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最狂は優しく修羅  作者: ponpoc
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殺意

 みんなからは、陸には近づくなと言われた。そして、それは国の掟でもある。それでも私は週に一度陸に近づくことがあった。

 なぜなら、陸に上がり見る星空は海面から見上げる空よりも、近くに見えるからだ。といっても、海から離れるわけではない。砂浜の少し小高くなっているところまで、ちょこちょこ尾を動かしてのぼり、身体を休める程度であった。

 しかし、今日はひとつだけ違うことがあった。それは、人間の男が体を半分海に投げ出し、気絶しているのか、いな、死んでいるように眠っていたのであった。

 それを見たときは恐怖よりも驚愕の方が上回ったのだ。なんせこの砂浜の奥の陸は深い緑に覆われた森になっているのだ。だから、人間が海辺に来るのは、街があると言われている方向の見晴らしのいい海岸に限られるのだ。その驚愕もあったが、それ以上に、私は人間を見るのが初めてだったため、初めて目にする私たちとは異なる種族に驚愕したのだ。

 だが、その驚愕も数分ほどでなくなり、私の心は動揺に揺れ動き、次第に恐怖と不安の波に呑まれたのだ。

 しばしの間目を瞑り自分を落ち着かせようと努めた。


 そして私は決意をした。この人間の男を殺すこと。

 冷静になったためであるのか、私の心には恐怖は残るものの、ひとつの使命感がそれを凌駕したのであった。それは、いわば復讐というもののほかにはなかった。

 友達の仇討ちであった。私の友達は運悪く、街に近い海でアクセサリーを作る貝殻を集めていたのだ。そこに人間の漁船が通りかかり、捕まってしまったのだ。そのあと友達がどうなったのかを、鳥族の女性から聞いたのだ。生き血を全て搾り取られ殺されてしまったのだと・・

 私は泣いた。国のみんなも泣いた。泣いて泣いて疲れて眠るまで泣いた。

 あぁ、そうだ私は今は亡き友達の影を追って、この砂浜まで近寄ってきてしまったのかもしれないということを。だから、今の状況は私にとって、何か報いることの出来る瞬間なのだと思ったし、その日から人間というものが憎くなった。いや、人間が悪い種族だというのは教えられてきた。しかし、実際に会ったことも、話したこともなかったのだ、それで善悪の真意は理解できないだろう。

 けれども、私は知ったのだ。いや、被害者は私ではないのだけれど、知ったのだ。人間の残酷さというものを。憎いという感情も・・


 まだ、人間の男は眠っていた。私は、急いで家に戻り、母にバレないようにこっそりと家にある、父の形見でもある、氷河短剣グレイシアナイフ)を持って先ほどの砂浜に戻ろうとした。

 海面からちょこんと顔を出して人間の男の様子を伺おうとして私の心は乱れた。なぜなら、男が目を覚ましてこちらを見ているではないか。いや、でも、まだ男は夢現ゆめうつつ状態なのか、戸惑っているように見えた。

 私はこの時、胸の内に様々な感情を持ちすぎたのだろう。だからこそ、早く終わらせたかった。


                    「「「殺してやる!!」」」


 私の声は意外なほどこの空間に響いた。

 私は、グレイシアナイフを男の心の蔵めがけて振り下ろした。

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