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気紛れ短編集

世界は幾度も繰り返す

作者: 疑心暗鬼
掲載日:2016/10/07

『我思う、ゆえに我あり』――ルネ・デカルト著「方法序説」より


 何度聞き、そして何度頭に思い浮かべた言葉だったか。

 己の目にする全てが、己の触れる全てが、果たして本当にそこに存在しているのか……幾度となく考えた。


 普通の人ならば深くは考えないのだろう。


 ――もしかしたら自分以外の全ては幻かもしれない。でも、気にしたところで仕方がない。


 そういってすぐに思考を停止。別の思考へと移行するのだろう。


 しかし俺は人と違った。違ってしまった。


 我思う、ゆえに我あり。

 この言葉を知り、この考えに触れて、俺は深く深く思いを巡らせた。

 深く深く深く。

 考え、悩み、想像し、夢想し、真実を求めた。

 誰も知らぬ答えを。

 誰も見られぬ現実を。

 誰も辿り着けぬ真理を。

 追求し、追究した。

 そして――遂に出逢った。


 ――この世の真理、そして真実に。


 そこでやっと思い知った。

 俺は愚かだった。惨めだった、と。


 何故、求めてしまったのか。

 何故、望んでしまったのか。


 後悔先に立たず。

 悍ましいまでの苦痛を伴い、己の身に刻まれた。


 真実など知ってしまえば何てことはない。


 全ては虚無に還った。

 ただ、それだけ。

 元々目にしていた景色は、耳にしていた声は、音は、その尽くが無であった。

 真実は己のみ。

 それ以外、何も……何も無かった。


 我思う、ゆえに我あり。

 だが、それだけ。

 たった、それだけ。

 真実は空しく、真理は虚しい。


 色は白とも黒ともつかず、

 音は発狂しそうなほどになく、

 人はおろか、動植物もいない。


 叫び回る俺を気に掛ける存在はなく、

 咎める者もまた皆無であり、

 血反吐を吐いて泣き喚く俺に手を差し伸べる者も、

 そしてただの一瞥をくれる者も、また皆無である。


 俺が存在するのは自明。

 しかし他の全ては虚偽。

 真理を知ってしまえば、望むのは一つだった。


 それは他者の存在。


 他者とは人であり、鳥であり、草であり、果実であり、犬であり、熊であり、空気であり、騒音であり、音楽であり……しかし全てが贋物であった。


 だから創り始めた。

 幸い時間だけは掃いて棄てるほどにあった。

 いや、時間と言う概念は無かったが、創ってしまえば何と言うことはない。


 世界を創り、

 空気で覆い、

 植物を植え、

 動物を生み出し、

 人を形作る。

 数千、数億の時を経て、俺は創る。

 ひたすら創り続けた。


 そして俺は再び気付いた。


「ああ……」


 遅すぎる真実に。


 ――全ては自ら創り上げたものだったという事実に。


 道行く人も、

 空を飛び交う鳥も、

 風に揺られる花も……全ては偽り。全てが幻。


 何と空しく悲しいことか。

 ここには嘆く俺に手を差し伸べる者も、冷ややかな視線を向ける者も――あれだけ望んだ他者が、居るというのに。

 はじめから、あらゆるものの始まりから。

 何もかもが偽りだった。


 それを知った俺は思い知る。

 己の無力を。

 他者の無意味さを。


 そして俺は埋没するのだろう。

 己の創り出した世界へと。


 そして俺は忘れていくのだろう。

 己の創り出した真実を。


 そして俺は求めるのだろう。

 己の忘れ去った真理を。


 こうして――



 ――世界は繰り返されるのだ。

思い付きで何となく書きました(2回目)。

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