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仕事猫ニャゴロー  作者: どてかぼちゃ
180/218

吾輩は目出度くなどないのである!④


 ちゃんちゃんこの中が危険物(諭吉などの紙幣)でパンパンになった我輩。

 早く何処かへ処分しなくてはと商店街をうろつき回る。


 すると、どこからともなく香ばしい香りが……

 これは一体?


 「おろっ、お前は着ぐるみ猫じゃないか? こっちへ来いや」


 我輩を呼び止めたのは肉屋の親父。

 シャッターは開いているものの、開店休業状態。

 なぜなら店頭で肉屋を含む数人が輪になって何かをしていたからだ。


 中心に簡易テーブルを置き、その上で火を焚いておるな。

 そこには肉屋だけではなく、魚屋や八百屋……なんとパン屋の仁王像までが!


 各々が手にグラスを持ち、一体なんの会議をしておるのだ?

 まさか商店街征服でも目論んでいるのでは?

 

 もしそんな事となれば我輩とて失職しかねない!

 ここは一つ、従順な家猫を装い情報収集といくか。

 今日の我輩は産業スパイってな感じか?


 「もう着ぐるみは着ないで服だけなのか? 残念だなー!」


 「そそ、魚屋さんから聞いて着ぐるみ着たそいつを店頭に置いたら、客がワンサカ押し寄せたもんなー」


 「なんだい肉屋さんよ? それに魚屋さんもそう言った美味しいことは教えてくれなきゃ! ……あれ? この猫ウチの娘と仲のいいあの三河さんとこの猫じゃ……?」


 「あー、あの〝竜宮城〟の住人か!? 人だけではなくペットも可愛いんだなあそこは……」


 竜宮城だと?

 そこだけはハッキリと聞き取れたぞ?

 

 三河家は商店街でそんな風に呼ばれているのか?

 寧ろそれは魚屋、キサマのほうだろう?


 「ささ、お前もこっち来て一杯やれ!」


 「ニギャ!?」


 煙臭いウナギ屋に捕まり、抱きかかえられた我輩。

 よりによってクッサイお前がなぜ!


 「ほれほれ……ぐぃーっと!」


 ウナギ屋は我輩の口にコップを当てるとゆっくり傾けだした。

 臭いを嗅ぐと鼻の中が焼けるようなその液体は無色透明。

 舌触りはまろやかで、尚且つ芳醇な香りと熟成された事による甘味が……


 ウマイ!

 鼻の中と喉が焼けるような感覚に見舞われるが、なんとデリシャスなテイスト!

 

 ウナギ屋が傾けるのを待ちきれずにコップの中へ顔を突っ込む我輩!

 あれよあれよと中身を全て舐めつくしてしまった!


 それにしても……なんだこれは!?

 やけに気分が良いぞ?

 しかも体の中からポカポカしてくる。

 焼けるクッサイ水サイコーッ!


 「お、こいつはいける口だな? ならばつまみにコイツはどうだ?」


 場所終わりの横綱さえも凌ぐ飲みっぷりを見せつけた我輩。

 リスペクト丸出しなウナギ屋は即座に貢物を献上してきた。

 

 これはなんだ?

 先ほどまで机の上で焼かれていた白い風船。

 そこへどす黒い血みたいなのを塗られてジュッと再び火にかけられる。

 

 先程の香ばしい臭いの発生元はどうやらコイツだな?

 それにしても食欲をそそる香りだ!

 

 ウナギ屋は箸と呼ばれる二本の竿でソレを掴み我輩の口元へ。

 間違いなく食べ物だということで警戒する事もなく大口を開けた。

 そして……



 この日、SNS上へUPされた人間達に背中をどつきまわされる猫の動画。

 ニュースにも取り上げられ、一時商店街はマスコミの餌食に。

 

 偶然通りかかった何も知らない参拝客がカメラで捉えたそうな。

 彼は余りにもその猫がひどい扱いを受けていたので問題にしたかったと。

 猫だって精一杯生きているのだからと。

 

 こうして世間にガセ情報が拡散していくのであった。

 恐るべし情報化社会!


 

 「小碓さん、さかさまにして背中を叩いてやれ! まったく……猫にモチを食わすなんざどうかしてるぜウナギ屋さんよ!?」


 「あ、あぁすまん、まさかつまるとは……」

 


 

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