吾輩は魚を愛でるのである。③
それにしてもこの光景はなんだ?
まるで違う国ではないか?
恐竜の様な魚や我輩の倍はあるヤツまでいるぞ?
魚とはこれほどまでに大きくなるものなのか?
ふむふむ。
各ガラスの箱に貼られたシールは値札か?
前世で悪い事でもしたのか、このしゃくれ顎の魚はっと・・・
いち・じゅう・ひゃく・・・
!?
は・・はは。
わ、我輩の数え間違いであろう。
いや、たしかにまだ人間の言語を取得途中で、完璧には程遠いのだが・・
それにしたって・・・
では、改めてもう一度。
いち・じゅう・ひゃく・せん・まん・・じゅう・・まん・・ひゃく・・!?
ふざけるな!
魚如きが諭吉百枚以上いるなどと認められるか!
それならば我輩達猫は一京以上諭吉が必要とされなければおかしいではないか!
なめるな人間め!
こうなれば全部の捉われた魚を救出してやる!
海猿ならぬ水猫だ!
最初はコイツだな。
えっと、ぴ・・・ら・・・
まあ名前などどうでも良かろう。
前足をこのガラス箱の上からそっと・・・
{バッシャッ!}
あっ!
なんかチカッとした!
なんだ?
確か差し出した前足の裏が・・
「!!!」
一番小さな肉球がなくなっているではないか!
しかも血まみれ!
噛まれた!
「ニギャアァァァァァァッ!!!!!」
一瞬の事で分からなかったが、視認したと同時に襲う激痛!
この痛みには我輩とて我慢できず、悲鳴と共に店内を転げまわる!
{ガチャガチャガッチャアァァァァァァーーーーーンッ!!!}
「店長!猫が積み上げた水槽に突撃して・・・あわわ!!!」
更に激しい痛みが今度は全ての足を貫く!
ガラス片が刺さったのだ!
そうとは知らず、敵に襲われたと勘違いの我輩!
全爪を出して所かまわず大暴れ!
{バリバリバリバリッ!!!!!・・ザザザザザアァァァァァッ!!!!!!}
「て、てんちょーっ!み、三毛猫のヤツが底に敷く砂の袋を破りまくって・・・ああぁっ!?今度はエサまで・・・いつもはあんなに大人しいのに・・・・。」
「とっ捕まえろおぉぉぉっ!!!」
我輩その隙に壁のクロスに爪を立てて壁登り。
数メートル上まで行ったところで先程のしゃくれ顎がいる箱へダーイブッ!
{バッシャッ!ガタガタッ・・ギイィィィィィ・・・ガッシャアァァァァッァーーーーンッ!!!バリバリバリ}
「キャアァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」
ガラス箱が倒れて水が他の客にかかり店内大パニック!
床にこぼれた魚や水草を踏んで転ぶヤツ。
もしくは水に滑ってガラス箱に突っ込むヤツ。
負の連鎖で店内の水槽は全て破壊!
{バリバリバリ!!!}
あ!
床をパチパチ君が走ってる!
どうやら先程大暴れしたときに電気のコードを引っかけたんだな。
そこに水がかかって・・・あーあ・・・。
{ボボッ!}
お!
こんどはパチパチゴーゴー君のお出ましか。
床はベチャベチャだけど、他は結構燃えやすいかもな。
「キャアァァァッ!!!」×複数
「皆さん落ち着いてください!速やかに店外へ!!落ち着いてっ!!!」
煙がモクモクと立ち、慌てふためく人間どもを観察する我輩。
水で流され三毛猫柄からすっかり元のハチワレ模様へ。
まあ、こうなってしまえば猫どころの騒ぎではないわな。
ならば堂々と見学させて貰うとするか。
多少傷がズキズキするけど・・・。
人命救助を優先するが為、店内は完全に無防備。
店内観察中、あるものを発見する。
パチパチ君のおかげでカチャカチャマシーンが壊れたのか、開いている。
折角だから中にある諭吉をっと・・・。
全肉球にダメージを負ったが、解体業の報酬としては悪くないかな。
手当も必要だし、そろそろ帰るとしよう。
序に帰りがけ途中でパン屋でも寄るか。
あそこの娘なら御子息にメロメロだから我輩を優しく介抱してくれるであろう。
その日から暫く熱帯魚屋は休業を余儀なくされた。
かなりの被害者を出したこの事件は『三毛猫事変パターン熱帯魚屋』と言われ、商店街の事件簿の一つとして、永遠に語り継がれる事となる。
尚、客として来店していたバイク屋主人も被害者の一人で、割れたガラス片で指を負傷してしまい、同時にバイク屋も暫く休業していたのだとか。
こうして商店街に於けるニャン吉の地位は大暴落。
人間達とのチキンレースに明け暮れる毎日となる。
余談だが、町ではあるほっこりしたニュースが。
全ての足に白い靴を履いたハチワレの猫が時々目撃され、どういうワケか、遭遇すると幸せになるとの噂が巷を駆け巡る。
これは一説に、パン屋の娘がそれを理由にご子息の家を訪れ易くする為、自ら流したとも。
怪我を包帯で撒いただけなのに、靴だなんて・・・・
それにしても我輩をダシに使うとはいい度胸だな!




