一章
昔、自分はなんにでもなれると思っていた。小学校三年生の時には漫画が好きだったから漫画家になろうとか思っていた。しかし、俺に絵の才能は絶望的になかった。昔、図工で描いた船の絵がいまだに実家に残っているが、これが船の絵だなんて言われなければ解らないと書いた本人が思うレベルだ。それでも俺は自分には才能があると信じて疑わなかった。学校が終わてから家に帰ってすぐにノートに自分の考えた主人公が悪い敵を剣でなぎ倒していく絵を描いていた記憶がある。小学生ながらストーリーも考えていて、ある日村に現れた魔物の群れに家族を殺され、復讐心に燃えた主人公が魔物を全滅させようと旅に出る話だった。ストーリーは当時流行っていたゲームの内容を基にした(というかほぼパクッた)話を考えているときはとてつもなく楽しかった記憶がある。設定集みたいなのを作って熱心に絵を描き続けていた。母親曰く、当時は何かに憑りつかれたようで心配だったらしい。が、すぐに絵を描くことに飽きてやめてしまった。それでもストーリーを考えるのは楽しかった。学校の授業中や、トイレの中、風呂に入っているときや、寝る前にストーリーの続きを考えては一人でニヤついていた。妄想が趣味になった俺は中学生の頃によく、授業中にテロリストが来たときの対処法を考えるのが一番楽しかった。そうして、授業丸々無駄にしていた。高校になってからは、思春期の少年らしい妄想が中心だった(詳しくは言えない)。
そして、高校二年生の時に、進路指導の用紙に俺はなんて書くかを迷っていた。漫画家は無理なのはわかっていた、俺に絵の才能は無い。かといって大学進学もありえない、俺は勉強が苦手だった。学校の成績は中の下くらいだったし、なにより、親が学費は出さないと言っていたので、俺は最初から進学は考えていなかった。しかし、俺は自分という存在が何ができるのかが分からなかった。周りの友達はみんなとりあえず進学、と言っていた。俺はそんな適当には決めたくない。でも、何ができるのかわからない、そんなときに、友達のなんのない一言で俺は決意した。
「お前、想像力豊かすぎじゃね?」
俺はこんなどうでもいいような一言に天命を感じた。そうだ、俺は妄想力がある!と、考えて進路指導の用紙に第一志望で小説家と書いた。これが俺の人生で最大の失敗だったと先に言っておく。そう、俺は失敗したのだ。周りの人間は皆口を揃えてやめておけと言っていたが、その時の俺は聞く耳を持たなかった。俺にはこれしかない!と信じ込んでしまっていたのだ。しかし、そんな物は夢でしかない。いくら才能があっても、現実ではただ結果がすべてだった。そうやって、真実に気づけるのはいつも後になってからだ、最初から解っていることなんて多くはない。夏の蜃気楼のように、俺の未来はユラユラ揺らめいていた。