吾輩は新大陸に立つのである。⑥
「さてニャゴロー、明日帰るわよ。乗り継ぎの関係で朝5時出発ね」
小織殿は我輩を膝の上に乗せ、背中を撫でながらそう言った。
となれば、本日が事実上の最終滞在日か。
転勤する事をキチンと皆に伝えなければな。
とりあえず、空腹を満たすために恒例のバフェィへ。
殆ど全ての宿泊場所にある食べ放題のレストラン。
我輩が訪れるのは表ではなく主にバックヤードの方だがな。
軽くソーセージを頬張り、先ずはここの主である巨大ネズミに挨拶。
世話になったと。
なにも猫は必ずネズミを敵視している訳ではないのだ。
面倒を見て貰えばお礼もする。
郷に入れば郷に従えの精神で彼にこの街のルールを教えて貰った恩もある。
それを無視して姿を消すなど、我輩はそんな恩知らずではないぞ?
ほぼ全ての食事場所には必ず主がいる。
全部は無理だが、最終日との事なので、行けるだけ行ってみよう。
― 夕方5時 ―
全てとは言わないが、大体の場所へ挨拶をしてきた。
今度は世話になった人間へ同じように挨拶。
特にこの宿の従業員には世話になった。
日焼けで黒いやつらが特によくしてくれた。
それは何処へ行っても同じ。
逆に色白の丸太は我輩に水をかけたり物を投げたりしてきた。
巨木になればなるほどその傾向が強かったな。
そいつ等には毎回バックに回り、背中に飛びつき放尿してやったわ。
それに至る所で日焼けと色白の喧嘩を見かけた。
仲が悪いのだろうか?
同じ種族だろうに……
猫である我輩では人間の考えなど到底理解できないな。
― 夜12時 ―
そして思う所ほぼ全ての挨拶が終わる。
行く先々で餞別を貰った。
100%肉系の食べ物を。
我輩はこのままフロントとやらで待機。
時間になれば小織殿が迎えに来てくれるだろうて。
― そして ―
「センキュー! ほらニャゴロー、帰るよ! アンタもこの人たちにお礼を言いなさい」
こうして色々あったこの街を後にする我輩。
クジラ施設へ行く車から見るその雄大な景色にふと思う。
我が猫生、知らないことが多々あるな。
これからも時々小織殿のカバンへ忍び込むことにしよう。
そんな事をトクトク鼓動する小さな胸の中で誓った。
― そして ―
「ただいまー!」
「お帰りおねーちゃん! あっ! なによニャゴローその体は!?」
「ごめ~ん、ホテルのフロントに任せて置いたらこんなんになっちゃった」
「まったく……三倍ぐらいに太ってるし」
気が付けば我輩も丸太になっていた。




