哀しみ
ルキア・オーバーキャスト、19歳、男、ルックスは、まぁ、中の上か上の下あたりといったところだろう。
僕は優しかった。と思う。自分で言うのもよくないのかもしれないけど、優しい性格をしていると思う。いや、自分がそう思っているだけで、周囲にしてみれば、ただのお節介なのかもしれない。けれど、何気ないことで、救えた人もいたはずだと思う。思っていたい。
そう考えたけれど、思い出すことといえばくだらないことなのだ。
小学生の頃は、いじめられている女の子を助けた。まぁ、そのあと僕がいじめの標的になったけど・・衝撃だったのは、たすけはずの女の子がいじめをする側に加わっていたことくらいだろう。
中学生の頃は、不登校になった友人を一年間サポートして、復学できるようにした。影ではいい子ぶりやがってとか言われてたけど、そんなの僕には関係なかった。心の底から復学してもらいたいと思っていたからだ。ただ、卒業間近のときに、復学した友人が影で、「ルキアはおれみたいなやつを友達だとか言って、一年無駄に過ごしやがった。本当にバカだよな。」それを聞いたときは悲しかった。
高校の頃は、花壇を荒らす不良をとめたり、車に轢かれそうになっている子犬を全力で助けたり。道端で息絶えた小鳥とか、無視できなくて、お墓を作ってあげたり。僕にとっては些細なことだったし、見返りなんて求めてもいなかった。ただ、無視することなんてできないから。嫌な思いなんてしたくないから、僕自身も相手も、本当にそれだけだった。それなのに理由もなく、暇つぶしにと、不良連中にボコされたり、腹黒い女子グループに話のネタにされたり、(超絶嫌な意味で)けど、なんやかんやで。高校も卒業した。
僕の内心。ぶっちゃけて言うとね。まぁ、確かに見返りなんて一切もとめてないわ!でもさ、もっと友達多くてもいいと思うし、いじめられてる子とか、女子グループからはぶかれている女の子を助けたらさ、ニュートラルに考えてね、そういう感じのフラグが立つもんじゃあねぇの!?
自問自答の繰り返し、いつの間にか早くなっていた心拍数を正常に戻すように努めた。今僕は目をつむっている。現実逃避だよ。
「僕は、毎日を優しい気持ちで穏やかに過ごせたらいいのに。なんでこうなるんだろう。生きる意味もわからなくなって・・」ふと口に出てしまった言葉で、現実に引き戻された。
ゆっくりと目をあける。二枚の写真が見える。ひとつは三つ下の妹で、もうひとつは、僕を育ててくれた母の写真だ。不意に視界が滲んだ。妹と母の知人が後ろですすり泣いているのが聞こえる。僕はもう、何も考えられなくなって立ち尽くしていた。
鴉のように真黒な髪の青年が、髪の色と全く同じ色の服を涙で濡らしていた。そして、彼は二枚の写真の下でしずかに眠る二人の棺に、彼には似合わない、真白な花を添えました・・・