吾輩は年末年始も大忙しである。②
黄金。
それは人種世代を問わず、全ての人間を魅了する。
幾千年もの時を超え、輝きを保ち続ける貴重な金属。
時には通貨に、またある時には装飾品へとその需要は留まるところを知らない。
その塊、インゴッドがここに大量にあるのだ!
魚屋の軒先に!
しかもこの食欲をそそる生臭ささはなんだ?
よくTVショーで小判を齧る場面に出くわすが、まさか本当に食べられる?
(美也は大の時代劇ファンでニャゴローもよく一緒に見ている)
聖人の我輩とてこの誘惑には勝てない!
なんとかしなければ!
チーン!
パクればいいじゃん!
悪魔が囁く。
しかし仕事師としてはその発想、如何なものか?
仮に自分がやられたとすれば許すべからずの念に捉われるだろう。
あ!
そうだ!
魚屋を客として仕事を請け負えばいいんだ!
その対価として受け取ればいいんじゃね?
おっと、人間の言葉が移ってしまったな。
これでは渋くダンディーな我輩が台無しだ。
気をつけよう。
そんな訳で早速仕事に取り掛かる。
まずは主人が何をしているかの確認を……。
彼は奥の厨房にいた。
大きなまな板に乗る白いマグロの身。
どうやら食べやすい大きさに切っているようだな。
「ふー、ちょっと休憩だ。にしてもこんな高価なトロがまぁ次から次へとよく売れるなぁー? 嬉しい限りだね!」
主人はなにやら我輩には見えない誰かと話しながら奥へと消えて行った。
注:独り言
チャ~ンス!
猫の特性である軽業であっという間に飯台の上へ!
そこにある我輩の数倍はあろうかと思われるマグロの身へネコパンチ!
更には爪を全開にして斜めへ振り下ろす!
{シャアァァァァッ}
おろ?
思ったほど上手く切れないな?
結構身がボロボロに……
それにしてもこのネッチョリ感はなんだ?
肉球がドロッドロのベッタベタではないか!?
不愉快だ!
イラっとしたのでマグロの身へ後ろ蹴り!
床に落としてやった!
ついでに……
{ジョロロロロロロ……}
ふぅ。
こんなもんか?
これだけ働けばあの金塊を頂いてもいいだろう?
とりあえず表へ。
さっそく金塊を数本入った箱ごと咥える我輩。
その時!
「ニャ~~ン?」
あ!
ニャン太郎ではないか!
偶然だな!
我輩はこれまでの事を彼に逐一説明。
自分も続けと言わんばかりに彼は奥へと消えて行った。
こうしてまんまと金塊を手に入れた我輩。
箱がデカいから運ぶのに苦労するもなんとか店を離れる事が出来た。
肉屋を抜けた辺りで魚屋から猫の断末魔が聞こえた気がしたのだが敢えて無視。
一旦病院のニヤに預けて再び商店街へ戻る事に……。
まだまだ年末は終わらぬぞ!
―― つづく ――




