第8話 仲間たちが大変身
「ほんとにここを通ったら、未知なる大陸に続いてるのかよ」
チャウ丸が疑わしげに犬小屋を見るのも当然だ。
おれだって、いまだに手の込んだ夢みたいだなって思ってるくらいだからね。
ということで、彼らを誘った言い出しっぺのおれが先頭で犬小屋へ入っていく。
大荷物のチャウ丸のスーツケースはなんとかギリ、入り口を通過。
おれが中から引っぱり込み、荷物のあとからふたりも続く。
すると暗闇の前方から琥珀色の光が見え、やがて宿屋の二階の物置部屋へ到着。
そこでふたりは、真っ先にからだの変化に声をもらした。
「すげえ、マジかよ······」
「やだ、あたしのからだ······」
だよね、やっぱそうなるよね??
二本足で立っているふたりの姿におれも見入るわけだ。
だって、さっきまで四足歩行だったふたりが人間みたいになってるんだもんな。
マジックショーでも見せられてる気分だよ。
あの犬小屋、まじハンパないね······。
「鏡を見てみなよ」
「おおおっ!」
「わああっ!」
わかるよ、その驚き。
おれも最初は天変地異かってほど、ぶったまげたもんな。
原型もわずかに残した顔をなでるチャウ丸は、がっしり体型の剛毛ヘアで、腕毛もだいぶ濃い。
「ねえちょっと、いろいろ微妙なんだけど」と苦情口調のシャムりんの顔も、猫のときの雰囲気がある。
薄茶色のショートヘアは、手入れされた毛並みが反映されているのか艶やかだ。
「うーん、マッチョレベルが足らんなあ」
「もうちょっと足が長くならないの?」
「あごはもっとシャープなほうがいいな」
「おれに言われても困るよ」
まるでおれがふたりのからだをデザインしたみたいな感じで言うんだもん。
そこでコンコンコンコンと階段をのぼってくる音。
「げっ、だれか来たぞ。いいのか?」
「ここはおれにまかせて」
現れた宿屋の娘のリナは、当然だがこっちの状況を見て驚いた。
「こんちは」と笑みを向けるチャウ丸。
「どういうこと?」とおれを見るリナ。
「地球で暮らしていたときの友だちなんだ。しばらく一緒に過ごそうということになってね」
けっこう苦しい言いぶんだが、ここは耐えないといけない。
「どこから入ってきたの?」
チャウ丸が答えそうになる前に、おれが返事をする。
「村の外でばったり会ったんだ。彼らにもよくわかってないみたい」
そしてふたりに向かって、何もしゃべるなよと目で訴えるわけだ。
リナはじーっとふたりに懐疑的な目を向ける。
まあその気持ち、わからんでもない。
突然、人間らしき者がふたりも追加してたら戸惑うよね。
ほんとは彼女にはすべて正直に話したいところだが、まだこの大陸のことがよくわかってないし、事を急がないほうが無難だろう。
「でも人間の姿、すてきね」とリナは羨ましそうな声。
「そうでもないわ」とシャムりんが苦情の目を自分のからだに向け、そのままおれに質問。
「ねえ、猫の六歳はヒトの三十歳って聞いたことあるけど、ほんと?」
「六歳だったの?」
「知らないわ。ヒトの三十って、いい感じなんでしょ?」
「まあ、どうだろうね」
おれだって、ヒトになったのははじめてだから、よくわかりまへん。
でもジーコの脳によると、リーマンならバリバリ働いてて、自分で稼いだカネで好きなもん食えて、休日はサブスクでアニメ観まくりゲームし放題でも誰にも文句を言われず、なかなかステキな年代らしい。
それって、ホントなの?
まあ、あくまで高校生のジーコの勝手なイメージなんだろうけど。
「じゃあ、おいらは四十ってところか」とチャウ丸。
「見た目は二十代だね」
じっさいイヌの雰囲気も残るチャウ丸の顔は若々しい感じがする。
くしゃっと潰れた特徴的な顔がヒトの姿にも反映されていて、なんとも愛らしい。
そしておれも、おっさんというほどでもない。
ジーコよりは、やや年上って感じがするから、おそらく二十歳くらいか。
「シャムりんは若く見えるよ」と見たまんまの感想を言ってみた。
「あら、そお?」
まんざらでもない様子のシャムりんは、鏡に向かってポーズをとっている。
からだのラインがきれいに見えるのも、もともとのシャムりんの体型によるものか。
「宿代は三人分もらいますからね」と、この中でもっとも見た目が若いリナ。
「ああ、もちろんさ」とチャウ丸が懐から一万円札を差し出した。
「それ、どうしたのよ?」とシャムりん。
「これでもカネくらいは持ってるさ」
「それじゃ支払えないわ」とリナがピシャリ。
「この宿、そんなに高いのかよ?」
「ヤメーという貨幣に換金しないといけないんだ」とおれが説明を添える。
「だったらすぐにでも出発しようぜ。この格好もなんとかしたいしな」
「すっごく同感!」
くすんだ色合いの地味な衣装に目を向けるシャムりん。
おれはべつになんだっていいんだけど、女子はかわいい服を着たいものだもんね。
貝の首飾りをしたリナはしばらく興味深げにふたりを観察したあと、「パパに伝えとくわ」と言って階段をおりていった。
「あの穴から来たことは内緒にしてるんだな? まあ、そのほうが無難だろうな」とチャウ丸。
「で、何を換金するつもり?」とシャムりんの目はスーツケースに向いている。
「あとでのおたのしみさ。それには何が入ってるんだい?」
「レディーにそんなことは尋ねないものよ」
ラメ入りのキラキラポーチを開けていく。
そして中から何かを取り出し口の中へ。
「ニボシかよ」
「小腹がすくでしょ」
ムシャムシャしながらポーチの中をちらりと見せる。
どこで仕入れてるのかは知らんが、まさに女子の携帯品って感じだ。
マグロは止まると息ができずに死ぬらしいが、彼女も美容をやめたらやっていけないかもしれんな。
リップとハンドクリームが見えたところで、シャムりんはハンカチで口もとをぬぐってからポーチに収めた。
「さあ出発しましょ」
シャムりんの女子力······




