにお恵み頂戴するほど落ちぶれておらぬわ!
ここは一つ寿司屋の指を食いちぎって……
「去年は三毛猫のせいで大損害を与えられてさ、その後この猫が店の前でよく昼寝してくれたんだよなー」
「そうだったなー」
「客寄せパンダじゃないけど、見る見る客が集まってきてそれ以上に稼がせて貰ったんだよ。三毛猫の尻拭いだったりしてな」
「違いねぇ! コイツの働きっぷりはえげつない程だったな!」
違うわバカモノ!
キサマ等勝手に解釈するんじゃないわ!
「ホレ、お前はコレが好きだっただろう? あの時の給料だ!」
魚屋は手に持っていたなにかを我輩の口へとねじ込んだ。
同時に寿司屋が顔をしかめる!
「クサッ! コイツはたまらん! ほら、何処かへ行きな!」
クサヤだ!
この芳醇な香りと熟成された味わいは最高級に違いない!
魚屋が我輩にくれたものは人間嗅覚破壊兵器の超絶クサヤ!
イヤッホーイ!
「じゃあ寿司屋さん、そろそろ市場へ行くとするか」
「おうよ!」
どうやら魚屋と寿司屋は今から仕入れに行く様だな。
だからこんな時間にシャッターが開いていたのか。
世間一般ではまだグースカタイム。
人それぞれ様々な仕事が世の中には存在していると見える。
まぁ、我輩の夜勤もその一つだと思うが……
とりあえずだ!
せっかく貰った高級クサヤ!
臭いが強烈なうちに頂くとするか!
好物を前に怒りも何処かへ飛んで行ったニャゴロー。
それは仕事も同じで、今日は早々と切り上げる事に。
何よりクサヤを早く食べたくって仕方がなかった。
とにかく落ち着ける場所でガッつきたかったのだ!
そんなワケでこの場から一番近いパン屋の娘が眠る部屋へと侵入。
コッソリベッドに潜り込むと、彼女が目覚めるまでクサヤを食べ続けたそうな。
この後数日間、パン屋の娘は学校で〝極度発酵の女〟と呼ばれるハメになった。




