吾輩は病院が大嫌いである。
今日は久々の休日。
小織様の運転する英国生まれの小さな爆音を垂れ流す車でドライブと洒落こむ。
少しだけ理解できないのはケージに入れられての外出という事だ。
普段は車内でも自由にしている我輩。
しかし今回は外の一切見えない籐で編まれた籠に押し込められている。
外を見る事が出来ない我輩の出来る事は、この場で大人しく丸まる事のみ。
{キキッ!・・・バッタン!!}
数十分経たぬうちに車の停車した事が伝わる。
暫くこのまま放置され、寝てしまった。
「お待たせニャゴロー、これでも食べてなさいよ」
彼女が籠の蓋を開けて中へ放り込んだのは、”クサヤ”と呼ばれるウンコ臭全開の食べ物である。
臭いは強烈だが、悲しいことに我輩嫌いでは無い。いや、寧ろ大好きなのだ。
どうせすることも無いので、我輩の顔よりかは幾分小さく千切られたクサヤを食べる事にした。
- 5分後 -
「さー着いたわよニャゴロー!アナタはこのまま籠の中で大人しくしていてね!!」
見知らぬ場所を不用意に出歩くことは得策でないと、半野性の我輩はよく知っている。
縄張り争いや跡目争いに巻き込まれるのはゴメン被りたいものだ。
車を降りてどれ程移動したのだろうか?
分かっているのは今は何か建物の中に居るという事だけだ。
「すぐ終わるからねニャゴロー。」
終わる?何が??
様々な想定を試みるも、今一つどれもピンとこない。
するとあちらこちらから人語以外の言葉が聞こえてくる。
(うー・・苦しいよぉ・・)
(いたいいたいいたいいたーい!)
(たすけてぇぇぇぇ!!)
(うわあぁぁぁ!帰りたいいぃぃぃっ!!)
(あっ・・・羽の生えた小さな人間が見えるよ・・)
(なんだか僕もう眠くなっちゃった・・)
まさかっ!
まさかまさかまさかっ!!
「三河ニャゴローさーん!中へどうぞーっ!!」
「さて、行くわよニャゴロー。」
もしかしてもしかしてもしかしてぇっ!!
「こんにちはニャゴロー君。今日はお注射しましょうねー。」
蓋を開けられ、最初に見えたのは小織様ではなく白い服を着たジジィ。
やられた。
我輩は背中の皮を摘ままれて籠から出され、後ろ脚に関節技を決められると動けなくなってしまった。
ジジィは慣れた手つきで素早く我輩の後ろ脚に・・・プスリ。
「にゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
激痛が走る!
そう、今日は予防接種をされたのだ。
クサヤの時点で気づくべきだったのだ。
あの強力なウンコ臭で病院特有である消毒などの臭いを誤魔化された。
切れ者小織、恐るべし。
「ごめんよニャゴロー。今日はアンタの好きなスルメをあげるから勘弁してね。」
いや、腰が抜けるから・・・。
・・キライじゃないけど。
久しぶりの休日で地獄めぐりをした我輩だった。




