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第9話 地球のガラクタを売りさばいてみた

今年の恵方は南南東だそうです。

おれたちはガラガラとスーツケースを転がしながら村の通りへ。


「おい、信号があるじゃねえか」

「あれは電話ボックスよね?」


 ふたりははじめて見るヤメーメ王国の風景に興味津々だ。

 おれもこの通りに来たのは初めてだから、そんな光景に目を丸くする。


「前にも言ったけど、ここの民は人間に憧れているからね」と説明してみたものの、いったいどこから電話ボックスを持ってきたんだよって驚かずにはいられない。


「信号は機能してないみたいだな」

「電気は通っているのかしら?」


 人間が使う道具はあっても、発電する設備まで整っているかは謎だ。


 そもそも電線がないんだから、電気のことはあまり期待しないほうがよさそうだな。

 日本の送電システムは世界的に見てもすぐれているっていうが、イヌのときだって、たいして電気を必要としてたわけじゃないんだがね。

 

 そこでチャウ丸がポケットからゴソゴソと取り出す。


「すごっ、それスマホだよね?」とおれは感動。


「ただネットがつながるかはわからんが。だってここは異世界なんだろ? こんなところまで電波が届くとは思えんからな」


 たしかに異世界まで電波エリアに収めてサービスを提供する通信キャリアはたぶんないはずだ。

 もしそんな会社があったら······うん、侃々諤々(カンカンガクガク)ありそうだね。

 

 チャウ丸はすっかりイヌの肉球から変化した人間の指でぽちぽちやってる。

 やはり過酷な環境を生き抜いてきたチャウ丸は、あらゆる知識に長けているようだ。

 

 当然だがおれはイヌのとき、スマホなんていじったこともない。

 ジーコは肌身離さずって感じだったし、よっぽどおもしろいものなんだろうな。

 

 そんなジーコによるスマホの記憶はかなり漠然としていて、(ヤツ)がハマったロープレの記憶がうっすらといったところか。

 脳がフュージョンしても、まるまるジーコの記憶を把握できるわけでもなさそうだな。   

 めんどくさがりの性格とか、感情の記憶や人間界の知識などに限られるみたいだ。


 そして両替所へ。


 すると店の主人が「おっ」と関心の目を向けてきた。

 おれは一度会ってるが、人間の姿のふたりを連れているのだから、驚かないはずがない。


「換金をお願いしたいんですけど」

「どんなものがありますか?」


 声がちょっと上ずっているのは、すでに興奮しているからか。

 この前、換金したゴムボールの衝撃がまだ彼の頭に残っているのだろう。


 今回おれは、村山家の庭から拝借してきた未使用の植木鉢を差し出した。

 これにも両替商は目ん玉が飛び出んばかりの反応だ。


 そんな植木鉢はヤメー6枚になった。

 宿三泊分の価値があるわけだから、わりがいいよね。

 

 そこでチャウ丸がドンッ!

 

 スーツケースを倒し、仰々しく開けはじめる。

 興奮気味にカウンターから覗き込む店主の顔には、すでに脂汗が浮いている。


「これで、いくらだい?」


 その中にはあらゆるものがあり、おれも目を見開いた。

 栓抜き、乾電池、電話の子機、自転車のベル、ヨーヨー、歯ブラシ······あれはリコーダーを掃除するときに使う名称不明の棒か?


「すごいね······」

「さすがガラクタ帝王」


 シャムりんも唖然(あぜん)とした顔を近づけている。

 いよいよ店主は耐え切れなくなったのか店の外に出てきて、ひとつひとつに触れていった。

 その手つきは、いかにも王宮の宝物を扱う鑑定士のようだな。


 こんなガラクタがぁ?

 って思ってしまうが、やはり人間界の品はマガハラ大陸ではかなりの価値があるらしい。

 しかも持ってきたばかりのホヤホヤの現品となれば、値打ちにも期待できるかもしれない。


「これはすごい······おおっ、これは······これも······」


 ブツブツ独り言を口にしながら店主がはじき出した換金総額は、なんとヤメー180枚。


  ······え? う、嘘だろ?

 

 これまでとは(けた)がちがいすぎて、最初は聞きまちがいかと思ったが、店主が大量の銅貨をカウンターから出したのだから驚きだ。


「やっぱりこれが高価だったのかな」とチャウ丸が自信ありげに示した先には、何やら(キラ)びやかなもの。


「まさかそれって――金塊?」

「金の延べ棒ってやつだ」


それはキラリと陽光を反射させている。


「なんでそんなの持ってるの?」


「前にいた保健所の所長からかっぱらってきたのさ。アイツにはいたぶられたから、これでもおつりがくるくらいさ」

 チャウ丸はそのドヤ顔を店主に向ける。


「で、これ、どれくらいなの?」


「あー、それは数えておらんかった。ん〜、ヤメー2枚ですな」


「はぁぁぁぁあ?」


 そりゃ、そうなるよね。

 おれだって世界の中心でそう叫びたくなったもん。


「じゃあ、これは売らねえ」


 チャウ丸はきっぱり延べ棒を引っ込める。

 たしかに人間界で使ったほうが、もっと有益だろうね。


 それにしても金の延べ棒がヤメー2枚て······鳥の骨二本と同じかよ。


 まあ、あれだけのごみ(ジャンク)が売れてこの世界で役立ててもらえるのなら、売る側もよし、買う側もよし、この世界もよし、の近江商人〝三方(さんぽう)よし〟精神の成立だな。

 

 ということで、換金したヤメー貨幣を持って村を散策。

 もちろん最初に向かったのは、ふたりが不満タラタラだった服屋だ。


 到着すると、やはり店の主人はおれらを見てお約束どおりの驚き顔になった。

 シャムりんは軽やかな足取りで店内へ。


「けっこういろんな服があるな」


 たしかにそこには、人間界でも見かけるたくさんの服。

 ティーシャツやズボンなどがユ○クロばりにそろってる。


 ほかにもフリルのスカートやワンピース、ブレザー、セーラー服、調理服。

 パイロットや警察官の制服、牧師やチアやホテルマンの格好なんてのもある。

 おお、あれはワールドシリーズを制覇した某球団のユニフォームじゃないか。


 てことはマガハラ大陸には、そんな衣類を作る職人がいるってわけか――。


 ただどこから人間界の衣類の情報を得ているのかは不明だ。

 彼らが人間界を訪れてるとは思えんからね。

 獣人さながらの彼らが地球に来たら、すぐにネットにあがって話題騒然だろう。

 

 ふと見ると、かわいいもの好きのシャムりんの目は、湖面みたいにキラキラ輝いている。

 おれもいろんな服を見て、気分がハイになってきたぜ。

 だってヒトにでもならないかぎり、こんな格好は一生できないからね。


「好きなものを選びな。おいらのおごりだ」と気前のいいチャウ丸の手には、すでに黒の革ジャンが握られている。

 おっ、チャウ丸はライダー路線ね。


 迷いに迷いけっきょくおれが手に取ったのは、あたりさわりのないシャツに黒のズボン。

 役所の職員みたいだけど、ま、いーや。 

 いざ選ぼうとしたら、目がチカチカしてきてよくわからんかった。

 おれ、選ぶの、へたっぴみたい。

 やはり贅沢(ぜいたく)とは無縁の育ちのおれは、何かを選ぶことに慣れてないのかもな。


 いわんやジーコも、欲しいものを我慢ばかりしてきたってことか。

 だってこの脳はジーコと共有しているわけだからね。

 

 たぶん外食しても、両親を気遣っていちばん安いやつを選んでたんだろうな。

 おれもチャウ丸のおごりとはいえ、なんか申し訳ないなって値札を見て気を遣ってしまうもん。

 貧乏性が骨の随まで染みついとる。

 

 そこでシャムりんが試着室から現れた姿に、おれはゴクリと息を呑んだ。


「このドレス、すてきでしょ?」


 それはドレスというより、長袖の黒いレオタードだ。

 たぶんシャムりんはもともと、お色気路線への憧れがあるんだろう。

 まさにキャッツアイって雰囲気だな。


 (えり)ぐりが大きくひらいて妙にセクシーだが、腰に巻いた豆しぼり模様の手ぬぐいはどこか拍子抜けだ。

 首のリボンはそのまんま。


諜報員(スパイ)でも始めようってわけかい?」とチャウ丸が冷やかす。

 試着室には山のようにドレスが転がってるので、いろいろ試したうえでのこの格好だったのだろう。

 やっぱ女子は服が好きなんだね。

 もし可能ならインスタにアップしそうな勢いだもん。


「どう?」とシャムりんに聞かれたが「ああ、いいと思うよ」としか言えない。

 じっさい、似合ってないかと言えばそうでもないし。

 ただ〈魔性のドレス〉と書かれたタグがどうも気になるけど。


 ということで、さしあたりの格好はこれで決まり。

 

 が、見るとチャウ丸の革ジャンは(そで)なしじゃないかよ! 

 しかもオレンジ色の短パンて。バランス······。

 おれの視線に気づいたチャウ丸が、腕毛まる出しの革ジャンをひるがえして言った。


「かっこええやろ?」


 同じイヌでもこんなに価値観がちがうものかと、はじめて知ったよ。

 こりゃ、この先もふたりには驚かされることになりそうだな······汗。

スーパーで食材を選ぶのでも迷いますよね。

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