吾輩はぬいぐるみである!③
一時的にはガタガタ揺れたものの、今は平穏を保っているこの乗り物。
どうやら食事タイムなのか、次々と運ばれてくる豪華な品々。
三河家では決して見る事のないコース料理と見受けられる。
そんな中、何やら騒がしくなる後方部。
小織殿が食事をしている隙に抜け出し、様子を伺って見る事に。
こっそり座席の下から下へ何度も細かく移動を繰り返す我輩。
意外と見つからないものだな。
思うより簡単に後部へと漕ぎつけた。
そして我輩の目に映るのはなんと!
これぞまさに地獄といったような光景が広がる!
延々と並べられた小さな座席。
小織殿が座る座席に比べ、格段に小さい。
そこには空席の一つも見当たらず、ぎゅうぎゅう詰めの人間が!
ここはもしや強制収容所ではないか?
そのくせ金髪の相撲取りが結構な数いるではないか。
これは最早拷問では?
どうやらコイツ等も今は食事の様である。
どこぞのクサイ飯の様にプレートへ一緒くたに乗せられているのがまた滑稽。
それでも奴隷には上等な食事か?
食べとる食べとる。
得体の知れない食事モドキをガツガツと食べている。
飢えたキツネでもそんなにがっついたりしないわ!
ワハハハ!
しかし、心なしかこちらの方が落ち着く我輩。
なんとな~くだが、肌に合っていると言えば聞こえが良くない?
正確には同じ穴の狢臭がプンプンするのだ。
本来ならばここに本腰を据えたい。
だが、小糸殿にじっとしていろと口が酸っぱくなるほど言われている。
(ような気がする)
万が一見つかると、再び玉ゴリ制裁をされかねない。
仕方がないから元居た場所へと戻る事にするか。
そして座席へ戻った瞬間事件は起きた。
我輩の鼓膜が破れたのだ!
「ニギャッ!」
ポーンとなって何も聞こえない!
痛い様なポーっとするような、なんとも不愉快な感覚に襲われた!
「ちょっとニャゴロー!静かにしないと見つかっちゃうでしょ!?って、アレ?アンタもしかして耳がおかしくなったの??気圧の変化にやられたんだ。へー、猫でもなるんだね。」
そう言いながらも彼女は我輩の股にある二つのアクセサリーをコロコロとする。
大声を出していたら間違いなくグリッとされていただろう。
「今から私が耳の違和感を取ってあげるから、ちょっとだけ我慢しなさいよね。」
小織殿が我輩になにやら処置を施してくれるようだ。
きっと人間界には耳がポーン病を直す手段が確立されているのだろう。
となれば彼女に全てを任せるとするか。
こうして我輩は再び眠る事となる。
小織殿に耳から思いきり息を吹き入れられ、鼓膜の完全破壊による衝撃で失神。
その吐息は、脳をも震わせて深刻なダメージをも残したままに・・・。




