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唐突で雑過ぎるプロローグ

 見覚えのない闇に包まれた森の中。気がつくと俺は一人、城らしき建物の前に佇んでいた。

 一体ここまでどうやってきて、どのような経緯でこんな場所にいるかとかはさっぱり思い出せない。

「な、何だよここ。俺はどうして……」

「タカシよ、ようやく気がついたか」

「?」

 どこからともなく、俺の名を呼ぶ男の声が聞こえた気がする。

 辺りを見回してみたが、声の主の姿は全く見当たらない。

「だ、誰だよ。どこにいるんだよ」

「姿は見えねども声は届く。そう、それが神というものなのだよ」

「はあ?」

 自分で自分が神とか、てめえは中二病か。

 しかし声の言う通り、全くもってその姿をとらえることができない。

「タカシよ、お前は自分がどうしてこのような場所に導かれたのかわかるか」

「んなもん、わかるか」

「はっはっは、そりゃあそうに決まっている。何せ、何の予告もなしに呼び出したのだからな」

 「……」

 おい、自称神。ノリがやたらと軽いんじゃねえのか。

 てか、勝手に人をこんな辺ぴなところに呼びつけてんじゃねえよ。

「お前を呼び出したのは他でもない。タカシよ、お前はこのダークキャッスル城に住まう魔王クージャを打ち滅ぼし、世界を救う勇者となるのだ」

 「はあ?」

 勇者? 俺が? 俺、何の取り得もないただの一般人なんですけど。

 こんなくだらない話になんて付き合っていられるか。よし、帰ろう。

「あああっ! ちょい、ウェイト! 待て待て待って! 世界の行く末はお前にかかっているのだぞ。それ、ちゃんとわかってる?」

「んなことわかってたまるかよ。俺はな、ただの一般人なの。そんな奴を勇者に仕立ててどうするわけ。そもそも、今時魔王が世界を滅ぼすとかマジウケるんですけど」

「いやいやいや。私、そんな面白いこと言ってないから。これは本気で言っているのだよ。この城に住まう悪の化身が、世界を絶望の淵に落とそうとしてて、それを阻止するためにお前が呼び出されたというわけなのだ。マジ・オブ・マジなのだよ!」

「……」

「だから、帰るなっつってんの!」

 城から背を向けて去ろうとした俺を、天から降り注ぐおっさんの声が必死に止める。

 口調が段々と壊れてきているし、本当に神なのか怪しくて仕方がない。

「いい? せっかく神であるこの私が呼び出したというのにさあ、あっさり帰ろうとするとかどういう神経してるわけ? お前がちゃんとしないと世界が滅びちゃうわけだよ。お前が世界を救わないと魔王がのうのうとふんぞり返るわけだよ。ね、事の重大さをいい加減に理解しなさいよ全く」

「それ、逆ギレ? 神様が逆ギレとか、馬鹿じゃねえの」

「ばっ、馬鹿じゃないもん! こんな神様だけど、全知全能なんだもんっ」

「全知全能なんだったら、あんたがそのパワーで魔王とやらを倒して世界を救えよ」

「あぐうっ……そ、それは……ルール違反になっちゃうと言いますか……ねえ?」

 ルール違反って、何基準のルール違反だよ。

「と、とにかくだねえ……呼び出されたからにはきちんと勇者として世界を救いなさい! ほら、神様からの支給として、これをあげるから」

さらに取り乱した声が辺りにこだましたかと思うと、上空遥か彼方からぺらぺらとした袋のようなものが落ちてきた。付いている紐の長さから判断するに、腰にでもくくりつけて使うものだろうか。

「何スか、これ」

「ほぼ無限大に道具や小物が入る道具袋だ。これがあれば、謎解きなどに使えそうな道具や、武器になりそうな道具を大量に持ち運ぶことができるのだ」

「……」

 神様からの支給品が道具袋って、どういうチョイスだよ。

 普通は何かすごそうな剣とか、いかにも伝説の品になるっぽい感じの防具とかくれたりするもんなんじゃねえの?

 ……てか俺、Tシャツ短パンっていう超軽装な上に、丸腰っていう勇者とは真逆のスタイルなんですけど!

「うん、我ながら大変素晴らしいプレゼントだな。これを勇者になりうる人材に渡したのだから、確実に世界は救われるはずだ。これで安心して眠れるな。よーし、よしよし!」

「なっ、ちょっと待っ……おっさんゴラァ!」 

 こんなどこにでもいそうな奴に世界の行く末を委ねて、自分はゆっくり寝るつもりか!

 そう思ったのも束の間、自称神からの声はプッツリと聞こえなくなってしまった。

「クソッ……俺が勇者とか、マジありえねえだろ」

 俺は今まで平凡に過ごしてきた、どこにでもいそうな感じの人間だ。

 でも、仮にも神だという奴に呼び出されたくらいなのだから、もしかしたら自分でも気がついていないような特殊技能だとか、とんでもない出生の秘密とかを背負っていたりしちゃっているのだろうか。

 だとしたら、この神様からの無茶振りにも応えるべきなのかも……。

「ああ、タカシよ。もしかしたら君は、何か余計なことを考えているかもしれないから今のうちに釘を刺しておく。お前には、特に何の秘密も特殊技能もない。そういう設定だ。言わば、神様の独断と偏見とナイスなセンスだけで選出されたというだけの凡人! 以上」

「余計なことを言うためだけに戻ってきてんじゃねえよ!」

 かくして、ただでさえないやる気をさらに削がれながらも俺は魔王が住まうダークキャッスルの攻略に挑むこととなったのだった。

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