覚めない眠り
僕の妹が交通事故で亡くなったのは、僕が高校を卒業して、専門学校に通い始めた一年目の暑い夏が過ぎた頃だった。僕の妹は自転車で地元の高校に通っていた。信号無視の車にはねられて、即死だったらしい。体に外傷はあまりなかった。また、顔には一切傷がつかなかった事が、幸か不幸か・・綺麗なままで永遠の眠りについた。火葬をする最後の時に妹の手を握りしめた。その手が異常なほどに冷たかったのは一生忘れることはないだろう。いや、忘れる訳もないし、忘れることなんてできないだろう。
母は、妹が亡くなってしまったことに対して、とても自分自身を責めていた。僕は「母さんが悪いわけじゃないだろ!」と、何度も言った。けれど、母は妹のあとを追うように自分を苦しめて、安らかに眠った。
父は、逃げた・・情けない父親だった、もう、父だなんて思ってない、思えないのが事実であり、今までの父親という存在が死んだというふうにも感じている。
夜、街を流れる川に沿って歩いた。何も考えることもない。誰もいなくなった家に帰って、煙草を燻らせた。バニラの芳香が強い甘い煙草であった。
煙草から伸びる一筋の煙に、自分自身の心が映るようで、どこかに恐怖をいだきながら、それなのに、落ちるける不思議な感覚であった。
「もう、何もいらない、自分自信でさえも、もういらない・・・何を、どうして、生きなければいけないのか。嬉しいことだって何もない。昔も今も、ゴミみたいな人生だった。
今の自分はいわば鬱というのかもしれない。
「さよならを告げられたなら・・・」
煙草の灯が消え、しばしの沈黙が世界を支配する。その闇の中で、さよならも告げられず、同情してもらいたいだけの演技をしているような気がした。
小さなガラスの小瓶に入っている奇妙な色の液体を飲み干した。しかし、これで終わらせることができないのを僕は知っていた。
少しだけ朦朧とする中、僕は明日の朝、目が覚めてくれなければと・・儚く、醜い希望を内に秘めて眠りについた。