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煉獄≒天国  作者: 63
2/2

01

目も眩むほどの才能に溢れた呪いを受けし者

神々からの寵愛を一心に受けた可憐な少女

才能に溺れず己を鍛え上げ続けた戦場の空気を身に纏った青年

幾多の士を見て、幾多の死を越えきた己が震える程の才能の塊達

まだ未熟な原石でしかない彼等を見て遥か過去の己を回顧する

そして、枯れ果てた筈の己の心に一つの芽が吹き出たのを理解した




  煉獄都市≒天国都市






レックス、ユーリ、フィリアの三人が集められていた広間を出ると廊下の先に数人の人影がこちらを伺っていた。逆行になる為影しか見えない彼等の一人がこちらに大きな声で叫ぶ

「遅い!! 他の者達は既に《試しの茨道》へと向かったぞ。まったくこれだから新入りは困るんだ」

「・・・団長、貧乏くじ引かされたからってイラつかない。ああ、ゴメンね、ちょっとこの人は怒りっぽいけど気にしないでね」

「団長・副長、煩いです。それとそこの三人はやくこちらに来なさい。私もこんなつまらない仕事はさっさと終わらせたい」

最初に渋い声で怒声が、次にどこかのほほんとした能天気な声で謝罪が、最後に冷え切った金属のような硬質な声で三人をよんでいた。

それに対して三人は一度視線を合わせるようにしてから、歩き始める。先頭をレックスが飄々と歩き、その後ろをフィリアがオドオドとついて行く。最後尾にはユーリが襤褸切れを揺らしながらゆったりと歩いていく。

三人が近づくとそこには探索者らしき三人が木のテーブルに並ぶように座っていた。

「お前達で今期の補充要員は最後か?」

「そんなの見れば分かります。人数が規定に達して無いんだからそれ以外無いとなんで分からないのですか?」

「ふん相変わらず口の悪い女だな。まあいい、副長、説明してやれ」

一番左端の団長と呼ばれた中年の確認に右端の女性が冷静に答える。その間で副長と呼ばれていた青年が力なく笑っている。そんな中で中年は面倒臭そうに青年へと命令した。

「はいはい、わかりました。さてお三方にはこれからこの《ゲヘナ》で生活していく為の基本的な事を説明させてもらいます。まずお三方にはこちらの腕輪をつけてもらいます。これは《贖罪の腕輪》と呼ばれている物で、《探索者》にとっての証明書のようなものです。これをつけていれば《ゲヘナ》内での武装許可・防具寸法の自動調整、さらに各《迷宮》内での到達階数、戦闘でモンスター討伐数証明も行われます」

そこで一度言葉を切り、ぽかんとしている三人を見つめ再び説明を再開する

「他にも色々とあるんですが、詳しい事は試練を合格した後の《探索者》ギルドでの説明会で聞いてください。そうそう皆さんは何か加護や適正をお持ちですか?」

いきなり話を振られた三人だったが、口々に答えていく。

「私は騎士適正、僧侶適正持ちだ。加護はあるらしいがまだ発現していない」

「え〜と、術士適正と炎神加護・光神加護・風神加護が発現しています」

「・・・・・・・俺は戦士適正、技師適正、術士適正、加護は無い」

「そ、その皆さん、嘘はついてませんよね?」

「「「当たり前だろう」」」

三人の答えに唖然とした青年がつい呟いてしまった言葉に一斉に答える。青年に説明を任せていた中年と女性も呆然と三人の顔を順番に見ていく。それもその筈、三人の若さ――ユーリは別として見た目一番年嵩のレックスでさえ明らかに二十歳前後――で適正を得るには技能をどれか一本に絞りそれのみを訓練して初めて手に入る筈のモノ、さらにいえばフィリアが発現している加護は例外を除けば先天的に決定されるモノであり、一人が三神の加護を持ち、しかも発現させている等という事は大陸全土でも稀であった。

「ははっ、なんて言うか、呆れるしかないですね。ま、まあいいです。私がそれを確認したのは武具の選定をしてもらう為なんですよ。まあ、初心者の皆さんには青銅製の武器しか渡せないんですけどね」

「なら、俺は両手剣で頼む」

「私は片手槍だ」

「えーと、あの、青銅じゃなくて銅製の杖ってありませんか? 粗悪な青銅だと魔力伝導が悪すぎて上手く発動出来ないんですよ」

レックス、ユーリは迷うことなく武具選定を終わらせるが、フィリアのみ目を彷徨わせながら青年に頼みこむ。事前に受けている指示では青銅の武器と言われていたが、理由を勘案すればどうしたものかと思い中年へと相談する。

「・・・・・・どうします、団長?」

「別にいいんじゃねえか。これが鉄製や鋼鉄製それ以上のものだったら断るが、青銅よりも価値の安い銅で良いって言ってるんだし」

「そうね、私も異論はない。それでは次は住居の割り当てですが、残念ながら残っているのは一番外れの宿しかありまん」

「という事は【桜花の宴】か。また渋い所に入るな」

その言葉にレックスが首をかしげながら言葉をかける

「なあ、武具はここで渡されるんじゃないのか?」

「あははは、ここではただの確認しかしないよ。武器は宿の部屋に全員分が纏めて届く事になるよ。じゃあ、この《贖罪の腕輪》を嵌めてね。あっ、忠告しておくと《贖罪の腕輪》は《ゲヘナ》を出るまでは絶対外れない使用になっているから、利き腕じゃ無いほうに嵌めたほうが邪魔にならないよ」

「わかった」

そう言って三人は受け取った《贖罪の腕輪》をそれぞれ嵌めていく。黒い革の上に銅製の細長いプレートがはめてあるそれは何処か禍々しさを感じさせながらも、惹きつける《何か》を持っていた。

「では、こちらの案内状にしたがって宿へと向かってください。ああ、言っておきますが都市内での喧嘩や殺傷はご法度ですから気をつけてください。まあ、絡んできた馬鹿を教育する程度なら誰も文句は言いいませんけどね」

「わかりました。あ、あのありがとうございました」

この一団の愛嬌担当のフィリアがぺこりと頭を下げると、三編みにされた美しい赤髪がぴょこんとはねた。それを見て、不機嫌そうだった中年の団長、青年の副長、さらに女性までもが表情を崩し、小さく笑みを浮かべる。

「俺達が出来るのはここまでだ。せいぜい頑張りな」

そう言って傍の扉を指さした。




《ゲヘナ》内 都市区画 歓楽街

貰った案内状に従って三人が歩いていく。どうしても歩みが遅くなってしまうフィリアに合わせて、レックス・ユーリとも周囲を確認しながらゆったりと歩んでいた。周りを歩いている全員に《贖罪の腕輪》が嵌められており、それ以外の人間が歩いていなかった。

昼過ぎの時間帯もあるのだろうが、最低限の強さを持たない者はやはり人間扱いされていない事を二人は実感していた。

そうして歓楽街の外れにある目的地【桜花の宴】らしき場所へとたどり着いた

「ここか?」

「地図ではそうなっていますけど・・・・・・」

「入って確認すればいいでしょう」

歓楽街の外れにあるそこは大陸東方の島国《日ノ本》の形式で建てられた荘厳な邸宅であった。門からは日ノ本式に整えられた庭と池、建物は全て木と土と紙で作り上げられていた。そして、何より目を引くのは庭の奥で威容を誇る巨大な桜の木、季節的に既に散っている筈のこの時期に未だ満開の花を咲き乱れさせ、桃色の花弁をゆったりと揺らしていた。

「その必要はありませんよ、ここが貴殿達の住まう【桜花の宴】で間違いありません」

「うおっ!」

「きゃあっ!」

「・・・・・・っ!」

中の様子に見ほれていた三人の後ろから落ち着いた声がかけられる。ありえない方向からかけられた言葉に三人ともが驚愕の声を上げて一斉に振り向くとそこには、東方人種特有の黒い髪と黒い瞳で日ノ本特有の衣服着流しを着た40才前後の男性がたっていた。その立ち姿からは存在感すらほとんど感じられず、実際に目の前にいるのに認識しずらかった。

「・・・・・・貴方は?」

「ははっ、驚かせてしまったようですね。私はこの屋形の主虎徹という者です。一月の間よろしくお願いしますよ」

「あ、ああ。俺はレックス、元傭兵だ・・・です。よろしくお願いします」

「ユーリです」

「フィリアと申します。どうぞよろしくお願いします」

何故かぞんざいな口調だったレックスやユーリが丁寧な言葉を使い始める。それに満足したのか、虎徹は軽く頷き話しかける

「それなりに礼儀は知っているようですね。それでは貴殿達に使ってもらう部屋ですが、そちらの離れを自由に使ってください」

「・・・・・・えっとあの、結構大きく見えるんですが、本当にいいんですか?」

「ははっ、気にせずどうぞ。元々あそこはこの家を建てる最中に住んでいた仮の住居だったんですよ。で、こちらの本宅が完成して誰も住まなくなったんですが、取り壊すには色々と思い出もありまして住んでくれる方を探してたんです」

「そういう理由なら、遠慮なく住まわして頂きます」

「どうぞ、どうぞ。ああ、そうだ。先程皆さん用の武具が送られて来ていましたよ、離れの玄関においておきましたので確認してくださいね。後、ここは一応、料亭として開業しているので午後5時〜午前0時までの間は裏口から出入りしてください、後当たり前ですがあまり騒いだりしないで下さい」

「「「わかりました」」」

「そうですか。では、私はこれで失礼しますよ」

そう言って本宅の玄関へとゆったりと歩いていく。その後ろ姿を見ながらレックスとユーリは小さく呟いた

「・・・・・・化物か」

「そんな可愛げのあるものじゃないだろう、あれは」

「確かに・・・」

「レックスさん、ユーリさん、何してるんですか? 早く行きましょう!」

冷や汗をかきながら話しているレックスとユーリを他所にフィリアは何の気負い無く離れへと向かっていく。その後姿を眺めながら二人は同時に見詰め合うと肩をすくめて後を追いかけていく

そう、これから先に広がる不安を振り切るように・・・・・・


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