吾輩は職務放棄などしてないのである。③
毛もそこそこ伸び、漸くハチワレカラーがクッキリとしてきた我輩。
それでも寒さには勝てず、まだまだ着ぐるみが手放せない毎日。
「あら猫ちゃん!家のニャちゃんと同じね!!ウフフ。」
病院のミセスにはすっかりお世話になっている我輩。
いつかお返しをせねばとシミジミ思う。
ゴミ虫には違う意味でのお返しをせねばなるまいがな。
さてと、いつまでも仕事をサボる訳にもいかない。
今日も商店街へ営業に行くとするか。
「明日もちゃーんと家へ寄るのよ猫ちゃん。・・じゃあ行ってらっしゃいねー!」
ミセスは最近我輩の行動を先読みするようになった。
そんなに行動パターンが単純なのだろうか?
だからといって別に危害を加える訳では無いから良しとしよう。
そして病院を出た我輩。
真っすぐ魚屋へ足を運ぶ。
「らっしぁーらっしゃあぁぃっ!!!!」
威勢のいい掛け声で客を必死で呼び込む魚屋の主人。
コイツは脳みそが空っぽなのか?
真昼間から買い物に来る人間などそうそういないだろう?
ここで体力全開の大声を張り上げてどうする?
「らっしゃあぁぁーーうがっ・・ゴホッゴホッ!!!」
ほら見た事か!
喉がパーになってしまったのと違うか?
一番客入りの多い夕方にはもうその喉も役に立たないだろう。
仕方がない、我輩が一肌脱いでやるとするか。
・・・この着ぐるみは脱がないけどな!
店の前で丸くなる我輩。
知らないうちに夢うつつ。
そして・・・眠ってしまった。
どれほど時間が過ぎたのだろう。
背中にかかる重みで目覚める。
「やだー!何この猫カワイー!!これ魚屋さんの猫ちゃん!?」
「いやぁ。知らない猫でさぁ。服を着てるって事はきっとどこかの飼い猫じゃないんですかねぇ?はじめはウチの魚を狙っていると思ってビクビクしていたけど、どうやらそうでないらしいんでさぁね。何が目的なんだろ?」
「イヤ~ン!超ラブリーッ!!!!」
気付くと周りには人だかりが!
次々と我輩を撫でまくる通りすがりの人や買い物途中の奥様達。
タマ駅長ならぬニャゴローフィッシャーマンズワーフ代表ってとこか?
そして魚屋は大繁盛!
この仕事っぷりに我輩も大満足!
― 数十分後 ―
どうやら波は去った模様。
客足が緩むと我輩も帰宅の為に腰を上げた。
ここで魚屋の主人が我輩の前へ。
「よー、今日はお前のおかげで大繁盛だぜ!これはお礼だ。今が旬のサバの刺し身だ。高級なんだぜ?だから今すぐ食べな。時間が経つと痛むかもしれないしな。」
鯖?
かすれ声で何を喋っているか分からない。
これが鯖という魚の身で、食べていけと言っているのはなんとなーく理解。
言われた通り刺し身へと口を近づけると・・・
「ニギャッ!」
「あっ!テメーコノヤローっ!!!」
一瞬で分からなかったが、何者かに刺し身を皿ごと全部奪われた!
たしか猫だったような・・・
「あのヤロー・・一瞬でよく分からなかったがシャムネコみたいなガラだったな。今のお前みたいだけど、もう少し汚かった。今度捕まえて酷い目に合わせてやる!!!」
先程の刺し身はもうないようで、違うモノを数切れ頂いた。
我輩にはどれも同じようなモノだけどな・・・。
次の日、公園で腹を下してヨレヨレの猫が複数発見される事となる。
特にニャン太郎が激しい腹痛を訴え、死ぬ一歩手前だったそうな。
生の鯖は危険と他猫の身を以て学習したニャゴローだったとさ。




